毎日が勝負!市原隼人「甘利田のユートピアに埋没した日々」振り返る『おいしい給食 Road to イカメシ』5/24公開

『おいしい給食 Road to イカメシ』インタビュー
「給食とは何か?」改めて見つめなおす作品に

― 「おいしい給食」といえば、甘利田の歓喜の舞やメニューと対峙する姿が見られる給食シーンも見どころです。コロナ禍もあって「黙食」を経験した現在だからこそ、みんなで食べる大切さを感じました。本作の舞台は1989年ですが、ある理由から「黙食」するシーンも登場しますね。

綾部 撮影に入る前に生徒役の子どもたちのオーディションをしたんですけど、当時はまだ8割から9割ぐらいの子どもたちが「前向き給食」や「黙食」が続いているという話をしていました。「もっと、みんなでワイワイ食べたい!」という子がたくさんいる一方で、1割ぐらいの子たちは「このままでいい!」と言うんです。

でも「本当にそれでいいのかな?」という思いもわきあがりました。大人たちの都合で、このまま惰性で「黙食」が続いていくのはどうなんだろう?と。あくまで「おいしい給食」は、エンターテインメント作品だから、誰が見ても楽しめるものでなければならないけれど、いま作るからには、やっぱり現状を打破するようなものにしたい。あのとき、子どもたちが直面し感じたことを、大人たちがどう受け止めていくのか。「給食とは何か?」を改めて見つめたくて、最初の脚本にはなかった「黙食」を盛り込んでもらいました。

「伝えた」ではなく「伝わった」になるまで指導する
そんな綾部監督の向き合い方がとても素敵だと思っています(市原)

― 給食を食べながらみんなを笑わせる子や甘利田先生をマネする子、ひとりひとりが「給食」に向き合っているのが、印象に残ります。

市原 綾部監督は、いつも子どもたちの目線に合わせて根気強く「伝えた」ではなく「伝わった」になるまで、膝を突き合わせながら芝居を指導されます。そして、誰ひとり取り残すことなく、ちゃんと全員撮る。まさに「全員主役」です。当然、尺の関係で使いきれないものもありますが、僕はそんな綾部監督の向き合い方がとても素敵だと思っています。

そうすると、子どもたちの表情も俄然いきいきしてくる。子どもたちにとって、貴重な思春期の2ヶ月をともに過ごして成長と向き合う。愛情をかけて子どもと向き合った時間は、映像にもたくさん映っています。

綾部 撮影中は、子どもたちの自主性を伸ばしてあげるということは心がけていました。それぞれの個性をなるべく尊重するというのが、「おいしい給食」のテーマのひとつになっていて、現在でいう多様性に通じるところがあると思うんですけど。それぞれの個性を伸ばしてあげるというのは、甘利田の教育方針でもあるんです。だから、子どもから大人まで、映画を観たときに、見たことあるような風景や懐かしさを感じるんだと思います。真面目な子がいて、おちゃらける子もいて、変な食べ方をしている子がいるっていう。

― そして甘利田先生と給食バトルを繰り広げるのが、田澤泰粋さん演じる粒來ケンです。この子も、本当においしそうに給食を食べますね。

市原 この子は、本当に食べるのが大好きなんです。給食シーンの撮影が終わってもずーっと食べてるので、綾部監督が心配して「大丈夫?食べられる?」と聞いたら「もっと食べたいです!」って(笑)

綾部 田澤くんの場合は、もうほんとになんでも食べる。パンを食べるシーンは、市原くんから口の中がパサパサして大変だと聞いていたので心配していたのですが、彼は見事にパクパクバクバクいったので感心しました。

市原 それに彼の台本は、付箋だらけです。監督が少しでも口にしたことは、全部メモしている。パンを食べるシーンの時に「このカットはパンを顔に近づけるほうがいいですか?それとも僕がパンに近づいたほうがいいですか?」という質問をしていて、すごいと思いました。

見どころてんこ盛りの本作
比留川先生との進展はあり?それともなし?

― 今回は、学芸会で甘利田作の劇が上演されます。それもひとつの見せ場ですね。

市原 今回は、大きなテーマがたくさんあります。ひとつはseason3のドラマから引き継いだ、子どもたちが学芸会で劇を上演するまでのお話。そして、大原優乃さん演じるヒロイン、比留川先生との、色恋があるのかないのかどうなのか、そしてもうひとつ大きいテーマが、甘利田はイカメシを食べられるのか?Road to イカメシですから。十二分に楽しんでいただけるエンターテインメント作品になっています。

そして「全員主役」というテーマ。「給食」は本来どうあるべきなのか?というテーマにも踏み込んでいます。

― 甘利田先生を見ていると本当に幸せそうな表情で給食を食べているので、こちらまで幸せな気持ちになります。

市原 給食は美味しく食べたいですよね。

― あんな風に食べられたら、給食も幸せなのでは?

市原 そうですね、給食に聞いてみたいです(笑顔)

― そして恒例の給食前に歌われる忍川中学校の校歌もいいですよね。

市原 忍川中学校~♪

綾部 おしもおされぬ忍川よとか韻を踏んでいたり、ユーモアがありますよね。曲は、甲子園のアルプススタンドに響くようなメロディでってお願いしているんです。

― 歌っているうちにどんどんテンションが爆上がりする甘利田先生は愛らしいですが、撮影の食事中、つい甘利田先生みたいに…なんてことはあったのでしょうか?

市原 さすがにないです(笑)

綾部 脳内モノローグはあるんじゃない?

市原 それはあるかもしれないですね(笑)

ハードすぎて寝落ちする日々
甘利田の理想郷にどれだけ埋没できるかが勝負でした(市原)

市原 甘利田の撮影中は、身体をたくさん動かさなくてはならないので、体重を落として動ける体にしてから挑んでいます。毎日がハードな撮影で、考えなくてはいけないことも多いので、気づいたら寝落ちして、朝になっている日が続きます。

甘利田という役は、それだけたくさん自分で肉付けできる隙間があるんです。原作のないオリジナル作品だからこそできる贅沢な状況で、それを活用しないわけにはいかない。今日は、ここでこんな動きをしてみようとか、今度はこうやって演じようと考える楽しさがあります。他の作品では、まずやらないような芝居が多いですが、唯一無二の作品にするため日々戦っていました。

「おいしい給食」の根底はコメディなのですが、社会的なメッセージも盛り込みつつ、骨太で力強いところもある作品。劇中で「甘利田先生はシンプルだけど世の中はシンプルじゃない」というような台詞もありますが、複雑な世の中で何を正解とすればいいのか悩む中で、信じられる1本の軸を作りたいと考えていました。その部分をぜひ映画を観て感じていただきたいです。

そして、給食というのは、世代を超えて、たくさんの方に楽しんでいただける共通のツールだと思っています。

ほんと、生まれたての赤ん坊でも笑えるような、シーンばっかりなんです。

滑稽な姿を見せ笑われても、恥ずかしい思いをしたとしても、自分が好きなものを胸を張って好きと言える、人生を精一杯楽しもうとする甘利田のユートピアを、肩の力を抜いて楽しんでいただきたいです。

撮影中は、甘利田の理想郷にどれだけ埋没できるかが勝負でした。

楽しい時間は本当にあっという間に過ぎます
最後におふたりからメッセージをいただきました


綾部真弥監督のメッセージ
「おいしい給食」第3弾の映画『おいしい給食 Road to イカメシ』は、初めて観る方にも楽しんでいただけるよう作りました。そしてTVドラマから、ずっとみていただいているファンのみなさまには、今までのひとつひとつのセリフや動きやアイテムが、全部こう繋がってきて、「おいしい給食」シリーズの総決算とも言える最高傑作に仕上がりました。ぜひ映画館の大きなスクリーンで、何十人、何百人と一緒に、楽しんで欲しいです。よろしくお願いします。

主演、市原隼人さんメッセージ
「おいしい給食」は、言葉では言い表せないほど、エンターテインメントのあるべき形を模索し、学ばさせていただいた作品です。

そして、劇場版第3弾目として、とてつもなくパンチの効いた、面白い『おいしい給食 Road to イカメシ』ができました。

函館を舞台にした作品となり、お子様から人生のキャリアを積まれたご年配の方、すべての方に楽しんでいただける作品です。今できる全てを尽くしました。エンターテインメントとはこうあるべきだと我ながら思っております。ぜひ映画館でご覧いただきたいです。

Profile/市原隼人
1987年2月6日生まれ、神奈川県出身
2001 年に映画 「リリイ・シュシュのすべて」で主演デビュー。2004年には 「偶然にも最悪な少年」で日本アカデミー賞新人賞受賞。主な主演作品に映画 「ぼくたちと駐在さんの700日戦争」「ボックス!」、ドラマ「ウォーターボーイズ2」「ランナウェイ~愛する君のために」「カラマーゾフの兄弟」「おいしい給食」シリーズなど。近年ではNHK大河「鎌倉殿の13人」ドラマ「正直不動産」シリーズ、ミュージカル「生きる」、舞台「中村仲蔵 歌舞伎王国下剋上異聞」など多数。写真家としても活動中。6月より主演を務めるWOWOW「ダブルチートseason2」の放送開始予定。
市原隼人Instagram:@hayato_ichihara

Profile/綾部真弥監督
1980年生まれ。助監督として多数の作品に参加。ドラマ「みんな!エスパーだよ!-欲望だらけのラブ・ウォーズ-」で監督を務め、映画『人狼ゲーム クレイジーフォックス』で劇場長編映画デビューを果たす。以後、ドラマ「PTAグランパ!」「GARO -VERSUS ROAD-」「声優探偵」や、映画『人狼ゲーム インフェルノ』『ゼニガタ』『柴公園』『ピア まちをつなぐもの』『劇場版 おいしい給食 Final Battle』、『劇場版 おいしい給食 卒業』、『劇場版 ねこ物件』など、幅広い作風の作品を数多く生み出す。

 

これは妄想か現実か…甘利田先生がイカメシを食べたかどうかは、ぜひ劇場でご確認下さい

 

最初のページ ▶ 函館で過ごした時間は財産 ▶ 名古屋との意外な接点・・・

1

2

3

おいしい映画祭

アーカイブ