リハで見せた志尊淳の叫びに手応えも『52ヘルツのクジラたち』制作秘話(後編)

<松岡ひとみのシネマコネクションVOL.56『52ヘルツのクジラたち』>
クジラの声が流れる本読み!スタッフキャスト真剣勝負のリハーサル

10日名古屋のミッドランドスクエア シネマで行われた<松岡ひとみのシネマコネクションVOL.56>に登壇した成島出監督と横山和宏プロデューサー。映画制作の裏側やファンからの質問に答えました。イベントレポート後編です。

『52ヘルツのクジラたち』制作秘話(前編)

※ あまりに内容が盛りだくさんなので、今回は前後編に分けてお届けしています。

非常にセンシティブな題材だから
専門の方にたくさん入っていただいてミーティングを重ねました

イベント後半は、会場の観客の質問に成島監督と横山プロデューサーが質疑応答に答える形で進行しました。

観客「俳優のみなさんの演技が素晴らしくて、大好きな原作がよりいい映画になったような印象を受けました。杉咲花さんも近年成長著しいと感じているのですが、俳優陣のエピソードとかありましたら教えて下さい。」

松岡「主人公・貴瑚役の杉咲さんとはかなり意見を交わし合ったとお聞きしています。」

成島監督「そうですね。今回はこういう役なので。安吾役の志尊くんや他のキャストもそうなんですけど、腑に落ちないものがあったり、どこか引っ掛かるものがあると、思い切って演じられないこともあるだろうと思い、シナリオの早い段階からミーティングを重ねて意見を聞きました。あとは、いろんな専門の方にも入っていただいたり、いろんな方に相談して。ご覧になるとわかるように、この映画は俳優にとって演じるのに勇気がいるんですよね。その「怖い」という恐怖を「大丈夫ですよ」と取り除いて安心してもらうための環境づくりは大事にしました。

例えば、トランスジェンダーの監修をしてくれた佑真くんは、劇中にも出ているんですけど、すごく丁寧に志尊くんともやってくれて。花ちゃんも、ヤングケアラーから、虐待から、いろんなことを考えながら納得して作っていくために『少しでも引っ掛かるところがあったら遠慮しないで言ってね』という形で作って」

松岡「横山さんは、一番近くでご覧になっていたと思うのですが、印象的なやりとりみたいなものは?」

横山P「印象的なのは、1週間のリハーサルです。本読みにしても、通常の本読みと違って録音部さんがマイクを立てて録音するんですよ。実際に、クジラの声を流したりして、そういう中で本読みをする。

その後、1週間かけてリハーサルをしていくんですけど、重要なシーンはほぼやったんです。それによって、撮影前に俳優陣は「こうやればいいんだ」っていうのが見えてきたんじゃないかと思います。

あと監督自身は、最初から100%全力でやって欲しいというのは常々おっしゃっていて、それに対して俳優陣は演技で応えていて。中でも印象深いのは、志尊くんは叫んで崩れ落ちるシーン。あの演技をリハの一発目でからやったんですよ。あぁいう演技プランでくるなんて、想像してなかったこともあって、僕は非常に驚いたし感銘を受けて。非常に贅沢な時間を過ごさせていただいたし、手応えを感じました。」

松岡「貴瑚さんは、その全員と関わるキャラクターです。いろんなことを自分の中に落とし込むのは、大変ですよね。」

成島監督「リハーサル中は、みんなで集まってゲームみたいなことをやったり、あとはエチュードっていって、劇中には出てこないシーンとシーンの間にある出来事や時間を実際にやってみるなんてこともしていました。例えば、5歳の貴瑚がお母さんから受けてた虐待を実際に演じてみたり、そういうところから役を掴んでいくようなことをしていました。」

アンが貴瑚を救い、貴瑚が愛(いとし)救う
この流れを描くことが映画にとって大きな意味になる

観客2「いろんなことを考えさせられる映画でとても良かったです。アンさんから貴瑚そして愛(いとし)へとクジラの声が受け渡されるのがとても良かったのですが、アンは誰から受け取ったのかなーと気になりまして…」

成島監督「そこは、ちょっと設定せずに。うん。いくつかの仮設定はありますけど、偶然耳にしたものがすごく引っ掛かって、琴線に届いて大事にしていたという。映像だと、文字の情報以上にリアルになってしまうので、アンさんも貴瑚もギリギリのところで生きてきて、死にそうなところから物語は始まるし。

でも、今おっしゃっていただいたように、アンが貴瑚を救い、貴瑚が愛(いとし)を救うって流れが、この原作を映画にできる大きな意味だと思いました。それを伝達することは、映画を作る上で大事にしていました。」

ここから先は、少しネタバレを含みます。まだ未見の方は映画をご覧になってからお読み下さい。

 

 

作品制作秘話(前編) トップページに戻る

【ネタバレ】原作から変わったセリフ…意図したところは?

『52ヘルツのクジラたち』プレゼント紹介記事観客3「印象に残ったのはアンとお母さんの関係と、お母さんのセリフで。原作も読んだのですが、変わっていたのが印象的でした。私自身、セクシャルマイノリティということもあり、当事者や家族の方によくお会いしてお話を聞いていたので、小説も映画もとてもリアルに感じました。ポスターの写真をみて感じたことがあるのですが…」

成島監督「そこは、想像してもらえたら嬉しいです。原作から映画で少し変わっているセリフについては、原作の町田そのこさんが、この小説を執筆されてる当時と現在では、トランスジェンダーやセクシャルマイノリティについての距離感や考え方もだいぶ変わっているんですよね。今では使わない言葉を使っていたり、映画の場合は、そこがすごく大事だと思ったので、そういう風に描きました。

安吾とお母さんの関係は、すごい残酷だと思います。あれだけアンさんを愛しているお母さんが、結果的にアンさんを追い詰めていくっていう。絶望。あれが、多分リアルなんですよね。だから、映画では表現する必要があった。だけど、撮っていてとても辛かったですね。」

 

パンフレットとサントラおすすめです!

成島監督「今日は、俳優陣と一緒に来れたら良かったんですけど…」と口にした監督は続けて「今回パンフレットの出来がすごく良くって!さっきお話ししたような花ちゃんや志尊くんや、氷魚くんたちが、どう悩んで、どう役に向き合ったのかっていうインタビューや撮影裏話が割と充実しているので、じっくり読んでもらえると嬉しいです。あと、挨拶の冒頭でお話したサウンドトラック。これが本当によくて。最近、あんまりサウンドトラックをCD化しないんですけど、今回はお願いして作ってもらいました。台詞はなく音楽だけオープニングからエンディングまで繋がっているので、ドライブ行く時にかけるとか、劇中の大分の風景を思い出しながら聞いてくれると嬉しいです。これ営業じゃなく言ってます。」

横山P「今日はありがとうございました。 よろしかったら、感想投稿キャンペーンなどもやっていまして #52ヘルツきこえた で感想を書いていただけたら嬉しいです。映画を観て「52ヘルツの声」聞こえた方も多いと思うので、ぜひそういった声を「可視化」して、大きな声に繋げていければと思います。今日はありがとうございました。」

取材こぼれ話(音楽編)

この日、山形から名古屋に来た成島出監督と横山和宏プロデューサー。山形では、本作の音楽を担当した小林洋平さんとも一緒だったそうで、冒頭は音楽の話で盛り上がりました。

成島監督は「みなさんパンフレットに載ってる小林さんの経歴みたら腰を抜かしますよ!」と興奮気味にその経歴を紹介すると「僕、これ最初に見た時に、どういう方なんだろう?と興味がつきなくて…、音楽の作り方も、いわゆる普通の作曲家の方とはちょっと違って、緻密に積み重ねていく感じが、ちゃんと物語に寄り添っているのに距離感がコントロールされてて、普通はもっとベタってしてしまいがちなんだけど、さすがだなって思いましたね。」と語りました。

実は、彼を監督に紹介したのは横山プロデューサー『異動辞令は音楽隊』で小林さんに音楽をお願いした時に、クジラの声を使った楽曲があったので、成島監督に推薦させてもらいました。彼は、オーケストレーションを使うのもうまいんですけど、サックス奏者でもあるので『異動辞令は音楽隊』ではサックス奏者を演じた高杉真宙さんにサックスを教えてたりもしましたよ。」と裏話を披露しました。

わざわざ監督が、サウンドトラックをCDにした『52ヘルツのクジラたち』。CDを聴きながら、原作小説を読むのもいいかもしれませんね。

 


今回【前編】【後編】の2回にわけてお届けした『52ヘルツのクジラたち』イベントレポート。

まだ前編をご覧でない方はこちらからお楽しみ下さい ↓
作品制作秘話(前編) トップページに戻る

映画『52ヘルツのクジラたち』は、2024年3月1日(金)よりミッドランドスクエア シネマほか全国で大ヒット公開中です。杉咲さんや志尊さんのインタビューをはじめ、撮影裏話も多数掲載されているパンフレットは、上映劇場で発売中です。監督「激推し」のパンフレットよかったらお手にとってみて下さい。

ホスト役(MC):松岡ひとみ 取材・文:にしおあおい シネマピープルプレス編集部

ドラマチック×シネマチック では、さらに監督を深堀り

そしてイベント終了後には、YouTube番組『ドラマチック×シネマチック』の収録も!
映画プロデューサー森谷雄さんも加わり、ノンストップで行われた収録は、さらなるキャスティング秘話や裏話も、大いに盛り上がりましたよ。花ちゃん&花梨ちゃん大親友秘話も、ぜひ聞いてみて下さいね。

https://youtube.com/@user-en4lr2qh9b?si=31HTs3uB8kabifLV
↑ チャンネル登録もよろしくお願いします!

 

プレゼントに応募する!

さらに、シネマピープルプレスでは『52ヘルツのクジラたち』応援企画として、特製トートバックが当たるSNS連動プレゼント企画を実施中。この日、監督にみなさんが投稿された感想をお伝えすると、とても喜んでいましたよ。詳細は下記ページをチェック!

作品紹介

『52ヘルツのクジラたち』プレゼント紹介記事傷を抱え、東京から海辺の街の一軒家へと移り住んできた貴瑚は、虐待され、声を出せなくなった「ムシ」と呼ばれる少年と出会う。かつて自分も、家族に虐待され、搾取されてきた彼女は、少年を見過ごすことが出来ず、一緒に暮らし始める。やがて、夢も未来もなかった少年に、たった一つの“願い”が芽生える。その願いをかなえることを決心した貴瑚は、自身の声なきSOSを聴き取り救い出してくれた、今はもう会えない安吾とのかけがえのない日々に想いを馳せ、あの時、聴けなかった声を聴くために、もう一度 立ち上がる。

作品名:52ヘルツのクジラたち
監督:成島出 脚本:龍居由佳里
原作:町田そのこ「52ヘルツのクジラたち」(中央公論社)
主題歌:Saucy Dog「この長い旅の中で」
出演:杉咲花 志尊淳 
宮沢氷魚 小野花梨 桑名桃李
金子大地 西野七瀬 真飛聖 
池谷のぶえ 余貴美子 /倍賞美津子
2024年/日本/カラー/ビスタ/5.1ch/136分
配給:ギャガ
©2024「52ヘルツのクジラたち」製作委員会 
公式サイト:https://gaga.ne.jp/52hz-movie/
公式X:@52hzwhale_movie



関連記事

おいしい映画祭

アーカイブ