原作者・汐見夏衛が本作の誕生秘話語る『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』

12月8日公開の映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』

先日行われた、名古屋の椙山女学園大学で行われたトーク付き特別試写会に
原作者の汐見夏衛さんと西麻美プロデューサーが登壇

高橋麻織准教授とのトークで物語の誕生秘話などを語りました。

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本作は、SNSを中心に「とにかく泣ける」と話題となり、シリーズ累計発行部85万部を突破した汐見夏衛によるベストセラー同名小説を福原遥、水上恒司をW主演に迎え映画化。今では当たり前のことが許されなかった時代に出会った、百合と彰。2人の時を超えた愛が交差する、涙なくしては観られないラブストーリーです。福山雅治による書下ろしの新曲「想望」が作品を彩ることも話題になっています。※以下敬称略

この日の進行を務めたのは、椙山女学園大学の高橋麻織准教授。国際コミュニケーション学部の表現文化学科で、普段は、古典文学や源氏物語の研究をしているそう。

「戦争」は絶対に繰り返してはいけないものだし風化させてはいけない

高橋准教授 まずは、本作の執筆のきっかけからお聞かせいただけますか?

汐見 いまは小説家として専業で執筆活動を行っているのですが、その前は愛知県内で国語の先生をしていました。夏になると結構「戦争」を題材にした教材を扱うことが多くて、私は、祖父母が戦争を経験し実際に祖父は戦場にも行っているので、当時の話や戦時中の生活の話なんかもよく聞いていて、自分に引き寄せて感じたり考えることができたんですけど。

みなさんの世代や、もう少し若い世代になると、ひいおじいちゃん、おばあちゃんの話だったりするので、当然会ったこともないし、話を聞いたこともない遠い世界の話になっていて。「戦争」が歴史の教科書の中だけの話になって、どんどん忘れさられてしまうのを感じていて「それが時代の流れ」といえばそれまでだけど、やっぱり絶対に繰り返してはいけない。

歴史を風化させないよう何かできないかなって考えた時に、例えば授業で体験談とかを使っても怖い話に目を背ける子たちもいたりするんですね。その気持ちもすごくわかるから、小説というフィクションにして、少しマイルドな形で書けば、若い子たちにも読みやすく心に入っていきやすいんじゃないかなと考えて、ちょうど趣味で小説を書いていたので、戦争をテーマにした小説を書いてみようというのが、始まりでした。

高橋准教授 では、西プロデューサーにも映画にしたきっかけを教えて下さい

西 汐見先生の話にも通じるところがあるんですけど、私も育ちは福岡なんですが、生まれが長崎で、夏休みになると1か月ぐらい長崎の祖父母の家に滞在していたんですね。その時に、二宮和也さんが主演してた『硫黄島からの手紙』とか『父親たちの星条旗』を、おじいちゃんが観てて、戦争に行っててもおかしくない年齢だったので「どうだったの?」みたいな話をした時に、祖父は徴兵検査で戦地には行けず、佐賀の山奥で通信兵をやっていて、行けなかった負い目みたいなものを感じていたようなんですね。で、映画会社に入った時に、自分でも作れるような戦争映画は…って考えていた時に汐見先生の小説に出会って、今日にいたった感じでございます。

高橋准教授 今回面白かったのは、福原遥さん演じる女子高校生・百合が、戦時中にタイムスリップしてしまうという設定。汐見先生に、その点についてお聞きできれば。

汐見 中高生や、それよりも若い子たちに知ってもらいたいという気持ちもあったので、戦時中の10代の女の子を主人公にした物語ではなく、読者と同じ現在に生きる女の子が過去を知る話なら、入口として入りやすいかもしれないと。このお話は書籍にする前に「野いちご」っていう小中学生が主なユーザーのサイトで書いていたんですけど、私がそれまで書いていた小説も中学生が読者層だったので、中学生の女の子を主人公に、戦時下にタイムスリップして、そこで出会った青年に恋するお話にしようと書き始めました。

高橋准教授 映画では、設定を中学生から高校生に変えていますね。

西 百合ちゃんの設定を中学生から高校生にしたのは、14歳の女の子が20歳の青年と恋をするという設定をそのまま実写にしてしまうと見え方が変わってしまい「違和感を感じるのでは?」と思ったからです。文字や漫画だと違和感を感じなくても、実写になることで感じてしまう違和感はあるので、そこは先生に相談させていただきました。あとは、生い立ちとかも、より観客が感情移入をしやすいように、少し変えたりしました。

常識は時代や場所によって全然変わるもの

高橋准教授 百合ちゃんは、歴史を全部わかった上で1945年に行っているので、つい言ってしまう台詞があります。

汐見 そのシーンは、この物語を書く上で、いちばんのポイントでした。現代の常識と当時の常識の違いがどれくらい違うのか、時代や場所が変われば全然常識も違うし、どちらが間違ってるとかはもちろんなくて。あの時代、あの場所で育まれてきた常識というものがあって、それが本当に今の常識と乖離しているというのを描きたいと思っていて、象徴的なシーンとして絶対に入れたかった。

彼は、悪者ではないんです。あの時代は、そういう教育を受け、国のためを思って、あぁいう行動をしている。日本に対する思いがとても強い彼と、現代の価値観(命の重みを知っている)の百合が対峙すると、衝突する。それを映画で観て下さった方が、こんなにも常識って、時代や場所によって違うんだと感じて、そこからいろいろ考えるきっかけになればと思っています。

現場でスタッフが泣いちゃった〇〇〇のシーン

高橋准教授 どの役もキャラクターが立っていました。ぜひ、撮影時のエピソードをお聞かせ下さい。

西 先生も1回現場にいらっしゃって、あの時、全員いましたよね。鶴屋食堂のシーン。ただ、汐見先生は、百合ちゃん(福原遥)が役作りで先生とお話したいということで、ふたりで話をされてることが多かったので、私の話をすると、今回はキャスティングしてから、監督とお話させていただいて、アテガキと言いますか少し脚本をリライトしているんですね。わかりやすいところで言うと、故郷に婚約者を残してきた少年兵の板倉を演じた嶋﨑斗亜さんは、大阪出身という設定にして関西弁にしたり、彰の親友・石丸役を演じた伊藤さんは、本来ご本人が持っている明るい部分が役にもよくあってて、千代ちゃん(出口夏希)とのシーンは本当に素晴らしいシーンで現場でスタッフが泣いちゃうくらいよいシーンになっているので、楽しみにしていただきたいですね。

高橋准教授 石丸からは、ただ明るいだけじゃない、あの時代の中で務めて明るくしよう、頑張って明るくしているのが伝わってきて、戦時下だからこそ…みたいなものが伝わってきました。汐見先生はいかがでしたか?

汐見 私は百合役の福原さんと一緒にいることが多かったのでその時の話をすると、福原さんとは結構長い間話をしたのですが、すごく原作と脚本を読みこんでいただいてて、設定を変更した部分で、よくご相談いただきました。年齢が変わったことで、どのぐらい感情を表に出せばいいのか、どこで悩むのかっていうのも変わってくるので。でも、やっぱり一番大事なのは、現代から過去に行って、戦争をリアルに経験して戻った時までに、どれぐらい成長しているかという部分を表現することだったのと、演技を拝見したら説得力があったので「思うように演じて下さって大丈夫です。楽しみにしています。」とお伝えしました。やっぱり、それだけ百合のことを大切にしていただいて、原作本を何回も読み返していただけてるのをみると、原作者としては嬉しいですし幸せだなって、感激しました。

文字だけで表現した作品が、映像になって音がついて、役者さんが演じて下さる。違いを発見したら、ぜひ込められた意図を考えてみて下さい。そんな風に考えると、新しい楽しみ方ができるのではないかと思うし、芸術全般について考えを深められるんじゃないかな、そういう目線でもぜひ楽しんでいただけたらと思います。

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』現代の女子高生と1945年に生きる特攻隊員との運命の恋を描き出したラブ・ストーリー。試写会では、あちらこちらからはなをすする音が聞こえてきました。ぜひ、映画館でご覧下さい。

取材・文 にしおあおい (シネマピープルプレス編集部

作品紹介

目が覚めると、そこは1945年の日本
初めて愛した人は、特攻隊員でした

親や学校、すべてにイライラして不満ばかりの高校生の百合(福原遥)。
ある日、進路をめぐって母親の幸恵(中嶋朋子)とぶつかり家出をし、近所の防空壕跡に逃げ込むが、
朝目が覚めると
そこは1945年の6月…戦時中の日本だった。
偶然通りかかった彰(水上恒司)に助けられ、軍の指定食堂に連れていかれる百合。そこで女将のツル(松坂慶子)や勤労学生の千代(出口夏希)、石丸(伊藤健太郎)、板倉(嶋﨑斗亜)、寺岡(上川周作)、加藤(小野塚勇人)たちと出会い、日々を過ごす中で、彰に何度も助けられ、その誠実さや優しさにどんどん惹かれていく百合。
だが彰は特攻隊員で、程なく命がけで戦地に飛ぶ運命だった…。

タイトル『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』
監督:成田洋一
脚本:山浦雅大 成田洋一 音楽:ノグチリョウ
原作:汐見夏衛『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(スターツ出版文庫)
主題歌:「想望」福山雅治(アミューズ/Polydor Records)
出演:福原遥、水上恒司
伊藤健太郎、嶋﨑斗亜、上川周作、小野塚勇人、出口夏希
坪倉由幸、津田寛治、天寿光希、中嶋朋子 / 松坂慶子
配給:松竹
© 2023映画「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
公式サイト : https://movies.shochiku.co.jp/ano-hana-movie/
公式 twitter : @ano_hana_movie

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