目次
耐えがたい現実に人はどう折り合いをつけていくのか
『空白』
吉田恵輔監督のオリジナル脚本で、古田新太と松坂桃李が出演、となれば観ずにはいられない。
万引きを咎められた中学生の少女が、逃げる途中で車にはねられ死亡する…
この事故の一部始終を生々しく写した衝撃的な場面に胸ぐらを掴まれ、一気に映画の世界へ引きずり込まれる。
そして事故に関わった人たちの辛さや苦しみ、人生が狂っていく様を目の当たりにして、胸が締め付けられていく。
マスコミの無責任な報道や撒き散らされる悪意、誰もが加害者にも被害者にもなりえる怖さ、正しさとは何かを探る試みは『由宇子の天秤』と共通している。
けれどこの映画が描くのは、大切な存在を失った人間が、耐えがたい現実にどう折り合いをつけていくのか。
娘を奪った相手を赦せず、怒りと憎しみで周囲を追い詰める父親も、諦めたように生きるスーパーの店長も、正しさと善意を押し付けるスーパーの店員も、罪の重さに押し潰されるドライバーも、みなが痛々しくて悲しくて。
そんな人間のどうしようもなさもひっくるめて描き出す吉田恵輔監督はやっぱりすごい。
全身に怒りをみなぎらせた古田新太、生気を消し去った松坂桃李をはじめ、俳優たちの演技にも圧倒された。
脇役も全員素晴らしいけど、人の懐にスッと入り込む藤原季節のナチュラルな存在感は、この映画でも光ってた。
さて今回の写真は辛い物語のなかでささやかな希望をくれるアイテムをチョイス。
筆と絵の具は亡くなった少女が描いていた絵から。
さらにもうひとつは松坂桃李が店長をつとめるスーパーアオヤギの人気商品やきとり弁当を。
中身ははっきりわからないのでイメージで。
やきとり弁当の存在に観ている私も本当に救われた。
映画「空白」公開中
出演:古田新太 松坂桃李 田畑智子 藤原季節 趣里 伊東蒼 片岡礼子 / 寺島しのぶ 監督・脚本: 𠮷田恵輔 ※𠮷田監督のよしは土となります。 音楽:世武裕子 企画・製作・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸 制作プロダクション:スターサンズ 撮影協力:蒲郡市 配給:スターサンズ/KADOKAWA 製作:2021『空白』製作委員会 (C)2021『空白』製作委員会 公式サイト:kuhaku-movie.com (C)2021「空白」製作委員会
[フォトdeシネマ]
映画ライター 尾鍋栄里子(おなべえりこ)
映画館バイト→雑誌映画担当→映画ライターと、人生の半分を映画業界の片隅で生きる名古屋人。
朝日新聞、中日新聞、フリーペーパーなどで映画紹介記事を執筆中。
映画フリーペーパー C2【シーツー】web版ブログ〝オー!ナイス!”不定期掲