エリコのフォトdeシネマ♪ Vol.144『ミッシング』

吉田恵輔監督×石原さとみ 異色のタッグで描く心震える人間ドラマ 『ミッシング』

5/17(金)より公開中

人間の剥き出しの感情を描き出す天才、吉田恵輔監督と同性からの支持も高い人気俳優、石原さとみがタッグを組んだこの映画。
意外すぎる顔合わせだけど、石原さとみは以前から吉田にラブコールを送っていたそう。
念願叶った本作で演じたのは、自身と同じ子を持つ母。行方不明になった娘を探している沙緒里。
石原さとみはマスコミの報道や夫との温度差、SNSの誹謗中傷で追い詰められていく沙緒里の怒りや悲しみ、不安定に揺れる情緒を凄まじい演技で体現。
髪はボサボサ、化粧っけもなく、なりふり構わず娘を探す姿には、いつものキラキラ感はない。
中でも腹の底から絶望が湧き上がるような慟哭には胸を掻きむしられるような気持ちに。すごい!
一方で、夫の豊を演じた青木崇高は抑制の効いた芝居で魅せる。
豊の抑えていた感情がこぼれるシーンでは思わずもらい泣きしてしまった。
沙緒里たちの取材を続けるテレビ記者、砂田役の中村倫也のナチュラルな存在感も絶妙。
そしてなんといっても失踪した娘と最後に会った沙緒里の弟、圭吾役の森優作!
何かに怯えるように目を泳がせる挙動不審な演技に引き込まれた。

ありのままの人間に向き合い、愛を込めて描く吉田監督

『空白』では大切な存在を失った人間の辛さや苦しみ、耐え難い現実にどう折り合いをつけていくのかを描いた吉田監督。
突然消えた娘を探す夫婦の苦悩や葛藤、その先にあるささやかな希望を見せる本作は『空白』との共通点も多く、マスコミの無責任な報道を描いている点も同じ。
今回はそれをさらに掘り下げてマスコミ側の視点も投入。
被害者に寄り添う誠実な企画より、センセーショナルなニュースがもてはやされる現実、相手が権力者なら性癖を暴いても許されるような風潮。
被害者にとって都合の悪い事実も流すのが報道の意義なのか?報道とは何か?その在り方に疑問を投げかける。
「間違いを犯した人間を袋叩きにしてもいい訳じゃない」中村倫也演じるテレビ記者のつぶやきが心に突き刺さる。
それはマスコミだけじゃなく、SNSで拡散される偏った情報を鵜呑みにして、会った事もない誰かに正義の鉄槌を下す私たちも同罪だとハッとする。
少しでもダメなところがあれば悪と決めつけられる不寛容な世の中で、吉田監督は人間の様々な側面に光を当てていく。
自分本位な言動で周囲を傷つけていた沙緒里が他人の事で本気で悲しみ喜んだり、飄々とした男が心の奥底にどうしようもない悲しみを抱えていたり、自分勝手で無責任に見えた人物が実は誰かを庇っていたり、善人に見えた人物がやましい事を隠していたり。
善と悪、正と負が複雑に混じり合うありのままの人間に向き合い、愛を込めて描き出す吉田監督はやっぱりすごい。
心震えるシリアスなシーンにブラックなユーモアを放り込むセンスも好き。

さて今回の写真は虹色の光のイメージで。
偶然に生まれた虹色の光は、暗闇でもがき続ける沙緒里に差し込むかすかな希望のよう。
吉田監督の人間への愛と優しさを感じるシーンだった。

 

映画ライター 尾鍋栄里子(おなべえりこ)

Twitter @onabe11
映画館バイト→雑誌映画担当→映画ライターと、人生の半分を映画業界の片隅で生きる名古屋人。
朝日新聞、中日新聞、フリーペーパーなどで映画紹介記事を執筆中。
映画フリーペーパー C2【シーツー】web版ブログ〝オー!ナイス!”不定期掲載

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