伊藤さとりの映画で人間力UP!『違国日記』

漫画を映画化するもうひとつの意味とは?『違国日記』

完成度の高い原作をあえて実写映画化する意味ってなんだろう。特に長編漫画を2時間半以内に収めて映画化する意味って一体なぁに?例えば『るろうに剣心』(2012〜2020)は『キングダム』(2019〜)やシリーズ化、『ちはやふる』は「上の句」(2016)、「下の句」(2016)、そして「結び」(2018)と分けて公開されましたが、それを一本化するとなると相当労力を使うわけです。かといってシリーズものにするならばヒットさせなければ製作費も問題視され、次回作へと繋がらないし、前編、後編のように分けてしまうと、時間が空いてしまうことに不満を覚え、配信になってから一気に観ようと考える人も少なからず居るのですよね。

そう考えると、やはり一作で完結ものの方がハードルは低いものの、原作の良いところを抽出して、漫画も読みたいと思わせる原作リスペクトを込めた脚本に取り組まないといけなくなります。これを踏まえて『違国日記』の原作(ヤマシタトモコ原作者)と映画(瀬田なつき監督)を見比べると、瀬田監督が脚本を書く上で“今”に目を向け、それぞれの登場人物の背景や過去については、原作を読んで欲しいと思って取り組んだのではないかと推測します。

まさに全11巻となる原作が累計発行部数180万部を突破するほど多くの人を惹きつけた理由は、少女小説家で独身の叔母、槙生と両親を不慮の事故で失った多感な年頃である15歳の朝とのぎこちない共同生活から、彼女達を取り巻く人達それぞれの悩みを浮き彫りにし、優しく寄り添い浄化していく物語だから。

そんな人の見えにくい感情を映像として表現したのが、『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』(2011)や『PARKS パークス』(2017)、『ジオラマボーイ・パノラマガール』(2020)など、若者達の心をそっと覗くような作風が特徴の瀬田なつき監督。原作で描かれる様々な登場人物が経験、もしくは感じた多くのエピソードの中から厳選した出来事に焦点を当て、新垣結衣演じる槙生と、オーディションで選ばれた早瀬憩演じる朝の戸惑いや自分でもハッキリと理解できない感情を表情や行動で綴っていったのです。更には原作で描かれた音楽を、音色と歌声にして私たちの感情にダイレクトにアプローチしていきます。

人ってそう簡単じゃない

自分自身の気質と生育環境や人との関わりで思考は形成されていくんです。原作では自分でも分からないモヤッとした感情を長い時間をかけて浄化していきますが、映画では時間制限があるので、あえて二人の人物から見える世界を観客に感じてもらうことで、人生で一番の難関である人との関わりを疑似体験していきます。そこから聞こえてくるのは、喜びや悲しみも人と共有することで、色合いが明るく変わるということ。きっと瀬田監督は映画を通して多くの人に、それを伝えたかったのではないでしょうか。

 

違国日記

Ⓒ2024ヤマシタトモコ・祥伝社/「違国日記」製作委員会【

6月7日(金)より全国ロードショー

【配給】東京テアトル・ショウゲート

監督・脚本:瀬田なつき(『PARKSパークス』、『ジオラマボーイ・パノラマガール』)

原作:ヤマシタトモコ「違国日記」(祥伝社FEEL COMICS)

音楽:高木正勝劇中歌:「あさのうた」(作詞・作曲:橋本絵莉子)

企画・制作:東京テアトル

制作協力:ジャンゴフィルム

HP/SNS】HP:ikoku-movie.com/X:@ikokunikkimovieInstagram:@ikokunikkimovie/TikTok:@ikokunikkimovie

【作品データ】2024年/日本/カラー/シネスコ/DCP5.1ch/139

 

伊藤さとり

伊藤さとり(映画パーソナリティ・映画評論家)

映画コメンテーターとして「ひるおび」(TBS)「めざまし8」(CX)で月2回の生放送での映画解説、「ぴあ」他で映画評や連載を持つ。「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」俳優対談番組。映画台詞本「愛の告白100選 映画のセリフでココロをチャージ」、映画心理本「2分で距離を縮める魔法の話術 人に好かれる秘密のテク」執筆。

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