伊藤さとりの映画で人間力UP!女性監督」にスポットライトを当てる意味とは。

 

ある調べによると日本映画界における女性監督の割合は2023年時点で629名中74名だそう。確かに日本のインディーズ映画では、最近、若い女性監督の作品が増えてきてはいます。しかしながら、メジャー映画ではどうなのか見てみると、2024年のシネコンで話題を呼んだ女性監督の実写作品は、目立つもので、佐藤嗣麻子監督による『陰陽師0』、塚原あゆ子監督の『ラストマイル』、同監督は『グランメゾン・パリ』の公開が12月、そして10/18には荻上直子監督の『まる』などいくつか公開があるものの、シネコンで上映される作品は男性監督によるものがまだまだ多い状況。そのせいか日本アカデミー賞で最優秀賞を受賞した女性監督が居ないのが現実です。このことも踏まえ、日本の映画制作現場の労働環境改善の活動を行う近藤香南子さんと、それぞれが2024年秋に開催する「女性監督にスポットを当てる」イベントについて話し合います。

対談者:日比谷シネマフェスティバル2024 『女性記者映画賞』女性監督トークショー付き無料野外上映イベント

企画・伊藤さとり(映画パーソナリティ、映画評論家)

第37回東京国際映画祭ウイメンズ・エンパワーメント部門 シンポジウム

『女性監督は歩き続ける』 企画・近藤香南子(現場スタッフマネージャー)

伊藤:近藤さんとは同じ志というか、映画業界のジェンダーギャップがなくなることを願って活動している同士みたいなものですよね。私は映画ライターの渥美志保さんと“どうしたら映画業界で人前に立つ人や地位のある人が男性ばかりではなくなるか”を話し合い、2022年に「女性記者映画賞」を立ち上げました。そのことをもっと多くの人に知ってもらいたいと思い、東京ミッドタウンさんに相談したところ、日比谷シネマフェスティバル2024での「女性記者映画賞」イベント上映(10/11~14)を開催するのはどうかと、言って下さったんです。このタイミングで、近藤さんは今年の東京国際映画祭で「女性監督は歩き続ける」というシンポジウムを11/4に開催するなんて嬉しい限りです。どんな理由から企画を立ち上げたんですか。

近藤:以前、国立映画アーカイブで女性映画人の特集を立て続けにやっていたんですが、その時、熊谷博子監督の『映画をつくる女性たち』(製作:2004年)という映画を観ることが出来たんです。この作品を女性の作り手たちに観てもらいたいと思って。一口に女性といっても皆個別のバックグランドを持っているので状況は違うと思いますが、どんな壁があり乗り越えなくてはならないのか、どんな未来を作りたいと思っているかなどを、女性監督同士で話し合う場があってもいいのではないか、と思って妄想で企画書を書いて東京国際映画祭に提出しました。その結果、今年の東京国際映画祭のウイメンズ・エンパワーメント部門のシンポジウムとして「女性監督は歩き続ける」(11/4)というタイトルで開催される運びになりました。

伊藤:登壇する監督たちのキャスティングはどう決めていったんですか。

近藤:今回、最終的に固まった内容としては「東京国際女性映画祭」(1985年〜2012年)にゲストで来て下さっていたインドネシアの大女優クリスティン・ハキムさんが今年来て下さる予定だそうです。彼女に当時の思い出を語って頂こうと思っています。

それから映画を上映し、その後、映画に出演していた女性達:浜野佐知さん、熊谷博子さん、山崎博子さん、松井久子さんの4人の監督に登壇してもらいます。当時のことや25回も開催された「東京国際女性映画祭」(世界中の女性監督の作品を上映し、女性監督らが交流する映画祭)が果たした役割などを話して頂こうと思っています。

色々な方にお話を聞くと「東京国際女性映画祭」は文化的な作品に特化していたことから、少し閉鎖的になってしまったこと、時流に合わなくなってしまったこと、そして高齢化などの反省点もありました。当時、新しい人を入れるなどしてこの場が継続されていたらどんなに良かっただろうと私は思っています。そんな話も含めて、色々とお話して頂こうと思っています。

実はこの映画のラストに佐藤嗣麻子さんと西川美和さんが少しだけ登場するんですが、佐藤嗣麻子監督ほど戦ってきた女性はいないと思うので、是非、お話を聞きたいと思って一番にお声がけをしました。そして西川美和監督も大きな存在なのでお声がけしました。そのあとの世代になると人数が本当に多いので…本当に別の枠でやりたいと思うぐらい層が厚いんです。だからちょっと飛ばさせてもらって、少し若い人も引っぱり込みたいと思って岨手由貴子さん以下の世代にお話をもっていきました。

伊藤:岨手由貴子さん、ふくだももこさん、甲斐さやかさん、金子由里奈さん、この監督陣のキャスティング、面白いと思いました。環境も年齢も違う女性陣ですね。

近藤;半分は子育て中の方ですね。もっとも若い金子さんを選んだのは言いたい事が沢山あるのではないか、と思ったところと不器用そうだと思ったからです。

伊藤:確かに。才能があるのだから、もっとフィーチャーされていいと思っているものの、なんとなく同じ監督に一点集中しがちというか、これが映画業界の悪い点というか。

近藤:彼女のようなこれからの女性監督が沢山いると思います。スケジュールの調整がつかず、ご出演が叶わなかった監督さんもいらっしゃいましたが、皆さん興味を持って下さいました。

伊藤:いいですね。私も今回の「女性記者映画賞」無料イベント野外上映で、受賞した監督たちの思いを届けられたらと思って企画しました。初日の10/11は、女性記者映画賞のアンバサダーになって頂いた俳優のMEGUMIさんとのトーク付き『愛にイナズマ』の上映で、12日は第二回最優秀監督賞を受賞した荻上直子監督とのトーク付き『波紋』の上映、13日は第一回最優秀新人賞を嵐莉菜さんが受賞した『マイスモールランド』で川和田恵真監督とのトーク付き上映。14日は映画賞を共に立ち上げた映画コラムニストの渥美志保さんと「日本における女性をエンパワーメントする映画製作の現状」を第一回最優秀外国語映画賞受賞作『セイント・フランシス』の上映前にトークを行います。色んな立場、色んな世代の女性監督から日本映画界における女性監督の壁も聞けたらと私も思ってのことですが、近藤さんも世代も状況も違う女性監督を集めた理由はなんですか。

近藤:ひとつは「東京国際女性映画祭」のゼネラルプロデューサー髙野悦子(1929~2013)さんがやった事を皆さんに知って欲しい、再確認して欲しいということです。

今はジェンダーギャップの話が上ったり、特集などが組まれ女性監督に対してもスポットが当たっています。でも過去にスポットライトを当てると女性映画人に対して不条理なものがありました。髙野悦子さんという女性と「東京国際女性映画祭」が果たした役割を東京国際映画祭の場で振り返ることで、功績を残したいという気持ちになりました。「東京国際女性映画祭」は東京国際映画祭の協賛企画でしたが、私より下の世代の人たちは知らない人が多い。存在を知らなかった人たちに知らせたい気持ちが大きいです。

もうひとつは、私は以前から女性スタッフや女性映画監督と“緩やかに繋がりたいね”という話をしていたんです。でもそれって結構難しいことなんです。今回のような企画を毎年やれば、別に強制力があるわけでもないので“来れる人が来る”みたいな感じで女性スタッフと女性監督が上手く繋がれる場所に出来るのではないかと思いました。夜には交流会とかもやろうと思っているんです。招待状も出すので、海外の女性監督も日本の女性監督も来れるような場に上手く繋げられたらいいと思っています。

当日配布する女性監督の資料も作っていますが、1990年代までは女性監督は数えるほどしか居ないんです。そこから爆発的に増えていくのが目で見てわかるので興味深いですよ。

でも日本アカデミー賞は1978年に始まったのにも関わらず、2010年に西川美和さんが『ディア・ドクター』で33回目にして女性初の優秀監督賞。2021年に河瀬直美さんが『朝が来る』で優秀監督賞、2022年に西川美和さんの『すばらしき世界』が優秀監督賞を受賞しましたが、それでも女性監督の名前が上がるまで何十年もかかっているんです。

伊藤:そうですね。それに日本アカデミー賞では女性監督は、最優秀監督賞はまだ取っていません。私もその問題に映画業界の人たちが気づいてくれたらと考えています。近藤さんとしては、日本アカデミー賞などメジャーな映画賞で女性監督が受賞出来ない理由は、なんだと踏んでいますか。

近藤:私は映画名鑑を買うのですが、めくった時に各社の首脳というページがあるんです。そこには各社の役員の顔写真が載っているページがあるのですが、あのページの風景が半分女性にならないと変わらないと思っています。

伊藤:同意見です。私もこの業界にいて、大手映画配給会社が集まる会の司会を頼まれたことがありますが、政治と一緒で年配の男性しか居ないんです。映画賞の審査員を頼まれた際、いくつかの映画賞で言われたのが、「女性を入れたい」だったんです。でも私以降の審査員の方で新たに入って来るのは男性。理由を聞くと知人である男性から「審査員をやりたいから入れて欲しい」と言われるからと。この話を聞いた時、これは無意識のホモソーシャルだと気づきました。そのせいか映画賞の審査員も男性が8割というところも多い。

そして監督賞は男性監督の受賞です。だから私は「女性記者映画賞」の審査員を女性のみにしました。実際のところ、女性ライターや女性記者は多く居るのに、映画賞の審査員をしていない人が非常に多い。映画賞における監督賞も男性監督になってしまいがち。であれば、審査員をあえて女性記者、女性ライターのみにし、女性の監督をフィーチャーして監督賞を選ぶのも良いかもしれない。多くの人に彼女たちの存在を知って欲しいと思ったからで、いつかこの映画賞の名前から「女性」が消えるくらいジェンダーギャップがなくなることも願っています。近藤さんは、女性が撮影現場に入る、女性の監督が今より増えることでどんなメリットがあると思いますか。

近藤:作品全体で面白い映画が増えるかどうかは、わからない部分がありますけど、多様さは絶対に確保されると思います。

今まで私たちは、男性的な目線で作られた作品が氾濫している中で生きてきました。そういった映像が氾濫している中で子ども達は育っていく。日本ではあまりにも責任がない状況で垂れ流しているものが多いと思うんです。女性の目が入ることで、今よりもより多様な目線が生まれる。そのことで固まった男性的な目線が少しほぐされていって欲しいと、個人的には思います。

伊藤:そうですよね。映画賞での審査をしていると、男女では作品の評価に隔たりが生まれるんです。

全員ではないですが、男性の中には刺激の強い作風を高く評価する方が一定数います。一番、興味深いのは、レイプシーンや自死のシーンです。今、海外ではこれらのショットをダイレクトに映すのはタブー視されているのに、日本は暴力シーンも含め、寛容。そういったショットが入った作品も評価の対象にしてしまうことが多く、この感覚の違いが審査員になって一番の衝撃でした。こういった理由から、映画賞も男性目線だけでは日本映画史の評価が偏ってしまうと気づきました。映像が人に与える影響ってやっぱりあるので、映画賞での評価は重要だと思っています。

 

近藤:映像って社会全体への影響が大きいと思うんです。映像は少人数で作っていても、何万人もの人が目にします。そのことを考えずに作品を作っているものが多くて、文化祭のような感覚で作品を撮りつづけている人が多い気がしています。楽しいのは理解出来ますが、大人には責任があると私は思っているので、相応の年齢になったら文化祭は辞めて、責任のある作品を撮って欲しいです。男性はどうしても永遠の文化祭状態で撮っている人が多いので、そこに女性監督が入っていくことで変化が起きればいいと思っています。

 

伊藤:私もずっと思っています。心理学を学んだり、専門家の方々と話していて気づいたことでもありますが、映像心理の専門家は日本の映像業界を心配しています。アメリカなどでは規制が入っていますが、日本はそれがただ漏れであると。映像が与える影響については10年後に結果が出るそうです。アニメだろうと5歳から暴力的な作品ばかり観ていたら、15歳になった時にどのような影響を及ぼしているかが分かるそうです。そういったことも踏まえて、男性と同じように様々な環境下の女性が映像作品を発表できればいい。だって映画を観るのは男性だけではなく、色んなジェンダーの人たちですからね。

 

 

伊藤さとり「女性記者映画賞」発起人

日比谷シネマフェスティバル「女性記者映画賞」トークショー付き野外無料上映イベント

10/11(金)〜11/14(祝)開催、18:30トークショー 19:00上映開始

会場:東京ミッドタウン日比谷 ステップ広場 トークショー付き無料野外上映。

「女性記者映画賞」アンバサダーMEGUMIさん、女性監督とのトークショー付き上映

イベント公式ホームページ↓

https://www.hibiya.tokyo-midtown.com/hibiya-cinema-festival/

 

近藤香南子

「女性監督は歩き続ける」発起人

東京国際映画祭2024ウイメンズ・エンパワーメント部門「女性監督は歩き続ける」シンポジウム

11/4(月)9:30開場 10:00〜17:00予定(休憩あり)

会場:東京ミッドタウン日比谷 BaseQホール

『映画をつくる女性たち』参考上映+トークによる1日シンポジウム

*日英同時通訳あり。

有観客、無料、事前申込制

詳細・申込は下記より

https://tiffwe-jyoseikantoku.peatix.com

 

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