『MIRRORLIAR FILMS Season7』スペシャルトークショー『SUNA』

『SUNA』は、砂によって窒息死するという奇妙な事件が多発する東海市を舞台に、刑事の狭山(加藤シゲアキ)と遠山(正門良規)が、事件の真相を解き明かしていく姿を描いたサスペンスホラーです。
『SUNA』ゲスト
加藤シゲアキ監督
阿部進之介プロデューサー
進行役は榊原有佑実行委員長
※以降敬称略
榊原「映画『SUNA』より監督の加藤シゲアキさんです。まずは一言ご挨拶をお願いします」
加藤「『SUNA』を監督しました加藤シゲアキです。作品としては短編映画を撮るのは2回目なんですけど映画館でかかるのは初めてなのですごく感慨深いです。東海市に来るのはこれで4回目なので、戻ってきたなと感じます。いよいよこの施設も完成したということで、オープンおめでとうございます。短い時間ですが、よろしくお願いします。」
加藤「東海市 砂がなくて大変だったんですよ。もともと仕事の空き時間に作っていた『SUNA』のプロットがあって、このお話をいただいた時に「なんかありますか?」と言われて見せたののひとつが『SUNA』だったんですけど、その時『MIRRORLIAR FILMS』ではホラーものはやったことがないと伺ったので、じゃあちょっとシナハン(シナリオハンティング)ついでに砂を探してみますか?と、それが昨年の6月で…」
阿部P「それで一度東海市に来て…」
加藤「それが最初ですね。でも東海市、砂がないかもしれないと。Googleマップで見ても砂浜がないんですよね。工場地帯なので、直海、直川。公園の砂も探したんですけどないかなぁーと思っていたら、冒頭に登場する生コンクリート工場さんが、協力して下さって、使ってもいいよということで、この砂で行きましょうと」
榊原「確かにシゲさんと最初に会った時に、東海市の出身者として、監督のやりたい世界に『東海市、こういうこともありますよ!』って一言言いたかったんですけど、出てきた言葉が『砂ありますか?』だったので、(トーンダウンして)あ、ちょっとないですって(苦笑)」
加藤「『鉄はあるんですけど』と言われて、鉄かぁ」
阿部「鉄だと随分話が変わってしまいますよね」
加藤「まだ、シナハンの段階で、脚本に着手する前だったので、砂じゃない説も一応想定はしていました。結果的に砂でいけてよかったです。」
阿部「なんかこう砂のイヤな感じみたいなものが、誰しもあったりするじゃないですか。例えば海に行って(落としたはずなのに)こんなところに砂が残ってるみたいな。そういうところから、こう砂が迫ってきたらイヤだなと思いながら見ていました。」
加藤「そうなんですよね。もともと『SUNA』のプロットを作った理由は、砂ってどこにでもあるのに、あるべきじゃないところにあるとすごくイヤっていう、ある種の人間のワガママというか、よく文学作品でもいろんなメタファーとして登場しますけど、この不愉快さみたいなものは、視覚で見せたほうが効果的に表現できるんじゃないかと思って…だからいろんなところから砂が出てきます。」
阿部「予告編にも登場しますけど、砂に溺れてる遺体のショットって、あれは実際に役者さんが?」
加藤「そうです!東海市の学生さんが。今日も来てるんじゃないかな?」
阿部「ちょっとインパクトがすごくて、怖い雰囲気が次第に強くなっていくという。」
加藤「そうですね。あぁいうクリーチャーの造形みたいなところは、文学ではなかなか表現できない、リアルなビジュアルだからこそのものなので、ヘアメイクの酒井(啓介)さんにこだわってもらってます。多少CGもありますけど…ね」
阿部「各シーン、各シーンのショットが、すごくこう考えられていて、夜のシーンも多くて大変だったと思うんですよ。」
加藤「大変でしたね。MIRRORLIAR FILMS の中でも、いちばん時間がかかったのではないかと。3日間まるまる使って撮ったので。撮影も普段はスチールを撮られている写真家の末長さんという方がやってくれているので、スチール的な構図のきりとり方をしてくれたので…」
阿部「それで1枚の絵のような」
加藤「そういうショットも狙いつつ、シナハンに来た時に『砂はないけど空のプールならあります』って空のプールを見せてもらったら、めちゃくちゃ面白くて、ロケ地として組み込んだり。ロケハン(ロケーションハンティング)の時点で、かなりアングルをきりとることができたのも、撮影には大きかったです。」
阿部「なるほど。東海市に来て、インスピレーション受けながら、どんどん作っていったと」
加藤「そうですね。だから、ほんとにいい掛け算でした。僕が思ってたアイディア✖東海市で使えるロケ地。東海市は本当にいいところで綺麗なんです。だから綺麗な街だとホラーとの相性ってどうなんだろう?と、ちょっと悩ましくもあり。でもその中で、古民家みたいなところも撮影隊が見つけて下さって、協力して探してくれたのでいいものが撮れました。」
阿部「『MIRRORLIAR FILMS』の良さは、地域の方が協力して下さることですよね。『あそこは誰々さんの土地だから』と教えてくれたり、許可をとる手配をして下さったり。僕も秋田で撮影した時は、地域の方かすごい協力をしてくれて、ケータリングもその土地のご飯を用意して下さったり、地元の方々に支えられてやっておりました。』
加藤「たくさんお手紙をいただいて『東海市を盛り上げてくださってありがとう』と言っていただくことも多かったんですけど、逆に砂のホラーで(本当に)よかったのかな?もっとハートウォーミングなものを作ったほうが…とか。でも作りたいものを作って下さいとも言っていただけたので、ただ砂の街になっちゃったらごめんなさいと」
阿部「映画をみて、みんなロケ地の砂を探しに来るんだけど、ないっていうね(笑)」
榊󠄀原「現場に少し立ちあわさせていただいたんですけど、監督をやりながら出演もするっていう中で、体を張るシーンがあって、撮ったあとすぐモニター確認して、もう1回みたいな感じで、現場に戻っていく姿がめちゃめちゃカッコよかったんですけど…」
阿部「質問じゃないんだ(笑)カッコよかったってこと?」
加藤「ありがとうございます」
榊󠄀原「もちろん難しいこともあるかもしれないのですが、逆に監督しながら出演もすることでやりやすかったこととかはありますか?」
加藤「自分で役者をやると決めた理由はふたつ。1つは予算削減(笑)、あと1つは自分で演じれば演出をつけなくていいっていう。やっぱりね、芝居をつけるというのは時間がかかるんですよね。そこが監督としての醍醐味でもあるんですけど、今回かなりタイトなスケジュールだったので、芝居をつけるのは基本的に正門(良規)くんと他の役者で。しかもバディものだから一緒にやってればその場で話せる。そのぶんチェックで時間がかかったりはしますけど、そういう理由で出演しました。ただ、そのチェックで自分の芝居が気に食わない時にNGにするかっていうのはすごく悩ましいところですけど(苦笑)」
阿部「なるほど。確かにそうですね。」
加藤「たぶん気になっているのは自分だけで、自分だからこそ気になる自分の芝居というものがあるので、まわりに『どう思う?』って聞いたりして、あとは編集でどうにかするっていうところはいくつかありました。今回は、一緒にやってくれた正門くんが最初から役を掴んでくれたおかげで、ほとんどNGもなくやってくれたから出来たかなとも思います。」
榊原「阿部さんは、俳優ですけど、監督もするし、プロデューサーでもあるじゃないですか?監督としてやっている時と俳優としてやっている時の感覚の違いみたいなものは?」
阿部「全然違いますね。僕の中では、俳優はすごく主観的に自分の役をみるというか、客観的に見てどういう風に(劇中に)存在すべきか確かめた上で、自分の役から見た世界を主観的に立つんですけど、監督は全体を見ながら、いろいろ計算してバランスをとっていく。役を掘り下げて主観的にみる役者と、全体を客観的にみる監督、その2極があるから成り立つので、僕にはちよっと無理だなーって」
加藤「それはまさにそうで。正門の役についてはすごい考えていたんですよ。短編だと役を掘り下げるにも、ヒントとなるものが少ないので、ざっくりとしたプロフィールや、彼がどういう人生を歩いて、どういう経緯で刑事になって、今なんでこういう家に住んでるかっていうと、こういうことがあったからっていうのをロケハンの中で整理して作ったサブテキストを渡したんですね。
ところが、現場に行ってから気づいたんですけど、僕、自分のサブテキストをまったく作ってなかったんですよ。
自分のどうしよう!と
ただ、それも最初から想定していて、正門と僕の関係そのままが、なんとなく役にも繫がるんではないかと思っていたし、実質ダブル主演みたいになっていますけど、メインは正門なので、自分はその上司っていう形で、酸いも甘いも噛み分けてる設定で作っていったんですけど、現場では少し悩みました。
あとは、自分で書いているので、いくらでも変えられるから、実際言ってみると言いづらい台詞とかあるじゃないですか。撮影の前日、台詞覚えている時に「監督、こっちのほうがいいんじゃないですか?」って、自分で自分に提案したりして。
阿部「そうなっちゃいますよね」
加藤「そうなると思ったので、説明台詞みたいなところは正門に任せて、僕は受け手にいたんですけど、ひとつだけ説明台詞みたいなものがあって、それはめちゃくちゃ大変でした。それがまた、ラストシーンか何かで、終わりが差し迫っているというものすごいタイミングだったんですね。スタッフから『明日FNS歌謡祭なんで!今日中に正門さん出さなきゃいけないんです』と言われながら『あれ?なんで俺出てねえんだよ!声掛かってないじゃん!』みたいな先輩としての…」
阿部「チラつきみたいなものがね…」
加藤「頭にチラつきつつ、時間がない中で、台詞を言うっていう」
加藤「だから、冒頭のモノローグで始まるところも、当日編集しながら『入れた方がいいかな』って足したり、なんでも自由に作れちゃうのが、いいところでもあり、悩んでしまうところでもあったっていう。難しくも楽しいところでした。」
阿部「その視点の入れ替えは非常に難しいですね。逆に言うと、監督から役者にしっかり切り替わっているからこそ、読みにくさがわかったってことですよね」
加藤「そうですね。だから、いろんな視点で物語を理解できたっていうのはあります。」
阿部「僕も俳優をずっとやってきて、初めて監督した後、また俳優に戻った時に、なんか見え方が変わったりしてて。物語の深め方みたいな、何か違うのをもらったなっていう感じはありましたね。」
榊原「ありがとうございます。でも、本当にカッコよかったです!」
阿部「ねぇ、(もしかして)うちわ持ってる?(笑)」
最後のメッセージ
加藤「短編映画ならではの5作品だとも思いますし、バリエーション豊富な、個性が際立った作品ばかりで濃密な1時間ちょっとになっていると思います。短編映画ってなかなか触れる機会がないと思いますけど、こういうタイミングで楽しんでもらえたらなと思います。『SUNA』の感想も、一緒に見た人たちと語りあってもらえたら嬉しいなと思います。本日はありがとうございました。」
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