俳優の磯村勇斗さんが13日、名古屋のミッドランドスクエアシネマで行われた主演映画『若き見知らぬ者たち』の公開記念舞台挨拶に、弟役の福山翔大さん、内山拓也監督とともに登壇。作品や役に込めた想いなど語りました。以降、敬称略
本作は、難病を患う母の介護をしながら、亡き父の借金を返済するため昼夜働く青年が、家族の問題と自身の人生との狭間でもがき苦しみながらも、ささやかな幸せを掴もうとする姿が描かれます。
名古屋にはいいサウナがあるのでプライベートでも入りに来てます(磯村)
名古屋の舞台挨拶ということで、名古屋の印象を聞かれ…
磯村勇斗(以降 磯村) 名古屋は「サウナ※」が、いつもサウナの話で申し訳ないですけど、いいサウナがあるのでプライベートでも入りに来たりとか、『最後まで行く』の撮影の時も剛さん(綾野剛)とよく行っていたので、サウナのイメージがあります。
※ 磯村さんは、ドラマ「サ道」でサウナにどハマり、行く先々でサウナ愛を語るほどのサウナー
福山翔大(以降 福山) 僕も数年ぶりにお邪魔させていただいていて、神社巡りが好きなので熱田神宮に定期的に来てます。
ー 監督は、この作品が商業長編映画デビューになりますが、いつぐらいからこの企画を温めていたのですか?
内山拓也監督(以降 内山監督) 2016年に自主映画※を撮って映画祭とか、回らせていただいたんですけど、その次が前作の『佐々木、イン、マイマイン』(2020)で。その前から(この脚本は)書き始めているので、今から考えると8年前ですね。ずっと温めていたというか、ようやく企画として通って、時代と脚本がこう寄り添っていったというか、互いを求めあったような感じではありました。
※初監督作品『ヴァニタス』はPFFアワード2016観客賞を受賞した青春映画
ー 磯村さん、今回、彩人という役を引き受けようと思った理由をぜひお聞かせ下さい。
自分が感じているものを彩人というフィルターを通して表現したい
磯村 そうですね。まずは脚本ですよね。僕は脚本がすべてだと思っているので、その脚本を最初に読んだ時に、内山監督の描く世界観や作家性に惚れて。彩人が置かれている環境とか、息をすることもすごく一生懸命な状態というのが、そうさせてしまっている世の中や社会に対して、僕も一個人として思うことがいろいろあるので、その自分が感じているものを彩人というフィルターを通して表現したいなって、すごく思ったんですよね。うまく伝わっているかわからないんですけど、そういうのもあって彩人を演じたい、役を引き受けたいと思いました。
ー 福山さんは?
福山 そうですね。僕も内山監督が描く脚本の強度に惚れたというか、素晴らしいなと思ったんですけど、最初にこのお話を聞いたのは8年ぐらい前なんですね。出会ったその日に台本をいただいて、その時は、作品をやるかどうかという話ではなく、互いが何者かということを確認しあうひとつの証明書のような形で『若き見知らぬ者たち』という物語をいただいて、そこから巡り巡って8年が経ち、ようやくこの時が来たって感じで。この8年はいろんなことがあって、お互いアップダウンもある中で、その8年という時間が決め手と言いますか、監督が苦悩している時間も見てきたので、監督の思いを僕に託してくれるのであれば、人生をかけて全力で臨みたいなと思いました。
ー 監督にもお聞きしたいです。
内山監督 そうですね。(翔大と)出会ったのは、「King Gnu(キングヌウ)」っていうバンドの事務所で、たまたま一緒になって、お互い「初めまして」で、みんなが寝落ちする中、僕と翔大だけが生き残って。その時、彼の出演作を2本立て続けに朝まで見て「すごいね」っていう話をして、でも僕が見せれるものは何もなくて、名刺も持ってなくて、その名刺代わりに「今こういうことを考えているんだ。僕ってこういう人間なんだよ」って(自己紹介代わりに)話をして、台本良かったら読んでみてというところから関係を築き上げていきました。
大きな背中から感じる足跡がとても素敵だなって(内山監督)
ー 磯村さんへのオファーはどのタイミングで?
内山監督 撮影したのが、ちょうど1年前になるんですけど、そのタイミングですね。彼とは、その時が「はじめまして」でしたので、特に何かを共有していた訳ではなかったんですけど、観客のみなさんと同じように彼の出演作は観ていて。みなさんが感じるように、僕も感じていて。一方で、僕がキャスティングをさせていただく時に大事にしてるのは、お芝居ももちろん大事だとは思うのですが、その人がどういう人かっていうところが大切かなと思っていて、心の窓である目が僕はとても印象的で、その視覚の力を借りたいと思ったのと同時に、この大きな背中から感じる小さな寂しさや、歩いてきた足跡がとても素敵だなって思っていて、その背中を僕も一緒に見させて欲しいという気持ちでオファーをさせていただきました。
ー 彩人を演じる上でどんなことを大切にしていましたか?
磯村 「生き続ける」ところですね。家族の介護をしながら、弟の面倒も見て、自分で働いて稼がなければならないという状況の中で、苦しいはずなんですよね。(ヤングケアラーの人たちに)取材させていただく中で「死んでもいいかな」って思う方もいたし「逃げたくなる」って話も聞いていたので、彩人もそういう思いになってるはずだろうなって思ったんですけど、それでも生き続ける意志だったり、なんかこう「生かされている」というところは大事にしたいなと思っていて、それは弟の存在だったりすると思うので、その「生き続ける」という芯の部分は大事にして演じました。
格闘家の方と同じ生活リズムで1年を過ごしました(福山)
ー 福山さん演じる壮平は、総合格闘技の選手でもあります。かなりハードなトレーニングも積んでいたと思うのですが…。
福山 クランクインする1年前からトレーニングを始めさせていただいて、今回本当に0からスタートして、格闘家の方と同じ生活リズムで1年を過ごしました。
3人からのメッセージ
内山監督 この映画は、ヤングケアラーだった僕自身や、実際に友人が経験した事件が基になっていて、そのふたつを軸に向き合い続けた時間でした。この世の中は(日常から置き去りにされた人たちが)とても見えづらくなっていて、時には隠されたりもしていて、そこに宿る事実は簡単に変化したり、させられたりもするけど、この映画が環境的に見られないような人たちのために作りました。みなさんがこの映画を観て、受け取っていただいた数だけ真実があると思っているので、ぜひ現実の世界に戻ったら、みなさんの力を貸してください。
福山 大切な人を抱きしめていただきたいです。突然、そのチャンスすらなくなることもある。もし、何か躊躇していたり、まだ時間があるかななんてことを心のどこかで思っている方がいらっしゃったら、真っ先に劇場を出て抱きしめてあげて欲しいです。そして壮平の言葉を1つ借りるのであれば「自分の居場所は必ずある」ということです。本日はありがとうございました。
磯村 監督からも翔大くんからも、伝えたいことは「言葉になった」のかなと思っていて、何を言おうかなと考えていたんですけど、本作で描かれているようなヤングケアラーのことだったり、実際に起きている事件とか、 戦争とかもそうですけど、そういったものが「事実」としてしっかり届いていない気がしていて、、どんどんいろんな要素で隠されてしまったり、薄まっているような気がするんですよ。それによって、自分の意見や気持ちを言える場所も少なくなってきて、声をあげることすらもできない人たちがいる中で、それを見て見ぬふりをしている人たちがたくさんいるっていうこの世の中に、僕はすごく怖さを感じていて。この映画を観て『こうして欲しい』という訳ではなくて、違う意見でも全然よくて。わかりやすい映画ではないけど余白がたくさんある映画なので、まずは受け取って、自分の中で考える時間を大切にして欲しい。ゆっくりでいいので咀嚼していただけたら、すごく(この作品を)作った意味があるなと思います。
そこに確かに存在しているのに、存在していないものとして見て見ぬふりをされてしまいがちな、日常から置き去りにされた主人公たち。社会の中で可視化されにくくなっているという現実に一石を投じた内山拓也監督の『若き見知らぬ者たち』は10月11日より公開中です。
取材・文 にしおあおい(シネマピープルプレス編集部)
作品紹介
ひとりの名も無き若者が死んだ。
風間彩人(磯村勇斗)は、亡くなった父の借金を返済し、 難病を患う母、麻美(霧島れいか)の介護をしながら、 昼は工事現場、夜は両親が開いたカラオケバーで働いている。
彩人の弟・壮平(福山翔大)も同居し、同じく、 借金返済と介護を担いながら、 父の背を追って始めた総合格闘技の選手として日々練習に明け暮れている。
息の詰まるような生活に蝕まれながらも、 彩人は恋人の日向(岸井ゆきの)との小さな幸せを掴みたいと考えている。 しかし、彩人の親友の大和(染谷将太)の結婚を祝う、 つつましくも幸せな宴会の夜、 彼らのささやかな日常は、思いもよらない暴力によって奪われてしまう。
監督:内山拓也
出演:磯村勇斗 岸井ゆきの 福山翔大 染谷将太 伊島空 長井短 東龍之介 松田航輝 尾上寛之 カトウシンスケ ファビオ・ハラダ 大鷹明良 滝藤賢一 豊原功補 霧島れいか ほか
配給:クロックワークス PG12
公式サイト https://youngstrangers.jp/
©2024 The Young Strangers Film Partners
2024年10月11日(金) 全国順次公開