2020年4月、新型コロナウイルス感染症により映画館は休館、映画イベントも中止、映画製作は撮影ストップになるなど、映画業界を含め、多くの人々の仕事が止まりました。それを受けて様々な企画や支援活動が生まれたのですが、ソニーグループがコロナ禍で映画を撮れないクリエイターたちを支援するプロジェクト『DIVOC-12』を立ち上げました。この「DIVOC」とはCOVIDを反対に並べた言葉であり、「12人のクリエイターとともに、COVID-19をひっくり返したい」という想いが込められています。
特筆すべき点は、この企画は『カメラを止めるな』の上田慎一郎監督、『幼な子われらに生まれ』の三島有紀子監督、『新聞記者』の藤井道人監督というカラーも性別も異なる3人がチームに分かれ、若手作家育成も手伝いながら共に短編映画を作るという試みなのです。しかもそれぞれのチームが筆頭にあたるプロの監督たちのエッセンスをほんの少し取り入れながら、独自の視点で10分の物語を生み出しているのも良い意味で刺激を受けている結果な気がします。
以前から映画やテレビ業界でも男性同士で集まる性別の分断はあったものの、最近は全体的に世代の分断が起こっているのではと危惧していました。それはSNSの発展によりなのか、世代の近いものの中からセルフプロモーションの上手いカリスマを探すようにも見え、世代も性別も混じり合うという意味で、この企画の意図とする先輩から後輩へ道標を示しながら互いに刺激し合う試みは、互いの能力を上げる為の入門の場にも思えます。
それぞれの作品には、映画への愛や、今、心に引っ掛かっている問題、喪失感からの解放といったコロナ禍ならでは思いが詰まっていましたが、チームのテーマを“共有”に掲げた三島監督の作品『よろこびのうた Ode to Joy』は、この性別と世代の分断に気付き、受入れ合うことを願っているような、老婆と青年が寂しさを“共有”する物語でした。しかも往年の映画女優・富司純子と、確かな演技力が評価されつつある若手・藤原季節が出会い、ほぼ2人きりの演技という興味深い組み合わせ。それが同世代の同性同士、もしくは同性の歳の離れた組み合わせなら物語の展開も読めるのですが、そうでない分、展開の読めない新たな感情が芽生えるのです。
これを見ながら個人的に実感するのは、語り合い生み出す集団は、あえてジェンダーフリーにする、あえて世代を変えてみたり、知名度に振り回されずに自分から探しに行って興味深い人物に声をかけ、新しい空気を時々は取り入れることできっと考え方も視野も広がるのではという思いでした。それは今後、自分も意識しなくてはいけないことなのかもしれません。
『DIVOC-12』
キャスト
横浜流星 / 松本穂香 / 富司純子 / 藤原季節
石橋静河 / 小野翔平 / 窪塚洋介 / 小関裕太 / 安藤ニコ / おーちゃん / 清野菜名 / 高橋文哉
蒔田彩珠 / 中村守里 / 中村ゆり / 髙田万作
笠松将 / 小川紗良 / 横田真悠 / 前田敦子
監督
藤井道人 / 上田慎一郎 / 三島有紀子
志自岐希生 / 林田浩川 / ふくだみゆき / 中元雄 / 山嵜晋平 / 齋藤栄美
廣賢一郎 / エバンズ未夜子 / 加藤拓人
製作
製作:冨田みどり / 齋藤巌 企画・プロデュース:菊地洋平 / 伊藤主税
プロデューサー:佐原沙知 / 川原伸一
主題歌:yama「希望論」(MASTERSIX FOUNDATION)
宣伝クリエイティブ:千原徹也
制作統括:and pictures 制作運営:Lat-Lon
制作プロダクション:BABEL LABEL、PANPOCOPINA、cogitoworks
製作・配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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映画パーソナリティ 伊藤さとり
ハリウッドスターから日本の演技派俳優まで、記者会見や舞台挨拶MCも担当する。全国のTSUTAYA店舗で流れる店内放送wave−C3「シネマmag」DJ、俳優対談番組『新・伊藤さとりと映画な仲間たち』(YouTubeでも配信)、東映チャンネル×シネマクエスト、映画人対談番組『シネマの世界』など。NTV「ZIP!」、CX「めざまし土曜日」TOKYO-FM、JFN、インターFMにもゲスト出演。雑誌「ブルータス」「Pen」「anan」「AERA」にて映画寄稿。日刊スポーツ映画大賞審査員、日本映画プロフェッショナル大賞審査員。