どこか暴力的で支配的な映画を「屯がった映画」として賞賛してしまう傾向が強い映画評論の世界。けれど私はそれに対して危険性を感じています。なぜなら「暴力」と「支配」ってそもそも恐ろしいもので、現実世界でやってしまったら“捕まる”んだから映画で表現しようと思っているならとんでもないことだし、“映画に刺激を受けて模倣犯が現れたらどうするんだろう”とさえ正直思っているから。映像って私たちが思っているよりも思考に影響を及ぼす。だから私は「暴力的、支配的」映画をあまり好まないし、「下品」だとさえ思ってしまうのですよね。
そんな中、良い「尖り方」をしている映画を発見。それが2022年カンヌ国際映画祭ある視点部門で「クー・ド・クール・デュ・ジュリー(審査員の心を射抜いた)賞」を受賞した自らノンバイナリーと公言するローラ・キヴォロン監督の初長編映画『Rodeo ロデオ』です。
主人公のジュリアはバイクが好きで、ある時、ヘルメットをかぶらずにアクロバティックな走りをする反社会バイカー軍団「クロスビトゥーム」に遭遇し、彼らの走りに憧れます。けれど彼らの中には男社会に女は必要なしという考えを持つ者もいて、ジュリアは自分の存在価値を証明するために、危険な取引にも足を踏み入れてしまうのです。
ジュリアは自分が女であることも受け入れているようであり、かといって男になりたいという願望を持っていそうでもない。ただただ自分はバイクが好きで「人として受け入れられたい」が為に、彼らの要求に応えていくのです。その描き方が実にシンプルで、目標が明確で、ジュリア演じる自身もバイカーであるジュリー・ルドリューが野生的でよくぞ彼女を見つけてくれたと惚れ惚れする表情がスクリーンに映し出されます。
感情に台詞はいらない。バイクと寝る姿を撮るだけでジュリアの恋愛観が分かる。母親から拒絶されているらしい会話の流れで家からも居場所を失った主人公だから、バイク好きな集団なら居場所を貰えると思ったに違いないと察する事ができる脚本もお見事。まさに「主人公の躍動する感情と必死な思い」を行動や表情だけで見せていくことで観る人は主人公に心奪われるんです。これぞ「屯がった主人公の映画」であり、こんな物語を生み出す監督の感性こそが「尖った唯一無二」なんだと分かる映画でしたよ。
■Rodeo ロデオ ■ © 2022 CG Cinéma / ReallyLikeFilms ■配給 : リアリーライクフィルムズ + ムービー・アクト・プロジェクト ■6月2日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかロードショー 監督・脚本 : ローラ・キヴォロン (長編デビュー) ジュリー・ルドリュー ヤニス・ラフィ アントニア・ブレジ プロデューサー : シャルル・ジリベール(アネット) 共同脚本 : アントニア・ブレジ 撮影: ラファエル・ヴェンデンブスッ シュ 録音 : ルーカス・ドムジャン / ジョフリー・ペリエ / ヴィクター・プロー 編集 : ラファエル・トレス・カルデロン 特殊 効果 : アントニー・レストルモー 美術 : ガブリエル・デジャン 衣装 : ラシェール・ラウルト 音楽 : ケルマン・デュラン スタント : LMスタント 配給 : リアリーライクフィルムズ + ムービー・アクト・プロジェクト 提供 : リアリーライクフィルムズ [ 2022年フランス映画 | 105分 | フランス語 |1:2.39 | 5.1ch | DCP・Blu-ray ] 字幕翻訳 : 横井和子 宣伝デザイン : 内田美由紀(NORA DESIGN) 予告編監督 : 遠山慎二 (RESTA FILMS) 配給 : リアリーライクフィルムズ + ムービー・アクト・プロジェクト 提供 : リアリーライクフィルムズ
<ストーリー>
バイクに跨る為にこの世に生を受けたジュリア。短気で独立心の強い彼女は、ある夏の日、《クロスビトゥーム》という
ヘルメットを装着せずに、アクロバティックな技を操りながら公道を全速力で疾走する、イケてるバイカーたちに出会う
。ある事件をきっかけに、彼らが組織する秘密結社の一員となった彼女は、超男性的な集団の中で自分の存在を証
明しようと努力するが、次第にエスカレートする彼らの要求に直面し、コミュニティでの自分の居場所に疑問を持ち始
める…。一発触発、ヒリヒリと火傷しそうなジュリアと男たちとのハードな闘いがはじまる!
伊藤さとり
ハリウッドスターから日本の演技派俳優まで、記者会見や舞台挨拶MCも担当する。全国のTSUTAYA店舗で流れる店内放送wave−C3「シネマmag」DJ、俳優対談番組『新・伊藤さとりと映画な仲間たち』(YouTubeでも配信)、東映チャンネル×シネマクエスト、映画人対談番組『シネマの世界』など。NTV「ZIP!」、CX「めざまし土曜日」TOKYO-FM、JFN、インターFMにもゲスト出演。雑誌「ブルータス」「Pen」「anan」「AERA」にて映画寄稿。日刊スポーツ映画大賞審査員、日本映画プロフェッショナル大賞審査員。