成島監督が制作秘話明かす『52ヘルツのクジラたち』名古屋のイベントで(前編)

名古屋で行われた『52ヘルツのクジラたち』のトークイベントで制作秘話などを語る成島出監督

<松岡ひとみのシネマコネクションVOL.56『52ヘルツのクジラたち』>
大分で運命の出会い!あの海を見下ろした風景に呼ばれた気がした

映画パーソナリティーの松岡ひとみさんが、セレクトした映画の上映とトークを行う<松岡ひとみのシネマコネクションVOL.56>が10日名古屋のミッドランドスクエア シネマで行われ、話題作『52ヘルツのクジラたち』から成島出監督と横山和宏プロデューサーが登壇! 映画制作の裏側や作品への想いを語ったり、ファンとの交流を深めました。

※ あまりに内容が盛りだくさんなので、今回は前後編に分けてお届けします。

全国300館のスクリーンに声なき声を届けたい!

本作は、2021年本屋大賞に輝いた町田そのこさんの同名小説を成島出監督が映画化したヒューマンドラマ。大分を舞台に、現代人が抱えている孤独とそこに寄り添う魂の絆を繊細に紡いだ物語は、大きな反響を呼んでいます。

映画化を発案したのは、横山和宏プロデューサー(以降、横山P)。主人公の貴瑚と彼女が助けようとする少年の関係に“疑似家族”というワードが浮かんだという彼は「監督の撮っている『八日目の蝉』に近しいものを感じてお願いしようと思いました」と振り返る。

「原作を読んでもらったら、『プロデューサーに会いたい』と連絡が来たので『やってくれるんだ!』と思いながら、ギャガ(配給会社)に来てもらったんです」

ところが、成島監督の返事は想像しているものとは違っていたという。「『ちょっとこの原作は難しいと思うよ』と言われて…『まさか断られる?』みたいな雰囲気になって『ヤバイヤバイヤバイ』と思いました。パンフレットとかにも書かれてますけど『この声なき声を届けたい!全国300館のスクリーンで届けたいんです』って必死に熱弁して…監督は若干ひいてましたけど(苦笑)」と熱意で押し通したそう。

それを受けた成島出監督(以降、成島監督)は「繊細な題材がこう山積みになっているので。映画では、文字で説明されている部分も、役者のセリフや肉体だけで表現しなくてはいけない。作り手にとっても役者にとってもすごくハードルが高いことなんです。しかも書かれている内容は『どれもすごく大事な問題』生半可に扱ってはいけないのに、それにひとつひとつ誠実に向き合いながら2時間ちょっとでやるのは、ミッションインポッシブル(極めて危険で難しい任務)だなって思ったんです」と真摯に向き合ったからこその言葉だったと明かす。

横山P「もちろん監督のご懸念も考えもすごくわかったので、こちらとしては一緒に『上澄みをすくう』のではなく、きちんと深く向き合って作ることを一緒にやっていきましょうとお話しました。」

成島監督「そこからが長い道のりで…、今日、こうやってみなさまに観てもらえているのは本当に感慨深いです。」

松岡「実際、映画化が決まるまでに、どのぐらいかかったんですか?」

横山P「21年に本屋大賞を受賞して、その後コンペティションという形で数十社の中から選んでいただいて」

松岡「コンペですか?」

横山P「そうですね。ベストセラー作品や人気作は、コンペ形式で決まるものも結構多いんですよ。監督が『八日目の蟬』を演出なさっていることもあって、出版社の方も期待をして下さいましたね。」

成島監督「『八日目の蟬』も中央公論新社という同じ出版社だった。そのご縁もあって」

横山P「そこから3年ぐらい?」

松岡「その間に、他の作品を撮りながら?」

成島監督「そうそう。準備を進めながら『ファミリア』と…あれ?どの順番だったかな?公開は続いたんですけど、撮ったのは少し離れていたんで」

ちなみに編集部で調べたところ『ファミリア』が2020年3月にクランクイン、コロナ禍で期間が空いて2021年冬に撮影が再開、2022年の5月から6月に『銀河鉄道の父』を撮影。本作は2023年の8月から9月に撮影されたそうです。

貴瑚の家を偶然見つけることができたのは幸運でした!

横山P「(原作が大分を舞台にしているので)最初は大分にシナリオハンティングに行きました。脚本の龍居由佳里さんとプロデューサーチームと成島監督で行って、そこで劇中に出てくる貴瑚の家を偶然見つけることができたというのがあって、あそこは田ノ浦ビーチの上のほうなんですけど、そこで辺りの風景を見ながらハンティングしていた時に、たまたまその家の大家さんが、家の維持のために大掃除に来てたんですよ。そしたら龍居さんがいきなり『家、見せてもらえませんか?』ってお声がけして、快く受け入れて下さったことが、使う経緯へと繋がりました。」

松岡「セットではないんですね」

成島監督「そうです!今回、最初に大分に行った時に、貴瑚の家と防波堤と、とり天のお店、あと煙突の町とかも見つけて。それで、今話に出てきた家の大家さんが『昔はザトウクジラが来たんですよ』って言ってて『田ノ浦ビーチの沖で潮吹いてた』と。我々は、よく映画の嘘で『大分』という設定で、房総半島や伊豆で撮ったりするんですけど、これはもう『大分に呼ばれてる!』って。『これでまた逃げれなくなったな』という感じはありましたね。そんなことなかなかないです。しかも一発で。その後も、制作部さんがいろんなとこ探してくれたんですけど、やっぱりあの家に適うものはなかった。映画を観てもらうとわかるんですけど、我々もあの風景には随分救われました。東京編だけだったら絶対行き詰ってたし、辛いだけの映画になるところでした。あの海を見下ろす風景と、風と光が、我々を助けてくれました」

美術部が象徴的なテラスを増築
宙に浮くような非常に神秘的な場所に

松岡「劇中で印象的に登場するテラスですが、あれはもともとあの家に?」

成島監督「あれは僕がリクエストして、美術さんに作っていただいたものです。」

横山P「原作だと縁側なんですけど、家の縁側だとそこまでの広さはなかったので、監督のアイデアで、京都の鴨川にあるような川床式のテラスを美術部さんに作っていただきました。美術部のアイデアであの亀甲模様の六角形のテラスが生まれて、非常に神秘的な場所になったのかなと思います。」

松岡「映画を観て、行ってみたいと思ったけど、もうないんですよね」

成島監督「残念ながら。残して、もし怪我でもしたら大変なことになるので、泣く泣く解体しました」

横山P「あと上と下で持ち主が違うんですよ。今考えると、よく許してくれたなって思いますね」

成島監督「捕鯨船って、一番高いところに丸いデッキ(見張り台)があって、そこでクジラを発見する人のことをボースン(甲板長)と呼んでいるんです。黒澤明さんの『天国と地獄』にも「ボースン」というあだ名の刑事が出てくるんですけど…。だから僕は、勝手にそのデッキ(映画に出てくるテラス)のことを「ボースンデッキ」って呼んでいるんです。イメージしたのは「ボースンデッキ」のような、空に浮かんでいて、天空にも行けるような場所。そんな風にできたらいいよねって話をさせてもらって、あとは美術部が見事に応えて設計してくれたっていう。映画ならではのシーンは、このテラスがあったから生まれたものなんです。あのテラスがあったからアンさんはあそこに立てたんですね。」

おいしすぎてキャストも思わずどハマり
媛乃屋食堂のエピソード

愛の母・琴美を西野七瀬が演じる

劇中に登場する食堂は「媛乃屋食堂」といって実在するお店なんだとか。少年の母親(西野七瀬)が働く店として登場します。

松岡「私、食いしん坊で申し訳ないんですけど、食堂の「とり天」が気になって気になって、あれは地元の名物なんですか?」

横山P「名物です。大分は、とり天とかりゅうきゅう(地元でとれた新鮮な魚を、醤油、酒、みりん、ごま、しょうがでつくるタレと和えていただく、大分の代表的な郷土料理)とか、宮﨑が近いこともあって唐揚げも有名です。先ほど、お話したシナリオハンティングで、媛乃屋食堂にも昼食で行って、とり天定食をはじめ、どの料理も非常においしいんですよ。しかも琴美(西野七瀬/少年の母親)のいる店に、すごく近い雰囲気が出せるんじゃないかなと、シナハンなのにロケ撮影の許可をお願いしたっていう(笑)」

松岡「じゃあ、あのお店は実在するんですね!」

成島監督「あるんです!それで、とり天セットっていうのは、とり天とりゅうきゅう丼っていう魚の漬け丼みたいなものなんですけど、そこに使われてる魚が関サバ、関アジなんですよ。贅沢に。安い1000円ぐらいでしたっけ?」

横山P「もうちょっとしますね1200円とか」

成島監督「それでも、すごく安くてあまりにおいしいのでハマっちゃって、媛乃屋さんには本当によく通いましたね。花ちゃんもすごく気に入って、近くでロケした時は、3連チャンしてましたね。」

松岡「大分に行ったら、ぜひロケ地巡りの行程に加えたいですね」

成島監督「媛乃屋のご主人も映画に出ています。あれ本物のご主人なんです。媛乃屋のご主人は、週に一度は沖に出て釣った魚を捌いて、メニューとして出しているので非常に鮮度が高いんですよ。」


トークが盛り上がる中、質問コーナーに。キャストとの撮影の裏側や音楽について熱く語った内容は【後編】でお届けします、お楽しみに。

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映画『52ヘルツのクジラたち』は、2024年3月1日(金)よりミッドランドスクエア シネマほか全国で大ヒット公開中。ぜひ、映画館の大きなスクリーンで「声なき声に」耳を傾けながら、みて、感じて、語りあって下さい。

ホスト役(MC):松岡ひとみ 取材・文:にしおあおい シネマピープルプレス編集部

ドラマチック×シネマチック では、さらに監督を深堀り

そしてイベント終了後には、YouTube番組『ドラマチック×シネマチック』の収録も!
映画プロデューサー森谷雄さんも加わり、ノンストップで行われた収録は、さらなるキャスティング秘話や裏話も、大いに盛り上がりましたよ。

https://youtube.com/@user-en4lr2qh9b?si=31HTs3uB8kabifLV
↑ ぜひ、チャンネル登録もよろしくお願いします!

プレゼントに応募する!

さらに、シネマピープルプレスでは『52ヘルツのクジラたち』応援企画として、特製トートバックが当たるSNS連動プレゼント企画を実施中。この日、監督にみなさんが投稿された感想をお伝えすると、とても喜んでいましたよ。詳細は下記ページをチェック!

作品紹介

『52ヘルツのクジラたち』プレゼント紹介記事傷を抱え、東京から海辺の街の一軒家へと移り住んできた貴瑚は、虐待され、声を出せなくなった「ムシ」と呼ばれる少年と出会う。かつて自分も、家族に虐待され、搾取されてきた彼女は、少年を見過ごすことが出来ず、一緒に暮らし始める。やがて、夢も未来もなかった少年に、たった一つの“願い”が芽生える。その願いをかなえることを決心した貴瑚は、自身の声なきSOSを聴き取り救い出してくれた、今はもう会えない安吾とのかけがえのない日々に想いを馳せ、あの時、聴けなかった声を聴くために、もう一度 立ち上がる。

作品名:52ヘルツのクジラたち
監督:成島出 脚本:龍居由佳里
原作:町田そのこ「52ヘルツのクジラたち」(中央公論社)
主題歌:Saucy Dog「この長い旅の中で」
出演:杉咲花 志尊淳 
宮沢氷魚 小野花梨 桑名桃李
金子大地 西野七瀬 真飛聖 
池谷のぶえ 余貴美子 /倍賞美津子
2024年/日本/カラー/ビスタ/5.1ch/136分
配給:ギャガ
©2024「52ヘルツのクジラたち」製作委員会 
公式サイト:https://gaga.ne.jp/52hz-movie/
公式X:@52hzwhale_movie



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