松山ケンイチ、長澤まさみらが特別授業に登壇!映画『ロストケア』にみる家族介護のリアル

3月24日公開の映画『ロストケア』の特別公開授業が17日、愛知県知多郡にある日本福祉大学美浜キャンパス行われ、松山ケンイチさん、長澤まさみさん、鈴鹿央士さん、前田哲監督、原作者の葉真中顕さんが登壇。社会福祉を学ぶ学生たちと交流、湯原悦子教授とともに高齢者介護が抱える問題などをテーマにした特別講義が行われました。

原作は、第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した葉真中顕さんの同名小説。介護士でありながら、自らの信念に従って42人を殺めた殺人犯・斯波宗典と、法の名のもとに斯波を追い詰めていく検事・大友秀美の、互いの正義をかけた緊迫のバトルが繰り広げられていきます。


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柄本明「家族で松ケンファン」明かす!映画『ロストケア』公開前夜祭舞台挨拶で


たくさんの人と共有することで救われる命がきっとある

介護士でありながら、42人を殺めた殺人犯・斯波宗典を演じた松山ケンイチさんが、斯波を演じる上でものすごく意識していたのが「(僕が演じた斯波は)皆さんと何も変わらない、僕とも変わらない、日常に差がないっていうところ」と明かし「そこを、僕はすごく大切にしていました」と役への思いを語ると、続けて斯波が直面した困難に対して

「柄本明さん演じるお父さんと斯波の親子は、母親も親族もいない状況で、孤立化しやすい立場に置かれていて、斯波は父に男手ひとつで育ててもらったんだから『今度は返す番だ』と思って一生懸命介護をしてきた。だけど、その中で限界が来てしまって、選択肢のひとつでもあった生活保護も断られて、残された選択肢が柄本さんから伝えられる『殺してくれ』っていうことだったと思うんです。

やっぱり、外側から見ていると、法律やルールといった、社会の常識でしか物事を見られなくなるので、事件ということだけで見てしまうと『なんでこんなことになったの?』『誰か助けてあげればよかったじゃん』『助けを求めればよかったのに』という風に思ってしまいますけど、(そうしたくても)そうできない状況が裏側にはあって、立場によって見ている景色がまったく違うんです。

(そういう状況を)防ぐために斯波ができたことは、誰かとこの話を共有することだったんじゃないかと。介護を誰かと共有する。どんなセーフティーネットがあるのか調べるっていう選択肢を持っておいて欲しいなと思います。

ただ、結局それも余裕がないとできない。いま、目の前にある介護で精一杯になってしまうのは、ある意味で子育てとかも一緒だと思うんですよ。だから、周りの人たちが、孤立化させないことも大事になってくる。

ここにいる皆さんは、介護を経験されていたり、将来介護の仕事に携わることになるかもしれないんですけど、介護していく中で目の前に現れる課題をたくさんの人と『共有』していくことで、救われる命が…介護する側もされる側も救われる人が増えると思うので、まずはたくさんの人に関心を持ってもらいたいなと、そういうことが大切だと思います」

と、役を通して感じた「介護」への思いを学生たちに語りかけました。

考えを変えていかなくちゃいけない…

真実を明らかにするため斯波と対峙する検事・大友秀美を演じた長澤まさみさんは、自分だったらどんな結審をするか問われ「難しいですね…斯波がした行為というのは、やはり許されるものではないと思いますし、厳しい刑罰を受けるのも致し方ないのかなと思います。だけど、斯波自身は自分が犯したことに対して『これは救いだ』と彼の正義のもとに行っているから、一方的な刑罰を与えることが斯波にとって罰として受け止められるのかっていうと難しくて。斯波自身は、父親を憎んでいた訳ではなくて、すごく大切にしていた存在で、だからこそ『救う』という手段をとってしまったので、罪を問うこちら側も、罪=罰という、考えを変えていかなくちゃいけないのかなという風に大友を演じて思いました」と、斯波の深淵を覗いてしまったからこそ揺れてしまう思いを明かしました。

しっかり届いているんだなと感じられて嬉しい

長澤さん演じる大友検事をサポートする検察事務官、椎名幸太役を演じた鈴鹿央士さんは、実際に在宅介護をしていた学生の「劇中に登場する親子の言い争いのシーンは、過剰な演出でもなくリアルな家族の日常を映し出していて家族介護の問題を映し出している、共感できるシーンもたくさんあり、外からは見えにくい家族の問題を知ってもらえるきっかけになれば」という感想や「映画に出てくる『見えるものと見えないもの』じゃなく『見たいものと見たくないもの』があるという台詞が印象的で、認知症の問題だったり介護の話だったり、軽微な犯罪を繰り返して刑務所に入ろうとするお話は、いまたくさん起きている話なので、この映画をフィクションで終わらせてはいけないと思いました」という言葉に「しっかりと映画を観てくれて嬉しい」とコメントすると「映画だからフィクションではあるけれども、しっかり問題提起として届いているんだなと感じました。僕の周りは親が元気な世代が多いので、介護の問題にあまり触れたことのない人が多くて、この映画がそういう人たちの考えるきっかけになってもらいたかったので、実際に介護を体験されている同世代の方の言葉を聞いて、全部言ってくれたような気がしました」と言葉を続けました。

印象に残ったシーンを聞かれると「冒頭の綾戸智恵さん演じるおばあさんが、軽微な犯罪を犯して『刑務所に入れて欲しい』というシーン。そういう高齢者が実際にいるっていうのを今の話で知って、そうだったのかと。撮っている時は不思議に思っていたので…」と明かすと、

前田哲監督が「あのエピソードは、尺の問題もあるので最初は入れるかどうかで迷いましたけど、実際にそういう人がいるっていうのは、あまり知られていないんで、映画を通して知ってもらいたいという気持ちでいれました」と語りました。

伝わってきた怒りや憤り…これは映画にしなければと

原作者の葉真中顕さんは、自身も実際に介護の問題に直面したひとり「執筆した2008年は、介護業界でものすごい混乱があった時期でもあるんですけど、その時に私の家族が介護しなくてはならないような状況になって、当事者になったんですね。それで、全国に介護事業を展開している会社のサービスをうちでも利用していたんですけど、不正が発覚して介護事業から手を引いたことから業界に大混乱が起きた。

ちょうど同じ頃、非正規雇用がものすごく増えて格差が生まれた時代で、そういう『格差』が直撃したのがこういうところだった。同じ世界に生まれて、同じぐらいの親をもって、同じような病気になったはずなのに、それこそちょっとの違いで天国にも地獄にもなって、そこに業界の混乱が重なって「すごいことになっている」と、介護のいろんな事例を見て肌で感じて、運命って言ったら大げさですけど、これを小説にしようと書き始めたのが「ロスト・ケア」なんです」

その原作を読んで映画にしたのは『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』や『そして、バトンは渡された』の前田哲監督。作品から「怒りや憤りのような熱いものを感じた」という監督は「これは映画にしなければならない」と使命のようなものを感じたことを明かします。

「僕は助監督の頃から『新聞を読みなさい』と言われてきて、いまはネットニュースもありますけど、僕らの時代はなかったので新聞を読み続けていて、一般的に言われる『社会問題』に触れてきたんですけど、この映画にも登場する「ヤングケアラー(本来大人が担う家族や親族の介護が忙しく、本来受けるべき教育や同世代との人間関係を満足に構築できなかった子どもたちのこと)って言葉も、ようやく最近言語化されて確立されてきましたけれど、僕らが知らないところで、そういう状況に陥ってしまう人たちがいて、僕は、そういう自分が感じていることを映画にすることで、エンターテインメントの力で何ができるかは未知数なんですけれども、少しでも社会がよくなるものが作れれば…という思いでこの映画を撮りました。ニュースの見出しの裏側にあることを、この映画を通して知るきっかけになれば」と、映画への思いを語りました。


社会に絶望し、自らの信念に従って犯行を重ねる斯波と、法の名のもとに斯波を追い詰める大友の、互いの正義をかけた緊迫のバトルが繰り広げられる社会派エンターテイメント

映画『ロストケア』は、2023年3月24日(金)全国ロードショーです。

【動画】前田哲監督インタビュー

取材こぼれ話


特別公開授業が終わり、いったん退出した松山さんたちが再びサプライズで入室、突然目の前に現れた『ロストケア』チームに、驚きつつも大歓声をあげて喜んでいました。気さくに学生たちに声をかけるなど、触れ合いをする場面も。学生たちには、忘れられないひとときになりました。

予告をみる

作品紹介

連続殺人犯と検事 お互いの正義をかけた対決
早朝の民家で老⼈と介護センター所長の死体が発⾒された。犯⼈として捜査線上に浮かんだのは死んだ所長が務める訪問介護センターに勤める斯波宗典(松山ケンイチ)。彼は献身的な介護士として介護家族に慕われる⼼優しい青年だった。検事の大友秀美(長澤まさみ)は斯波が務める訪問介護センターで老⼈の死亡率が異常に高いことを突き止める。この介護センターでいったい何が起きているのか?大友は真実を明らかにするべく取り調べ室で斯波と対峙する。「私は救いました」。斯波は犯行を認めたものの、⾃分がした行為は「殺⼈」ではなく「救い」だと主張する。斯波の⾔う「救い」とは⼀体何を意味するのか。なぜ、⼼優しい青年が未曽有の連続殺⼈犯となったのか。斯波の揺るぎない信念に向き合い、事件の真相に迫る時、大友の⼼は激しく揺さぶられる。

映画『ロストケア』
監督:前田哲 脚本:龍居由佳里 前田哲
原作:「ロスト・ケア」葉真中顕 著/光文社文庫刊
主題歌:森山直太朗「さもありなん」(ユニバーサル ミュージック)
音楽:原摩利彦
出演:松山ケンイチ 長澤まさみ
鈴鹿央士 坂井真紀 戸田菜穂 峯村リエ 加藤菜津 やす(ずん) 岩谷健司 井上肇
綾戸智恵 梶原善 藤田弓子/柄本明
配給:東京テアトル 日活
公式サイト:https://lost-care.com/
公式Twitter: @lostcare_movie
©2023「ロストケア」製作委員会

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