One Frame Theater Vol.14 『流浪の月』心震える…愛の物語

流浪の月

2022年10月1日 追記

凪良ゆうの2020年本屋大賞を受賞作を
李相日監督が映画化した『流浪の月』

2022年9月10日は中秋の名月ということで、ふと月つながりで本作『流浪の月』を思い出し、この記事を追記しています。パブサしたところ、現在 U-NEXT では、U-NEXT限定 未公開映像特典付き『流浪の月』を独占配信中。せっかくなので『流浪の月』と中秋の名月を一緒に楽しむのもいいかもしれません。ちなみに10月1日はコーヒーの日、毎月23日は「ふみの日」です。

https://twitter.com/rurounotsuki/status/1576030912810098688?s=20&t=Tol_RhluAaB-S2ZOmuuKAA

さて『流浪の月』が公開されたのは、2022年5月13日(金)。もう5ヶ月が経とうとしていますか…。

広瀬すずちゃんと松坂桃李くん主演で話題になりましたが、主演作『線は、僕を描く』の公開も控える横浜流星さんの熱のこもった演技にも驚かされました。自身もどうにもできない…感情を、あぁいうカタチでしか表現できない悲しみ。本当にかわいそうなのは、もしかして彼のような人なのかもしれません。多部未華子さん、内田也哉子さん演じる役どころもそうですが、ふとふりかえると、どの登場人物にも寄り添いたくなる不思議な作品で、だからこそ、あの「登場人物たちは元気かな?」とぼんやり思うのです。

物語は「家に帰りたくない…」事情を抱えた10歳の少女更紗が公園でひとり本を読んでいるところから始まります。雨が降り始めても、帰る気配のない彼女にそっと傘をさしかけたのは、19歳の大学生、文。「うち、来る?」そんな一言から始まった、ふたりの共同生活。文が「ひくほど自由」と表現する更紗は、夕食にアイスクリームを食べ、目玉焼きにはたっぷりケチャップ、ピザを食べて寝ころびながらアニメをみる、とても天真爛漫な女の子に見えます。そんな彼女の姿に、いつしか救われていく文、そんな時間は長くは続かず、夏の終わりに突然終わりを迎えます。

当然、世間から見たふたりは「少女誘拐・監禁事件」の被害女児と加害者

更紗がどんなに「違う」と訴えたところで

更紗は事件の被害女児として、文は世間を大いに騒がせた加害者として…その後の人生を過ごすことになります。

そして、15年後…カフェで偶然の再会を遂げるふたり。許されないふたりの物語がスクリーンに映し出されます。

10歳の更紗を演じるのは、白鳥玉季ちゃん。ドラマ「テセウスの船」や映画『ステップ』や『極主夫道 ザ・シネマ』にも出演しています。文と暮らすことで、叔母の家から解放され自由を取り戻す更紗を、のびのびと演じています。その時間は、映像もポップで柔らかく、ひだまりのような温かさを感じます。そして、劇中に登場する、エドガー・アラン・ポーの「ポー詩集」の一篇が、「他の子とは違う」ふたりが置かれている立場や未来を暗示しているのも印象的です。

そして成長した更紗を体当たりで演じきったのが、広瀬すずちゃん。私たちには、想像できないような時間をたくさん過ごしてきただろう日々を感じさせる繊細な演技で、運命に立ち向かっていきます。それを受け止める文を演じるのは、松坂桃李くん。徹底した身体作りでビジュアルを作りこみ、難しい役どころに光と影を交錯させながら、運命から目を背けず生きていこうとする文を体現しています。

更紗と文。ふたりを待ち受けるのは、世間という冷たい風や視線です。更紗には、亮という横浜流星さん演じる恋人がいます。一流企業に勤める彼は、一見とても素敵なナイスガイに見えますが、その内にあるのは脆さと危うさです。文にも多部未華子さん演じる看護師の恋人がいます。15年前の事件が、白昼にさらされた時。その関係が、どう変化していくのかも、見どころです。

ちなみに、劇中でカフェ「calico」をひっそりと営む文。柄本明さん演じる阿方が営むアンティークショップの2階にあるその店は、落ち着いた雰囲気で読書をしながら、ひとりの時間を過ごすのに良さそう。文が一杯一杯丁寧に淹れてくれるコーヒー、映画を観ると飲みたくなってしまいますよね。実際に、撮影中コーヒーを淹れる練習をした松坂くん。いれたてのコーヒーを提供する喜びに目覚めた彼は「めちゃくちゃ美味しいものを更紗に飲ませる!」という強い思いで淹れていたようですよ。calicoは英語で「更紗」という意味だそうです。

さて、この作品を「心震える…愛の物語」と書きました。

純愛、求める愛、ひとりよがりな愛、慈愛、愛情、母親の愛、愛にはいろいろなカタチがありますが、このふたりにとって愛は、もっと大きなものに思えます。一緒に居ることで、お互い「こうあるべき」という緊張感から解きほぐされ、自分らしくいられるようにも見えます。だから、文から引き離された更紗は、感情を一生懸命閉じ込めていたのかもしれません。でも、文に再会して、少しずつだけど、更紗らしさが戻ってくる。最後、彼女が見せる愛のカタチは、少しだけ希望を感じさせます。これから先、たくさん大変なことがあって、辛い立場に立たされるかもしれないけど、それでも、ふたりには幸せになって欲しい。そんなことを思いながら映画館を後にする映画でした。

繊細に揺れ動く、更紗と文の物語を感じて欲しいです。

『流浪の月』予告編

映画『流浪の月 エピソード0 』ダイジェスト版

『流浪の月』は2022年5月13日(金)よりミッドランドスクエアシネマほかにて公開中!

企画・構成 にしおあおい イラスト のらくら

作品紹介

帰れない事情を抱えた少女・更紗(さらさ)と、彼女を家に招き入れた孤独な大学生・文(ふみ)。居場所を見つけた幸せを噛みしめたその夏の終わり、文は「誘拐犯」、更紗は「被害女児」となった。15年後。偶然の再会を遂げたふたり。それぞれの隣には現在の恋人、亮と谷がいた。

『流浪の月』
監督・脚本:李 相日 原作:凪良ゆう
撮影監督:ホン・ギョンピョ
音楽:原 摩利彦
出演:広瀬すず 松坂桃李 
横浜流星 多部未華子 
趣里 三浦貴大 白鳥玉季 増田光桜
内田也哉子/柄本明
配給:ギャガ 上映時間:150分
公式サイト https://gaga.ne.jp/rurounotsuki/
公式Twitter @rurounotsuki
©2022「流浪の月」製作委員会

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