思えば物心ついた時に夢中になって見た番組は、NHK教育テレビ「できるかな」(70年〜)でした。パントマイムで思いを伝えるノッポさんと鳴き声だけの着ぐるみのゴン太くんが何かを生み出す様子に当時、幼かった私はワクワクしていたものです。彼らの表情やジェスチャーをじっくり見ることで、相手の伝えたいことを読み取るトレーニングにもなっていたのかもしれない。そんなことを再確認するセリフのないアニメーション映画に、2024年は2作も出会えたので、ここでご紹介します。
目次
[ドッグとロボットの愛情物語に号泣]
まずは『ロボット・ドリームズ』。
現在、口コミにより全国にジワジワ上映が広がっているセリフのないアニメーションは、サラ・ヴァロンのグラフィックノベルを壮大なストーリーに変換させて映画化したものです。しかも第96回米アカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされ、宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』と競ったことで公開前から注目され、観た人達がリピーターとなり日本でも大ヒットを記録中。
本作は、原作に惚れ込んだスペインのパブロ・ベルヘル監督とスタッフが、80年代のNYを細やかに再現し、動物達もそれぞれの特徴からファッションや仕事を決めて擬人化したことで、観客が感情移入しやすいように構築した職人技の成功例。名曲「セプテンバー」が流れるセントラルパークでのドッグと親友のロボットによるローラースケートダンスは、人間がローラースケートでダンスする様子を撮影してからアニメーションに反映。だから絵も滑らかだし、もともと実写の監督だからカット割も実写映画的。それだけでなく『オズの魔法使い』『シャイニング』『エルム街の悪夢』『スター・ウォーズ』他、名作のオマージュがところどころに溢れているのも心憎い演出なんですよ。
[こまどりアニメ人気シリーズ最新作]
続いては『こまねこのかいがいりょこう』
こま撮りアニメーション「こまねこ」シリーズ20周年で新たに制作された短編の劇場公開。NHKのキャラクター「どーもくん」などを手掛ける合田経郎氏率いるドワーフスタジオによるねこの女の子こまちゃんを主人公にし、こちらも動物達を擬人化したストップモーションアニメです。人形を一コマずつ動かして撮影するので温もりがなんとも愛おしい。物作りが大好きなこまちゃんが、自分で作った2体の人形を海外旅行に連れていけないことで悲しみ悩む姿と共に、人形達がこまちゃんが寝ている間に動き出す様が可愛い!長年のファンがいる「こまねこ」シリーズが愛される理由は、頑張り屋さんのこまちゃんの成長をずっと見守っていくストーリーとその愛くるしいルックスも大いにあります。
[愛されるキャラクターの意外な共通点]
この2作の共通点は、セリフがない映画というだけでなく、キャラクターがいたってシンプルなデザインというところです。実は、小さな子どもに愛されるキャラクターの条件として、ドラえもんやアンパンマン、ミッキーマウスの共通点である、まんまるの目とまんまるの輪郭が大事と言われています。心理学でも「丸顔」や「丸い目」は人に安心感を与えると言われていて、赤ちゃんや小さな子どもは特に親近感を覚えるそう。それだけでなく、シンプルなデザインのキャラクターは、セリフのない映画とも相性が抜群。目の形が変わるだけで、そのキャラクターの気持ちを読み取ることができるからなんですよね。まさに共感を得られるように計算されて生まれた愛されキャラ達の感情が観客のハートを掴んだ2作なんです。
[2025年に見られる話題のセリフなしアニメ]
そんなセリフなしアニメ映画が、2025年春にも楽しめてしまうんですよ。
それは3月14日に日本公開となる映画『Flow』です。まず伝えておきたいのは、アニメ映画賞の最高峰と言われる2024年アヌシー国際アニメーション映画祭で審査員賞と観客賞ほか4冠を手にしたアニメのプロお墨付き映画であること。しかも2025年米アカデミー賞国際長編映画賞ラトビア代表に選ばれてもいます。監督は前作『Away』(2019年)でもバイクで様々な地を駆け抜ける少年の姿をセリフが一切ない物語として描いたギンツ・ジルバロディズ氏。
それに今作の主人公はなんと黒猫。住んでいた地が突如、洪水に見舞われ、流されながら様々な動物と出会い旅をする姿をダイナミックな映像で見せてくれるんです。この黒猫の物語ももちろんセリフのないアニメ映画。まんまるの目なので黒猫の驚いている様子や警戒心を持っていること、不安な様子も手に取るようにわかるのは監督が猫を飼っているから。こちらは先に紹介した2作と違い、擬人化はしていないものの、犬やキツネザル、カピバラ、鳥といった種類の違う動物と共に危機を乗り越えることで、それぞれの特性から性格が見えてくるという工夫がなされているんです。
既に魅力された私は劇場でまた見られるのを楽しみにしています。動物好き、セリフなし、アニメ好きにはたまらない視覚と聴覚を研ぎ澄ます映画なのでご期待くださいな。
「ロボット・ドリームズ」
監督・脚本:パブロ・ベルヘル 原作:サラ・バロン
2023 年|スペイン・フランス|102 分|カラー|アメリカンビスタ|5.1ch
原題:ROBOT DREAMS|字幕翻訳:長岡理世
配給:クロックワークス
© 2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL
【公式 X】 @robotdreamsjp https://klockworx-v.com/robotdreams/
『Flow』
監督・脚本・音楽:ギンツ・ジルバロディス 音楽:リハルズ・ザリュペ
3月14日(金)よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー
2024/ラトビア、フランス、ベルギー/カラー/85分 配給:ファインフィルムズ 映倫:G後援:駐日ラトビア共和国大使館
原題:Flow ©Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five. HP:flow-movie.com
「こまねこのかいがいりょこう」
公開表記:全国順次公開中
配 給:日活
権利表記:©︎dwarf・こまねこフィルムパートナーズ ©︎dwarf
伊藤さとり
伊藤さとり(映画パーソナリティ・映画評論家)
映画コメンテーターとして「ひるおび」(TBS)「めざまし8」(CX)で月2回の生放送での映画解説、「ぴあ」他で映画評や連載を持つ。「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」俳優対談番組。映画台詞本「愛の告白100選 映画のセリフでココロをチャージ」、映画心理本「2分で距離を縮める魔法の話術 人に好かれる秘密のテク」執筆。