佐野史郎さん特撮の魅力を語る『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』名古屋舞台挨拶で

『ゴジラ』『ガメラ』『大魔神』シリーズをはじめ、数多くの特撮作品の造形を手掛け、怪獣造形の礎を築き上げた村瀬継蔵さんが総監督を務めた映画『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』の名古屋舞台挨拶が、8日ミッドランドスクエア シネマで行われ、特撮好きとして知られ特殊美術造形家・時宮健三役で出演する佐野史郎さん、プロデューサーで特撮監督の佐藤大介さんが登壇。特撮への想いを語りました。以降、敬称略。

最初の特撮映画体験は『キングコング対ゴジラ』のはずが…

佐野史郎(以降 佐野)本日はお越しくださいまして本当にありがとうございます。時宮健三役を務めさせていただきました佐野史郎でございます。 短い時間ではございますが、あれやこれやお話できればなと思っております。よろしくお願いします。

佐藤大介 特撮監督(以降 佐藤)『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』プロデューサーと特撮監督を務めました佐藤と申します。本当でしたら、総監督の村瀬継蔵監督に来ていただければと思っていたのですが、体調のほうを鑑みまして代理という形で務めさせていただきますので、本日はよろしくお願いいたします。

MC 松岡ひとみ(以降MC) 村瀬継蔵総監督は、劇中にもチラリと出られていましたね。名古屋というと、佐野さんはお久しぶりでいらっしゃいますか?

佐野 そうですね。そんなに頻繁に…ではないですけれども、、東海テレビさんのドラマをやっていたとか、CBCテレビさんのお仕事とかNHK名古屋放送局のラジオドラマに出演したりしているので、たまに来ます。

MC でも、やっぱりスクリーンの前がお似合いですね。

佐野 ありがとうございます。

MC そして佐藤さんは、名古屋で撮影された怪獣映画のお仕事をされていたそうですね。

佐藤 2006年公開の『小さき勇者たち〜ガメラ〜』という作品で、造形助手として関わっておりまして、 伊勢志摩のロケにも参加していました。とくに名古屋駅前は、ミニチュアセットでずっと見ていたので、懐かしい気持ちを感じました。

MC 撮影中、エキストラとして参加された方もこの中にいらっしゃるかな?佐野さんといえば、怪獣映画が大好きで…。

佐野 そうですよね。昭和37年に公開された『キングコング対ゴジラ』が最初の体験でした。その前に公開された『モスラ』(1961)も父親に連れられて映画館に行ったらしいんですけど、怖がっていてずっと後ろを向いていたので記憶にないんです。だから、最初に映画館で観たのは『モスラ』だそうです。だから、のちにフランキー堺さんと共演させていただいた時は、内心「おぉ~(あの時の…)」と思っておりました。

MC では、村瀬総監督とお会いしたのは?

佐野 当時は、お会いしてないと思います。『キングコング対ゴジラ』が小学校2年生の時で、その当時でも特撮の神様といえば「円谷英二さん」みたいなことは、僕たち子どもたちでも知っていましたけれども、造形作家が誰だとか、スーツアクターの中の人がどういう人かまでは、やっぱりわからないし、今と違ってそういう情報は語られることはなかったので随分あとまで村瀬さんのことはわからなかったです。ただ、僕は1986年に映画デビューして、『帝都物語』の時に実相寺昭雄監督に可愛がっていただいて、怪獣映画ではないですけれど特撮に触れて、原口智生(特殊メイクアーティストや造型師として知られる)さんとも仲良くなって、現場で造形の方とかと話す機会が増えて、村瀬さんが僕の好きな作品を手掛けていらっしゃったことを知って、だから今回その村瀬さんの分身ともいうべき時宮健三役を仰せつかったので、お話をいただいた時に「これは責任重大だぞ、えらいことだと思っていました!」

MC さっそく佐野さんから熱い思いが溢れておりますが、佐藤さんは今回どういった経緯で携わることになったんです?

佐藤 もともと村瀬継蔵総監督は、先ほど佐野さんのお話にも出た円谷英二監督の下で、造形師としてゴジラスーツとかをずっと作り続けてきた方で、それこそ『日本誕生』(1959)のヤマタノオロチとか、昭和、平成のキングギドラも作っている方で。1970年代に香港のショウ・ブラザーズ(香港映画の黄金時代を支えたスタジオ)という会社に呼ばれて、特撮プロデュースみたいな形で行った時に、プロデューサーの方から「企画書とか書いてみないか?」と言われて書いたのが「カミノフデ」。40年以上その企画自体は映画化ができなかったんですけれども、テレビ局の方からのちょっとしたきっかけで「映像化しよう!」という話になって、ようやくこのような形で映画化することができました。

MC そして佐野さんにご出演のオファーがあって…ということですが、脚本をご覧になった時は、どのように感じられましたか?

佐野 まずは「ヤマタノオロチ」が出てくるのと、制作クレジットの中にTSKさんいん中央テレビの名前が入っていて、僕は松江(島根県)の出身なのでお声かけいただけたのかな?ということもあって、「ヤマタノオロチ」のことをまず考えました。そもそも、ゴジラにしても、モスラにしてもラドンにしても、『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964)でキングギドラが登場した時は、あまりの衝撃に口をあんぐり開けてみていたのをよく覚えています。もちろん松江で見ていたこともありますけど、ギドラを見た時に、これは「ヤマタノオロチ」だって思ってました。そういうことですよね。

この仕事を初めてから田中友幸プロデューサーを知って、黒澤明監督が『七人の侍』で日本らしさを取り戻そうとしていた時に、田中プロデューサーは神話とか、太古の時代まで遡って、アイデンティティを取り戻そうとしていた方で、それを子どもたちに伝えようとしていたんです。そして今回の「ヤマタノオロチ」ですから、なおさら思いは強かったですね。

ヤマタノオロチの操演は15人の人間が関わって…

MC 村瀬総監督のキャリア、オマージュもたくさん登場して…。ところで「ヤマタノオロチ」は、今回どうやって操演されているのですか?

佐藤 本作に登場するヤマタノオロチは着ぐるみなので、中に人が入って前後に動く動きなどは人が中に入ってやっているんですけど、基本的には操演怪獣ですのでピアノ線で首をすべて吊って口の操作とかも15人の人間が関わって一体の怪獣を動かすという仕組みになっています。

MC とにかく人の手で操演して、村瀬総監督もたくさんの怪獣や造形物を作って、爆発させたり、すごいですよね。

佐野 そうですね。僕は、今回特殊美術造形家という設定なので、ひたすら造形の現場にひとりで、たまに孫娘(鈴木梨央)もいましたけれど、他の俳優さんと絡むことなくひとりでコツコツ、コツコツとやっていました。そして、こう特撮の現場が好きなものですから、『帝都物語』もそうですけど、僕はミレニアムゴジラ(ゴジラ2000 ミレニアム)が、最初のゴジラシリーズなんですけど大怪獣総攻撃の時も、自分の撮影が終わったあとは、隣の隣のスタジオに作られたセットに行ってずっとずっと見学してしてましたよ。もうそれは楽しくてねえ。でも僕だけじゃないですよ。亡くなられた田中好子さんなんかもねえ「自分の出番が終わると観に行ってたのよ」なんておっしゃっていました。彼女もキャンディーズもザ・ピーナッツに憧れていたので『モスラ』に対する思いなんかも熱く語ってらっしゃいました。だから、特撮現場に見学に行ってたのは僕だけじゃないです。スーちゃんも観に行ってました(会場笑)。

MC みなさん夢中になってたというエピソードですけど、佐藤さんも小さな頃から夢中になって、今もずっと続けていらっしゃるわけですけど、あらためて感じる特撮の魅力は?

佐藤 そうですね。特撮の魅力。今回の作品は本当にアナログ特撮という、CGやCGのキャラクターを使わないという撮影の仕方をしているんですけれども、魅力は本物の実際に制作された着ぐるみを使って、みんなでいろんな知恵を絞りながら、いかにして巨大に見せるかを考えながら作っていくっていうのがやっぱり醍醐味としてあって、あとはそこに本物がいるという存在感ですよね。そこはCGとは違った感じ方ができるという魅力があるのかなと思っています。

MC アナログ特撮ということで、佐野さんは映画をご覧になってどのように感じられましたか?

佐野 アナログでの撮影ね。僕が子どもの頃見てたのと同じ撮影方法で、ミレニアムシリーズも基本的には変わらなかったですけれども、その方法で撮られた久しぶりの映画ですよね。そういう技術も他で使われていたりして絶えたということではないと思うんですけど。話題になるのはどうだろう?2014年ギャレス・エドワーズ監督のレジェンダリーゴジラあたりから、オールCG、VFXで、日本の『シン・ゴジラ』(2016)や『ゴジラ-1.0』(2023)もそうですし、そういう中でスーツアクトのミニチュア特撮ものの作品を観たいという思いはファンとしてもありますよね。VFXには、VFXの良さがあって、細かい描写だったり、本物のようにリアルに見せる、そういう熱意を感じられると思うんですけど、アナログものは、作り物だってみんなわかっているかもしれないけど、そこに本当にあるっていう。役としても、本物のように見せようとして演じるのと、そこにある中で演じるのではやっぱり違う。なんかこう、やっぱりねゴジラがそこにいるって思いたいんだよね。その違いがあります。「そんなの作りものじゃないの」と言われたって、物語の中に本当に存在する。嘘がない。アナログの特撮は本当にそこにあるというのが、魅力なんだと思います。

黒澤監督オマージュ!帽子は樋口真嗣さんからのリクエスト

MC 本作は、子どもたちが冒険するという、冒険ファンタジーとしても楽しめます。朱莉(鈴木梨央)や卓也(楢原嵩琉)を冒険に誘う祖父の知り合い穂積を斎藤工さんが、監督役を樋口真嗣さんが演じています。

佐藤 (黒澤明監督を彷彿させるあの帽子は)衣装部が用意したものではなく、樋口真嗣さんから「この帽子買って下さい」ってオーダーがあって、用意したら、あの恰好で来たという。

佐野 注入したいんだろうね。わかります気持ち。釈さんもね。ゴジラシリーズの中で、印象に残ってますから嬉しいですよ。

MC 斎藤さんも特撮大好きでいらっしゃるので、お声かけされたんです?

佐藤 そうですね。特撮好きということを知っていたのと、ちょうど村瀬総監督の知人に斎藤さんと共通の知人の方がいらっしゃって、お話したら斎藤さん自身が村瀬さんのことを知っていたみたいで、興味ありますと言っていただけました。

佐野史郎さんもテンション上がった、キノコのシーン

プレゼント用のキノコもひとつひとつ手作りする村瀬継蔵総監督

MC そして、なんといっても村瀬総監督のキャリアを象徴するキノコ…がね。

佐野 出てましたね。初号試写観た時に『マタンゴ』(1963)だ!(笑)って思いました。嬉しかったです。もちろん台本上にもあるんですけど、やはり実際に出てくるとねえ、ちょっとテンション上がりますよね。もちろんヤマタノオロチは重要だし、印象に残るんですけれども、キノコもね。

佐藤 監督の1番こだわりポイントだったので、登場するキノコの造形も12本作ったんですけど、すべて村瀬総監督がひとりで造形から塗装までされているというぐらいの気合の入りようなんです。

佐野 キノコを撮りたかったんだよね?

佐藤 やっぱり村瀬さんのキャリアの中で『マタンゴ』っていう作品に関わってたこと自体が心にずっと残っていて、思い出深かったので『マタンゴ』の要素は入れたかったと本人から伺っています。

佐野 子どもの頃から、もちろん怪獣たちが戦っているシーンも好きだったんですけど、人間のドラマもすごく好きで『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(1966)のラブシーンとかね、ああいうのが小学生ながらなんかドキドキドキドキしちゃってね。好きだったんだよね。ああいうのはね。『キングコング対ゴジラ』でも、キスシーンは出てこないんだけど、口紅が…みたいなシーンは、子ども心ながらなんかわかっちゃうだよね。それが言いたいんじゃなくて(笑)。なので、人間のドラマが際立つのは暗い話が多いんだけど『マタンゴ』は密室劇のようなところもあって、まあ好きでした。

ドゴラ(1964年公開『宇宙大怪獣ドゴラ』のこと)も好きだったしね。だから、友だちとはなかなか話が合わなかった。『マタンゴ』なんて、キノコが食べれなくなったり、しいたけが食べられなくなった同級生とか本当にいましたから。そのぐらい強烈な体験で。怖すぎちゃって。水野久美さん演じるマミのキスは、小学生には強烈でしたよね。その作品も村瀬さんだったんだって、あとから知りました。

アナログな撮影方法で作る作品がもっと増えるといい

MC もっと、もっとお話聞きたいですが、そろそろお時間が。

佐藤 本日は『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』をご覧いただき本当にありがとうございました。ぜひ、良かったと思ったら、お友達やご家族に紹介して、口コミで広げていただければと思います。本日はお越しいただきありがとうございました。

佐野 先ほどもお話しましたが、ずっとここ10年ぐらいはVFXの特撮映画というか、ゴジラシリーズでも怪獣映画にしてもそういう作品が目立っていたと思うんですけど、『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』は、原点回帰というか、後々非常に重要な作品になってくるんじゃないかなって思います。レジェンダリーゴジラしかり、モナーク(怪獣対策組織)シリーズにしても、結局はアナログな特撮というものに対するリスペクトがものすごくひしひしと伝わってきますし、日米関係なくキングコングの時代から両国がキャッチボールしながら技術を高めていって、とても戦争してた国とは思えないぐらい共に作り上げていこうとする感じがしています。『カミノフデ~』をきっかけに、アナログな撮影方法で作る作品が、また見られるようになればと思います。多くの方にもっともっと見ていただいて、これからの作品に繋がればと思っております。今日はありがとうございました。

MC 松岡ひとみ
取材・文構成 にしおあおい

映画『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』は、ミッドランドスクエア シネマほか全国順次公開中です。

作品紹介

【ストーリー】特殊美術造形家・時宮健三が亡くなった。祖父である時宮の仕事にあまり良い思い出がなかった朱莉は、複雑な心境でファン向けのお別れ会を訪れていた。そこには特撮ファンである同級生の卓也の姿もあった。朱莉と卓也は、時宮が作ろうとした映画『神の筆』に出演する予定だったという穂積と名乗る男と出会う。祖父が映画を作ろうとしていたことを初めて知る朱莉。穂積は、おもむろに鞄から『神の筆』の小道具である筆を手に「世界の破滅を防いでください」と話すと、その言葉とともに朱莉と卓也は光に包み込まれた。気づくと二人は映画『神の筆』の世界に入り込んでいた。そして、映画に登場しないはずの怪獣ヤマタノオロチがこの世界のすべてを破壊し尽くそうとする光景を目の当たりにする。元の世界に戻るため、二人は時宮が作るはずだった映画『神の筆』の秘密に迫っていくのだが…。

原作・総監督:村瀬継蔵
プロデューサー・特撮監督:佐藤大介
脚本:中沢健 音楽:小鷲翔太
オリジナルコンセプトデザイン:高橋章
怪獣デザイン:西川伸司
主題歌:DREAMS COME TRUE「Kaiju」(DCTrecords/UNIVERSAL SIGMA)
出演:鈴木梨央
楢原嵩琉 町田政則 馬越琢己 吉田羽花 樋口真嗣 笠井信輔 春日勇斗
釈由美子 斎藤 工 佐野史郎
配給:ユナイテッドエンタテインメント
ⓒ2024 映画「カミノフデ」製作委員会
公式X(旧Twitter):@Kaminofude
公式サイト:https://kaminofude.com

シネマピープルプレス編集部

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