笑いあり!涙あり!映画『ごはん』トークイベントで明かされた
驚きの撮影秘話 照りつける太陽にも負けない俳優魂
都会のOLが父の訃報をきっかけに故郷の京都へ。広大な田んぼと向き合う中で、彼女が見つけたものは…。
今話題の映画『侍タイムスリッパー』の安田淳一監督が、10年の歳月をかけて完成させた感動のドラマ『ごはん』。
2024年11月30日にミッドランドスクエア シネマ2で開催された「おいしい映画祭2024」のトークイベントでは、なんと撮影が始まった当初「脚本がなかった!」という驚きの事実が明かされました。
農家でもある安田監督のこだわりが詰まった追撮秘話。主演俳優・沙倉ゆうのさんが明かした過酷な撮影エピソード。そして、会場を沸かせた監督の宿敵〇〇の話や沙倉さんによる「ここだけの」話も。
笑いあり、涙あり、驚きありのトークの模様を余すとこなくお届けします。
はじまりは沙倉さんのイメージビデオ
最初はひたすら農作業をする日々だった
この日、大きな拍手に包まれる中、登壇したのは、安田淳一監督と『侍タイムスリッパー』で、助監督・優子殿として注目を集め、『ごはん』にも主演する俳優・沙倉ゆうのさん。進行役は映画祭プロデューサーの松岡ひとみさんが務めました。
安田淳一監督(以降 安田監督):京都から来ました、安田淳一です。本日は『ごはん』をご覧いただきありがとうございます。
沙倉ゆうの(以降 沙倉):兵庫県西宮市から来ました、沙倉ゆうのです。『ごはん』をご覧いただきありがとうございました。
松岡プロデューサー(以降 松岡):『ごはん』は、中部エリアでは初めての映画館上映ですよね?
安田監督:このような本格的な大きなスクリーンでは初めてです。
松岡:2017年の作品で…
沙倉:2017年の1月に公開しました。丸4年間かけて撮影した作品です。
松岡:4年間!すごい!
沙倉:その後も3年間、追加撮影を行いました。合計7年?でも去年も追加で撮影を行ったので…
安田監督:足掛け10年になります。23年からは、僕もフル稼働で米作りに関わるようになったのですが、実際やってみると夏の草刈りのしんどさとか、残された田んぼを全部ひとりでやらなくてはいけない孤独さを、もっと撮りたいと思うようになって。でもゆうのちゃんは全然年を取らないので、どこが追撮かはわからないと思います。
松岡:全然変わらないですよね、沙倉さん。年齢聞いてびっくりしました。
安田監督:いろんな方から「ゆうのさんておいくつなんですか?」ってよく聞かれます(笑)
松岡:『ごはん』を撮るきっかけは?
安田監督:最初は、ゆうのちゃんのイメージ映像を撮るつもりで田んぼに連れていったんですけど、撮ってみたら「意外といいじゃん」ってなって。そんな時にふと「もし親父に何かあったら、この何十件と預かっている田んぼを俺がやらなきゃいけないのか?」と思って、田植えや収穫を手伝ってはいたけれど詳しくは知らなくて、「あれ?これもしかしたら面白い映画になるんじゃ」と。思いついたのが出水間近で、田んぼは待ってくれないから、ゆうのちゃんに「これ長編映画にしようと思っているけど脚本書いている暇がないから、とりあえず農作業だけしてくれませんか?」というのが始まりでした。
松岡:そんな感じで始まったんですか?
沙倉:はい。監督の頭の中にストーリーはあるんですけど、私たちには知らされてなくて。とにかく農作業ばかり撮るんですよ。稲刈りもコンバインに乗って。劇中の最後のゲンちゃんとのシーンは、この1年目の最後に撮ったんです。
安田監督:ストーリーの最後はこうなるだろうと思って。だから、最後が実はいちばん若いっていう。
沙倉:OLのシーンなんて4年目に撮ってるんですよ!
安田監督:今回観ていただいたバージョンのクランクアップ去年。2017年に公開された時は、中途半端なものをお見せしていましたね。
『ごはん』を撮るまで気遣っていた日焼け…稲の成長と格闘
松岡:沙倉さんは、日焼けとか気にしてなかったんですか?
沙倉:『ごはん』を撮るまでは、寝る時には長袖を着て寝たり、日傘をさしたりして、気遣ってたんですけど、「焼けるからいいわ」ってなっちゃいました(笑)
松岡:劇中でヒカリが倒れるシーンとかは、台本があるんですよね?
沙倉:2年目がスタートする時にストーリーはもらったんですけど、倒れるシーンは毎年撮ってました。
安田監督:稲の成長と、物語がうまく合わないと使えなくて。3年目は天候にも恵まれなくて、ずーっと曇りか雨。ようやくいい感じになった時には、稲が育ちすぎて「こりゃあかん来年やわ!」ってなり、4年目でようやく撮れたという。
松岡:米作りと映画作り、両方大変じゃないですか。
安田監督:大変ですね。農家さんに見られても恥ずかしくないように、リアルな米作りを描こうと意識していたし、カメラマンとしては、先祖代々残してくれた素晴らしい宝物でもある田んぼを綺麗に撮りたいっていう思いが強くて、太陽待ちも随分したし、リアルにうちの親父が全部倒伏させたり、台風もあって、結果的に商業映画では絶対撮れなような作品になりました。
宿敵・ジャンボタニシが監督の米作りを襲う
ここまで凶悪とは…
松岡:田んぼに息づく、生命の表情もスクリーンに映しだされて…。
安田監督:でも、その中にジャンボタニシも入ってるんですよね(笑)。水が張られた田んぼでうごめく生き物たちを美しく撮ったけど、米作りを全部自分でやるまではジャンボタニシがあそこまで凶悪なヤツらだとは思っていなくて…映画ではヴァイオリンの音色なんかいれていい感じに撮ってしまったんですけど(苦笑)。今年は暖冬で大量に生き残ってて結構な被害がでたんです。だから今では「お前らだけは許さ~ん!!!」ってなりますよね。※ 会場はその言葉に共感する笑いで包まれました。
松岡:沙倉さんは、実際にお米作りを経験して何か変わりましたか?
沙倉:家庭菜園をするようになりました。
松岡:作ってみたくなったんですね。
沙倉:はい。土いじりができるようになりました。
松岡:監督は今も?
安田監督:親父が亡くなって、去年からずっとやってます。米農家としては、まだまだビギナーでひよっこですけど、親戚のおじさんとかにいろいろ聞いて…。
松岡:『侍タイムスリッパー』で時の人になって。9月でしたか?初めてお会いした日に「明日稲刈りなんだわ!」って
安田監督:言ってましたね(笑)映画は赤字になると思ってたんですけど、今回『侍タイムスリッパー』のヒットでなんとか黒字になりました。
7000円どころか本当はマイナス?
まさかの暴露話に監督もタジタジ
松岡:確か、最後は7000円ぐらいでしたよね。
安田監督:はい。お米で稼いだお金で映画撮ってると思われてるんですけど、両方赤字です。
沙倉:これ、初めて言うんですけど、最後は7000円しか手元になかったってよく言ってますけど、実は2年前のギャラまだもらってないんです。だから、本当はマイナス…。
安田監督:いろいろちゃんとつけてね。『侍タイムスリッパー』では、投資もしていただいてるので…。出演料のギャラはお支払いしてますよ。
まさかの暴露話に会場は大いに盛り上がりました※深刻な暴露ではないのでお間違いなく。『侍タイムスリッパー』がもっとヒットしたら、沙倉さんも潤うので、ぜひ劇場で。そして映画祭の裏側では、もうひとつ綱渡りドラマがあったことが明かされました。
松岡:実は『ごはん』のDCP(デジタルシネマパッケージ※)が、数日前ここに届いてないことが発覚しまして…。
※ デジタルシネマパッケージとは、デジタル上映方式のフォーマットのこと、ほとんどの映画館で採用されています。
安田監督:僕、その時東京にいたので、「沙倉さん!塚口サンサン劇場にDCP預けてあるから、すぐピックアップして届けてって」
沙倉:たくさん連絡を取り合い、名古屋駅の新幹線のホームで松岡さんに渡しました。
松岡:たった1分半の中で、受け渡し。まさに「天国と地獄」が流れていました。DCPなかったら今日上映できないなーとドキドキしましたね。
ここで、観客からの質問タイムに突入。
観客:映像を見た時、これは1、2年の撮影じゃないなと思いました。ゆうのさんは、日差しとか大変だったんじゃないかなと思ったのですが、ご苦労されたこと。あと、ゲンちゃん、九州に帰るはずが、帰る方向間違ってますよね?
安田監督:それを言うんか(笑)
沙倉:日差しは本当にすごかったです。最初は、農作業の大きな帽子やキャップを買って被っていたんですけど、スタッフの数が少ないので照明をたくと顔がわかりにくいってなって。監督も日焼けに無頓着だったので、7年目までは帽子を被るシーンとかもなかったんですね。最後の最後に、帽子をちょっと被って飛んでいくっていうシーンを撮ったんですけど、日差しがきつくて、レフバンも眩しくてきつかったです。でね、いま監督は農作業やってるじゃないですか。田植えも稲刈りもフル装備!完全に日焼けしないようにしてて、顔もここだけ(目もと)しか出てないんですよ(わたしのあれは)なんやったんやろなと思って。
安田監督:(隣で苦笑しながら)ゲンちゃんのシーンについては、映画の中で…ということなんですけど、あれは道に迷っているゲンちゃんが右往左往している様子を表しているんです。
この映画もサムタイのように全国に広げていきたい
ここまで育んできたので、いろんなところで上映されたら
観客:この映画だと基本的に全部自己責任みたいなところがありますが、農協とかって何もしてくれないものなんですか?
安田監督:基本はしてくれません。劇中で描かれているように、お父さんが頑張ってたから私も頑張るっていうのは「事実です」。でも、それでは経済としては成り立たない。一般的な慣行農家の現実は映画で描いた通りで、この後ゲストで登壇する、『龍の瞳』の今井さんとか農業インフルエンサーのKTさんのようにできるのは、本当に稀なことなんです。
観客:例えばコンバインが壊れた時も?レンタルだったりサポートするようなものはない?
安田監督:実際には、劇中で描かれているぐらいの針金で壊れることはないですけど、僕も実際にクラッチを壊して修理に出したら40万円~50万円かかりました。おつきあいのある農機具屋さんとかでなら、余っているコンバインを借りたりはできるかもしれませんけど。
観客:田んぼに浮き草がなかったのは意図的に?
安田監督:いや、実際にいなかったですね。
沙倉:そういえば見てませんね。
観客:地域的な問題かもしれないですね。
安田監督:確かに浮き草があると、太陽の光を遮断してくれるので抑草してくれたりもして、悪いことじゃないとは聞きますね。
松岡:あとは、時代劇の「斬られ役」として活躍した福本清三さんがヒカリを助けてくれる西山老人役でね出ていたのもスゴイですね。キラリと光る…
安田監督:嬉しかったですね。
最後に沙倉さんが「全国にはまだまだ『ごはん』を見てもらってない方もたくさんいるので、広げていけるよう頑張っていきたいと思っています。応援よろしくお願いします」と締めくくると、安田監督も「こうやって喋ってると『いい加減に作ってるちゃうんか?』と思われがちですけど、そこは真剣勝負で作りました。せっかくここまで育んできた作品ですので、ぜひいろんなところで上映してもらえたら嬉しいです。本日はありがとうございました」と感謝の気持ちを表しました。
ほかにもコンバインのアクセルに付いているウサギとカメの表示の話や、「龍の瞳」の今井社長と農業インフルエンサーのKTさんを迎えての農業の実情の話など充実したトークが展開。そして、映画『ごはん』は、来年の1月に名古屋の「シアターカフェ」でも上映が決定しています。そちらは『拳銃と目玉焼き』やシークレット短編の上映も。定員は各回19名となかなか狭き門なので、気になる方はお早めにご予約を。サムタイととものジワジワと注目を集めている『ごはん』安田淳一監督の初期衝動に触れる、せっかくの機会をお見逃しなく。
取材・執筆 にしおあおい(シネマピープルプレス編集部)
安田淳一監督特集~ごはんと目玉焼~
安田淳一監督特集~ごはんと目玉焼~
上映劇場 Theater Cafe
日時:2025年1月11日(土)~17日(金)
料金:1400円(同日2作品2800円)+1ドリンク(600円~)
定員:各回19名
公式サイト https://theatercafe.jp
詳細は こちらの記事 より
作品紹介
日本の米作りを巡る現状を背景に、農業を引き継ぐことになった若い女性の奮闘を描くドラマ。撮影に4年を費やし、米の生産過程をリアルに捉えた。主演は「拳銃と目玉焼」「侍タイムスリッパー」の”絶対ヒロイン”沙倉ゆうの。「太秦ライムライト」の福本清三の演技にも注目!
【あらすじ】東京でOLとして働いていたヒカリのもとに、故郷の京都から父の訃報が届く。幼い頃に母を亡くし、仕事に明け暮れていた父とはぎこちない関係のまま育ったヒカリだったが、葬儀のために故郷へ戻る。そこでヒカリは、父が年老いた農家の人々に頼られ、広大な田んぼの耕作を引き受けていたことを知る。ヒカリは父が残した田んぼを引き継ぐことを決意し、様々な人に助けられながら米作りに奮闘。その仕事を通して、亡き父の思いを少しずつ理解していく。