『鬼滅の刃』のように悲劇に見舞われながらも、鬼を成敗する為に仲間と共に刀を振りかざす物語は波乱万丈だし、感情の振り幅も激しいから一気に夢中になれる。
そうよ、とんがった作品は人目を惹きつけるし、キャラクターも個性を押し出している方が面白いし魅力的。
だけど現代で悪に立ち向かう正義の味方はどれだけいるんだろう?悪徳政治家が居ようとも自分の正体を明かし、直談判する一般市民は果たしてどれだけいるのだろう?
だって都会で息を吸っていると、道で倒れた人を見かけても見てみないふりをする人が多いし、電車やバスに乗っていてもお年寄りや妊婦さんに席を譲らない人の方が多い。ここに正義や優しさはあるのだろうか?
ご存知の通り映画やゲームの世界は非現実的。たとえ物語に没頭出来たとしてもそこから「人に優しくなろう」と何人の人が思い、行動を起こせるのか?
だからこそ分かりやすく優しさを教えてくれる映画は必要であって欲しいし、私は見たい。
映画『100日間生きたワニ』は、コロナ禍となった日本のSNS上で話題となり、多くの人がワニの優しさと運命に涙した『100日後に死ぬワニ』が原作。
『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督と妻でアニメ監督であるふくだみゆき監督がタッグを組んで、原作の魅力を膨らませつつ、原作には無かったその後の物語も描いたアニメーションです。
ちなみに原作を映画化する際にプロデューサーや監督がよく口にする言葉があります。
「原作では描かれなかったその後を描きたい」。
だからこそ映画にする意味があるのかもしれない。そう考えると『100日間生きたワニ』という映画化する上でのタイトル変更も、監督たちが描こうとしていることの象徴である気がします。大切なものを失った人々がこの後どうやって生きていくのかを観客の私たちも彼らに寄り添いながら体験する物語になっているのだから。
まさに上田慎一郎監督はインタビュー時にこう語っています。
目次
「コロナ禍によってより日常が恋しくなったんです。当たり前にあった日常が凄く恋しくなって“元の日常を失ってしまった僕らはどうしたらいいのかを探す映画を作ろう”と思ったのがきっかけです」
“いつか死ぬ日までに向かって生きていく”ことで、人に優しく思いやりを忘れず、小さな幸せを噛み締めて生きていくことの素晴らしさを伝えられるけれど、“悲しみを背負って生きていかねばならない人”を描くことで、現実をしっかり見つめてしっかり憂いでしっかり悲しまないと前に進めないんだと気付かされる。見た目はワニやネズミ、カエルといった動物なんだけれど、ちゃんと人間の行動と感情として捉えられる日常の出来事を綴った人生の物語。横断歩道に飛び出そうとした小さなヒヨコを助けたり、元気のない友達をツーリングに誘ったり。
些細な出来事で人の優しさに気付かされ、人は感情を持った生き物だから勇気を出さないと行動を起こせないと気付かされる。愛の告白も席を誰かに譲るのも勇気がいるけれど、勇気を出せたらめっちゃかっこいい!と教えてくれる映画。『100日間生きたワニ』を観たお陰で、前より少しだけ優しくなれた気が勝手にしています。
映画パーソナリティ 伊藤さとり
ハリウッドスターから日本の演技派俳優まで、記者会見や舞台挨拶MCも担当する。全国のTSUTAYA店舗で流れる店内放送wave−C3「シネマmag」DJ、俳優対談番組『新・伊藤さとりと映画な仲間たち』(YouTubeでも配信)、東映チャンネル×シネマクエスト、映画人対談番組『シネマの世界』など。NTV「ZIP!」、CX「めざまし土曜日」TOKYO-FM、JFN、インターFMにもゲスト出演。雑誌「ブルータス」「Pen」「anan」「AERA」にて映画寄稿。日刊スポーツ映画大賞審査員、日本映画プロフェッショナル大賞審査員。
作品情報
「 100 日間生きたワニ」
7月9日(金)よりミッドランドスクエアシネマ他にて公開
©2021「100日間生きたワニ」製作委員会
監督・脚本:上田慎一郎、ふくだみゆき
原作:きくちゆうき「100日後に死ぬワニ」
声の出演:神木隆之介、中村倫也、木村昴、新木優子
公式HP:公式サイト100wani-movie.com
主題歌:いきものがかり「TSUZUKU」
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