松本幸四郎、切れ味が良い市川染五郎の殺陣に97点と笑顔『鬼平犯科帳 血闘』名古屋舞台挨拶で

劇場版『鬼平犯科帳 血闘』の公開記念舞台挨拶が5月12日、名古屋・ミッドランドスクエア シネマなどで行われ、“鬼平”こと長谷川平蔵を演じた松本幸四郎、若き日の鬼平・長谷川銕三郎を演じた市川染五郎がそろって登壇。長回しで撮影されたという殺陣(たて)を振り返ったり、役に込めた想いなどを語りました。

時代小説の大家・池波正太郎の生誕100年記念作品として制作された本作。若き日の“鬼平”を知る居酒屋のおまさが密偵になりたいと申し出ることからから物語が始まり、平蔵が“鬼平”と呼ばれるようになった経緯を紐解きます。

染五郎の殺陣は「コンパルを食べた」っていう発言を引いて…(幸四郎)
100点を目指します(染五郎)

映画上映後、大きな拍手で迎えられる中で登壇した長谷川平蔵役の松本幸四郎は、満席の会場を見渡しながら感謝の思いを述べると「(柿葺落四月大歌舞伎で)襲名披露させて以来なので、少しご無沙汰していますけど。名古屋は芸どころと言われていますし、2月に博多座で上演した舞踊劇(鵜の殿様)が、名古屋で作られた作品で縁を感じています。食べるものだと、名古屋で食べる味噌は美味しいですし、エビフライもあって、『鬼平犯科帳 血闘』の監督が山下監督なので「世界の山ちゃん」にも親しみを感じております」と、会場の笑いを誘いました。

一方、若き日の平蔵を演じた幸四郎の長男でもある市川染五郎は、「職人たちの結晶がこうして多くの人に届くことが嬉しい」と喜びをにじませつつ「控室で「コンパル」という喫茶店のエビフライサンドをいただきました。行ったことはなかったのですが、お店の名前は知っていてずっと気になっていたので、それを食べられたことが嬉しかったです」と笑顔を見せました。

今回、ふたりで一役を演じたふたり。お互いに印象に残ったシーンを聞かれると幸四郎は「『~血闘』というタイトルだけあって戦いや立ち回りの多い作品ですけど、劇場版ならではのスケールの大きさとダイナミックな映像が楽しめる。染五郎の殺陣もかなり切れ味がよく、殺陣を教える先生から随分と指導していただいた成果が出たんではないかなと思っております」とコメント。司会から染五郎の殺陣の点数を問われると「『コンパルを食べた!』という発言を引いて97点」と回答。それを受け染五郎は「100点を目指します!」と力強く語りました。

これと決めたものには何があっても立ち止まらない
平蔵にはそんな強さがある(幸四郎)

その役作りに関しては「父と同一人物を演じるということで、父の平蔵にどれぐらい寄せたらいいのか、逆にどれだけ意識せずにやるかということは、初めて脚本を読んだ時から考えていました。でも、銕三郎からすれば平蔵は未来の姿になるので、あまり意識しすぎてもおかしいと思い、銕三郎という人物を演じることに徹していました」と染五郎。

一方、幸四郎は「平蔵は、とても強い男だなと思います。懐の深さもありますけれど、これと決めたものには何があっても立ち止まらない、後退もせず前に突き進む。そんな強さがあると思うんです。そして“鬼平”と呼ばれるだけあって、鬼のような平蔵ですから、鬼と呼ばれるような映像を目指して平蔵を演じさせていただきました」と役作りについて話しました。

1969年に初代松本白鸚(八代目松本幸四郎)主演で映像化されて以来、丹波哲郎、萬屋錦之介、二代目中村吉右衛門が演じてきた『鬼平犯科帳』。令和になった今も、愛される理由について「勧善懲悪、白か黒かという話ではなく、善人も悪人も「人間」として描かれているところ。人と人が相対する大切さ、出会ったからこそ生まれるドラマ、知ること、学ぶこと、楽しいこと、悲しいこと、全部出会うことから始まるのが、この時代のドラマなんですね。そういう人と人の繋がりは、いつの時代にも通じるものがあって、それが今だからこそ必要とされる。そんな風に感じています」と語った幸四郎。

楽しみと大変さを味わいながら挑んだ殺陣(染五郎)
映画は瞬発力の積み重ね、舞台は長距離走(幸四郎)

迫力のある殺陣が見どころ。市川染五郎も「撮影中、大変だったことは?」という観客からの質問に、殺陣のシーンを挙げています。染五郎演じる銕三郎にとってのクライマックスとなるシーンは、長回しでの撮影だったようで、「最初から最後までカメラを回しっぱなしで一発で撮った」と明かすと、「これで銕三郎を演じ納めなきゃいけないというプレッシャーと高揚する気持ちもありながら、殺陣、アクションというのを、楽しみつつ、大変さも味わいながら挑んだシーン」と印象に残ったことを振り返りました。

そして幸四郎には歌舞伎などの舞台と映像の演じ方の違いに関する質問があり、「役を演じるというのは、歌舞伎でも映像でも表現方法は違えども一緒だと思っています。ただ、幕が開いたら最後閉じるまで何があっても止まらないという舞台と、ひとつひとつの芝居を細かく撮っていく映像では、心構えが違います。映画は、何秒間の積み重ねが2時間という作品になって、そこで出し切る瞬発力の集中力が必要。一方、舞台は、その意味では長距離走。始まったら終わりまで走り切らなければいけないので、その持久力が求められ、同じことをすることが大切になってきます。もちろん、その日のお客様との呼吸によって、変わることはありますが、映像のほうがライブ感があります。この作品を撮影していたのが、昨年の今頃ですけど、今同じことができるかと言われればできない。あの時でなければできない芝居を、こうしてスクリーンの中で見ることができるという感じがします」と答えました。

最後は幸四郎が「『鬼平犯科帳』は叔父(中村吉右衛門)が長く務めてきた作品で、遡れば祖父(初代松本白鸚)が演じたのが最初に映像で登場した長谷川平蔵。そういう作品を、やらせていただけるのは本当に幸せですし、それを令和といういまの時代に新しいチームで作った作品。世界一の職人たちが集まった京都の撮影所で『鬼平犯科帳 血闘』という傑作が完成したので、みなさまのご協力をよろしくお願いします」と締めくくり、会場をあとにしました。

映画『鬼平犯科帳 血闘』は、5月10日よりミッドランドスクエア シネマほかで公開中です。

取材・文・写真 にしおあおい( シネマピープルプレス編集部 )

作品データ


長谷川平蔵(松本幸四郎)が若かりし頃に世話になった居酒屋の娘・おまさ(中村ゆり)が密偵になりたいと申し出て来る。平蔵はその願いを退けるが、おまさは平蔵が芋酒や『加賀や』の主人と盗賊の二つの顔を持つ鷺原の九平(柄本明)を探していることを知り、独断で探索に乗り出す。九平を探すうちに凶賊・網切の甚五郎(北村有起哉)の企みを知ったおまさは首尾よく網切一味の中へ入り込む。しかし、おまさは絶体絶命の危機に陥る。

『鬼平犯科帳 血闘』
原作:池波正太郎『鬼平犯科帳』(文春文庫刊)
監督:山下智彦 脚本:大森寿美男
音楽:吉俣良
出演::松本幸四郎
市川染五郎 仙道敦子 中村ゆり 火野正平
本宮泰風 浅利陽介 山田純大 久保田悠来 柄本時生/松元ヒロ 中島多羅
志田未来 松本穂香 北村有起哉
中井貴一 柄本明
配給:松竹
©「鬼平犯科帳 血闘」時代劇パートナーズ
公式サイト https://onihei-hankacho.com/movie/

トップページに戻る

おいしい映画祭

アーカイブ