エリコのフォトdeシネマ♪ Vol.87『川っぺりムコリッタ』⁣⁣⁣公開中!

生と死のギリギリを生きる人たちの繋がりを描く 『川っぺりムコリッタ』

「川っぺりムコリッタ」

『かもめ食堂』『めがね』など、ほんわかしたスローライフ映画が
代表作に挙げられるけど、
そのイメージに抵抗するように『彼らが本気で編むときは、』では、単なる癒し系ではない温かな人間ドラマを描いた荻上直子監督。

その新作が『川っぺりムコリッタ』。
「ムコリッタ(牟呼栗多)」とは、仏典に記載の時間の単位のひとつ。
1/30日=2880秒=48分。
「刹那」はその最小単位のことだそう。
タイトルの響きやキャッチコピーを見ると、ほっこり可愛い映画に見えるけど、そうじゃない。

クスッと笑える「ユーモア」や「おいしいごはん」「ささやかな幸せ」と、荻上監督らしさは健在。
でも主人公の山田をはじめ、隣人の島田、大家の南と、主要なキャラクターは、それぞれに死んだ人を想い、
さらに寺の住職、墓石の販売、塩辛工場の従業員など、出てくるのは皆、死を生業とする人たちばかり。

死の影を背負いながら、生と死のギリギリを生きる人たちが、繋がって肩を寄せ合う姿が切なく温かい。

 

 

 

 

今までもマイノリティに優しい眼差しを向けてきた荻上監督だけど、
今回は川っぺりのホームレスも含めて、全ての人の存在を「いなかったことにしない」大きな視点の愛を感じた。

裕福でも貧しくても善人でも悪人でも、全ての人に死は平等にやってきて、誰もが死ぬまでの時間を生きている。
だからこそおいしいごはんを誰かと食べる幸せを噛み締めて、毎日をコツコツと丁寧に生きたいなと、改めて感じさせてくれる映画だった。

文句なしのキャストたち

松山ケンイチ、満島ひかり、吉岡秀隆とキャストも全員文句なし。
特にムロツヨシ。
図々しくて鬱陶しいけど憎めないキャラクターを演じたら無敵。
さらに薬師丸ひろ子と江口のりこの使い方の贅沢なこと!
さらにさらに“たま“の知久寿焼が出演しているのも嬉しい驚き。

フォトdeシネマ

さて今回の写真はごはんと味噌汁ときゅうり。
荻上監督の映画ではいつも食べるシーンがポイントだけど、今回はシンプルな白いごはんと味噌汁が印象的。
劇中で何度も食べるシーンがある中で、最初の給料をもらった山田が食べるごはんと味噌汁が最高に美味しそう!
なんでも山田役の松ケンは、絶食してこのシーンに挑んだそう。
そしてもうひとつはムロツヨシ演じる隣人の島田が、庭で栽培しているきゅうり。
ただマヨネーズをつけただけのきゅうりもめちゃくちゃ美味しそうだった。

「川っぺりムコリッタ」

監督・原作・脚本 荻上直子

出演 松山ケンイチ ムロツヨシ 満島ひかり 吉岡秀隆 江口のり子 柄本佑 薬師丸ひろ子、

2021年製作/120分/G/日本
配給:KADOKAWA

 

映画ライター 尾鍋栄里子(おなべえりこ)

映画館バイト雑誌映画担当映画ライターと、人生の半分を映画業界の片隅で生きる名古屋人。

朝日新聞、中日新聞、フリーペーパーなどで映画紹介記事を執筆中。

映画フリーペーパー C2【シーツー】web版ブログ〝オー!ナイス!不定期掲

おいしい映画祭

アーカイブ