映画好きとしても知られ、5月9日公開の『MIRRORLIAR FILMS Season7』の一篇『Victims』で初監督を務める加藤浩次さんと、『SUNA』で監督・脚本・主演を務めた加藤シゲアキさん。4日、東海市創造の杜交流館で行われたオープニングイベント「ミラーライアーフィルムズ 東海市プレミア上映祭」に出席したおふたりにインタビューを行いました。
加藤浩次監督が描いたのは、路上駐車をした車が別の車に挟まれたことから巻き起こる騒動をシュールに描く不条理コメディ『Victims』。
一方、加藤シゲアキ監督が撮りあげた『SUNA』は、砂によって窒息死するという奇妙な事件を追う2人の刑事が直面するサスペンス・ホラー。
愛知県・東海市で撮影されたユニークな2作品の裏側を語っていただきました。
スタッフ総動員!最後はフレーム単位で編集した『Victims』
― おふたりが参加された『MIRRORLIAR FILMS』は、15分という制約された時間の中で表現することが求められた現場だったと思いますが、何か工夫されたことはありますか?
加藤浩次監督(以下、浩次):ないですね(笑)。制限時間を15分もオーバーしてしまい、本当にヤバかったです!15分という時間内に収めるのに、とても苦労しました。
― 具体的には、どのような点で苦労されたのでしょうか?
浩次:繋がらない箇所をなんとか繋げるように、とにかく編集さんには頑張ってもらいました。バサッとカットするのは簡単ですが、そうすると話の繋がりが途切れてしまう。演者さんが一生懸命演じてくれたものを泣く泣くカットしなければならないのは、辛かったです。
加藤シゲアキ監督(以下、シゲアキ):すごく自然に見えました。
浩次:最初は、15分きっちりにおさめなくてもいいと思っていたんです。17分、18分でも大丈夫だろうと。ところが、「それはダメ」とはっきり言われまして、そこからはスタッフ総動員で、みんなにどこなら削れるか相談して、もうフレーム単位で編集していました。編集ってすごいですね。
― シゲアキさんは?
シゲアキ: 僕は最初から15分で2時間の映画のようなものを作るというイメージで、5分、5分、5分という構成を考えていたので、ぴったり15分に収まりました。
浩次:さすがです!
映画はみんなで作るもの
― シゲアキさんは、小説なども書かれていますが、小説と脚本の違いを感じたりはしましたか?
シゲアキ:脚本と小説は全然違います。脚本は基本的に映像作品として進めていくもので、余白の使い方も異なります。小説はすべてひとりでやりますが、映画は本当にたくさんの人が協力してくれます。衣装ひとつとっても、スタイリストの方がイメージを膨らませてくださるので、いろいろなアイデアが出てくる。「映画はみんなで作るもの」だと、改めて実感しました。
― 脚本を執筆されるにあたって、(出演者を想定して)当て書きされたりはしたのでしょうか?
シゲアキ:(浩次さんに)脚本を書く前にキャストって決まってました?
浩次:決まってないですね。脚本を書き上げてから、日野役は奥野さんに、いすゞ役は田辺さんに、という風に考えました。昴役は矢本くんにと考えていましたが、忙しいだろうと思っていたら、やってくれると。皆さんのスケジュールが合うのが1日しかなかったので、1日で撮影しました。
シゲアキ:僕は脚本を書きながら、自分も出るので、この役は自分かなと思ったりもしましたが、完全に想定していた訳ではなく、こういう人にやって欲しいなという思いで微調整しました。(正門良規さん演じる遠山については)脚本の段階にはないサブテキストのようなもの、彼がどういう風に人生を過ごしてきたのかなどは、キャスティングが決まってから考えたので、当て書きした部分もあるかもしれません。
― 『SUNA』に登場する老婆を演じているのは東海市の役者さんなんですよね?
シゲアキ:東海市を舞台にしているので、地元の(加藤)五十鈴さんなら、地域が持つ匂いといいますか、海をずっと見てきた方だからこそ出る味わいやニュアンスのようなものが出るのかなと思いました。
地元の方の協力がなかったら
予算内で映画が撮れなかったかも…
― 東海市の方のサポートもたくさんあったと聞きます。
浩次:ロケハンから、市の職員の方に協力していただきました。車に関しても、東海市の車屋さんから車種を提案していただき、3台選びました。車をぶつけるシーンもあったのですが、それも快く承諾していただいて。また、ボランティアの方には、お弁当を運んでいただいたり、現場を助けていただいたり、本当に助けられました。ありがたい話です。
シゲアキ:僕もたくさんお世話になりました。『SUNA』は、いわゆる当て書きした脚本ではなく、元々あったアイデアだったので、東海市に砂がなければ脚本を書き換える必要がありました。東海市は工場地帯で砂浜がないので「砂がないかも」とシナハン(シナリオハンティング)の時に思ったのですが、東海市の方が砂が溜まっている場所を探してくれて、快く貸していただくこともできました。お弁当などの準備も助けてもらいましたし、撮影機材の「ハイライダー」(カメラや照明を高い位置に設置するための機材)も貸していただきました。ハイライダーは高価な機材なので、貸していただけたことで予算内で映画が撮れました。協力がなかったら撮れなかったと思います。
映画『MIRRORLIAR FILMS Season7』は、伏見ミリオン座、刈谷日劇、東海市創造の杜交流館ほか全国の劇場で2週間限定上映。
短編映画ならではの面白さ、ぜひスクリーンで楽しんで!
取材 松岡ひとみ
取材・構成・文 にしおあおい(シネマピープルプレス編集部)
作品紹介
『Victims』
付き合いたてのカップルである昴(矢本悠馬)といすゞ(田辺桃子)は、路上に停めた車の中でキスをしようとしていた。そこへ見知らぬ少年が現れ、ムードは台無しに。昴は車を発進させようとするが、前後の車が幅寄せして駐車されており、身動きが取れない。さらに後ろの車からは日野(奥野瑛太)が激昂しながら出てきてトラブルに巻き込まれていく――。
出演:矢本 悠馬 田辺 桃子 奥野 瑛太 嶋田 鉄太 雛形 あきこ
監督・脚本:加藤 浩次 プロデューサー:下京 慶子 三輪 夕奈 鈴木 悌之(82style) 共同プロデューサー:伊藤 主税 榊原 有佑 鈴木 貴幸 アシスタントプロデューサー:水谷 繭子(82style) ラインプロデューサー:仙田 麻子 撮影:髙橋 祐太 照明:友田 直孝 録音:桐山 裕行 美術装飾:内田 真由 スタイリスト:池田 未来 ヘアメイク:岩鎌 智美 助監督:高階 貴法 スチール:金子 山 ドキュメンタリー:原田 大誠 編集:塩谷 友幸 カラリスト:皆山 実貴子 オンラインエディター:中野 裕介 サウンドデザイン:桐山 裕行 音楽:THA NEON LILY(永井 カイル、NAGATA) 下田藤 百史
ディレクター 加藤浩次
1969年4月26日生まれ、北海道出身。1989年、山本圭壱と「極楽とんぼ」を結成し人気を博す。現在は、TV番組のMCやコンビ活動の他、俳優としても活躍。最近の出演作に映画『室井慎次 敗れざる者/室井慎次 生き続ける者』がある。
『SUNA』
東海市で「砂」によって窒息死するという奇妙な事件が多発。発見される遺体は鼻や口から砂が溢れ、内臓にまでびっしりと砂が詰め込まれていた。事件の真相に迫るべく、捜査を続ける刑事の狭川(加藤シゲアキ)と遠山(正門良規)。遠山は「犯人は本当に人間なんでしょうか」と、悪魔か何かの所業なのではないかと訴え、次第に事件にのめり込んでいく――。
出演:加藤 シゲアキ 正門良規(Aぇ! group)
章平
加藤 五十鈴 小林 葉菜 木下 真一 近藤 隆 竹内 誠人
監督・脚本:加藤 シゲアキ プロデューサー:三輪 夕奈 ラインプロデューサー:仙田 麻子 共同プロデューサー:伊藤 主税 榊原 有佑 下京 慶子 鈴木 貴幸 撮影:末長 真 照明:大堀 治樹 録音:桐山 裕行 美術装飾:遠藤 善人 ヘアメイクデザイン:酒井 啓介 スタイリスト:蔵之下 由衣 ヘアメイク:小坂 美由紀 助監督:霞 翔太 制作担当:杉浦 青 スチール:細沼 孝之 ドキュメンタリー:原田 大誠 編集・VFX・画面制作:細沼 孝之 カラリスト:皆山 実貴子 オンラインエディター:中野 裕介 サウンドデザイン:桐山 裕行 音楽:岩崎 太整
ディレクター 加藤シゲアキ
1987年7月11日生まれ、大阪府出身。アイドルグループ「NEWS」として活動しながら、俳優としても数々の映像や舞台に出演。12年『ピンクとグレー』で作家デビュー、21年には『オルタネート』で吉川英治文学新人賞、高校生直木賞を受賞。現在、ドラマ『あきない世傳 金と銀2』が放送中のほか、舞台『エドモン〜「シラノ・ド・ベルジュラック」を書いた男〜』(~5月24日)が上演中。
『MIRRORLIAR FILMS』とは
2020年より始動した、伊藤主税、阿部進之介、山田孝之らがプロデュースする『MIRRORLIAR FILMS』(ミラーライアーフィルムズ)。2024年のSeason6までに著名クリエイターから一般公募まで、俳優、映画監督、漫画家、ミュージシャンなどが監督した47本の短編映画を劇場公開し、MIRRORLIAR FILMSは全国の地域と連携しながら映画制作を通じた地方創生や人材育成にも取り組んでおり、愛知県東海市と連携しているSeason7では加藤浩次、加藤シゲアキが監督として参加。2人が東海市で撮影した短編映画に加え、クリエイター育成・発掘を目的に国内外の公募から選出された3作品とともに、オムニバス映画として発表する。2025年以降は、米ハリウッドで開催されているグローバル・ステージ・ハリウッド映画祭とのクリエイター育成に関するコラボレーションを予定しており、日本のクリエイターを世界に紹介するプラットフォームとしても期待されている。
製作:伊藤主税 阿部進之介 山田孝之 関根佑介 松田一輝
支援:東海市 プロデューサー:大橋和実 川原伸一 榊原有佑 下京慶子 三輪夕奈 西原一憲 制作:and pictures
宣伝:ローソンエンタテインメント 配給:アップリンク
公式サイト https://films.mirrorliar.com/
©2024 MIRRORLIAR FILMS PROJECT
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