佐藤健×長澤まさみ×森七菜共演『四月になれば彼女は』山田智和監督インタビュー

佐藤健×長澤まさみ×森七菜共演『四月になれば彼女は』で
壮大なラブストーリーを撮りあげた山田智和監督にインタビュー

3月22日より映画『四月になれば彼女は』がいよいよ公開を迎えます。そこで、40万部突破した川村元気の同名小説を原作に、10年にわたる愛と別れを壮大なスケールで描き出した山田智和監督にインタビュー。佐藤健、長澤まさみ、森七菜ら俳優陣とのエピソードから、短期間で10か国を巡るハードな撮影、そして主題歌を手掛けた藤井風や音楽・小林武史とのコラボレーションまでじっくり聞きました。

四月。結婚を控え幸せな日々を送る精神科医の藤代俊(佐藤健)のもとに手紙が届く。それは、かつての恋人である春(森七菜)からで、10年前の恋の記憶がつづられたものであり、俊の心に小さな波紋を呼ぶ。そんな中、婚約者の弥生が突然姿を消し…。

2020年、プロデューサーの川村元気さんから声をかけられたことがすべての始まりだったと山田智和監督は振り返ります。「川村さんからは『原作に囚われず、山田監督の新しい解釈で自由にやって欲しい』と言われました。原作を読んでみると、それぞれの登場人物が魅力的で、様々な価値観が描かれていました。それが原作の魅力ではあるのですが、そのままでは映画の2時間というフォーマットの中では描き切れません。そこで、映画では佐藤健さんが演じる藤代を中心に、婚約者の弥生と、学生時代の恋人から手紙が届く春の物語を描くことにしました。そのため、まずは原作には描かれていない弥生の人生を川村さんと一緒に考えることから始めました。」

フィクションでありながらドキュメンタリーのような空気感を演出

佐藤健演じる藤代俊の婚約者・弥生を演じたのは、長澤まさみ。先日行われた完成披露試写会では、頼もしいムードメーカーぶりを明かされていたが、監督もその存在に随分救われたという。そして、もうひとりのヒロイン、藤代の学生時代の恋人・春を演じたのが森七菜。

初々しい春と藤代のシーンは、多くのシーンでアドリブで撮影され、山田監督が得意とする物語の行間に生まれる感情を丹念に掬い取るスタイルで行われた。図書館でフジとハルが旅行の準備を楽しそうにするシーンもほぼアドリブ。佐藤も「(相手が)森七菜ちゃんだったから成立した」と振り返っている。

「もちろん今まで僕が撮ってきたMVや短編と長編ではアプローチは異なるんですけど、キースタンス(撮影スタイル)は『変えないでいこう』と思ってました。幸い、俳優部もスタッフも、それを理解してくださる方々ばかりだったので、脚本のセリフを喋ってもらったうえで、その前後や行間を自由に動いてもらう形で撮影していきました。フィクションではあるんですけど、ドキュメンタリーのような空気感が出せたかなと思います。」

監督も感動!佐藤健がみせた繊細な芝居

そんな山田監督が、撮影していく中で手応えを感じたのが、予告編にも登場するエスカレーターで佐藤演じる藤代が見せたある表情「大学生のハルとフジのシーンから撮影がスタートして、積み重ねてきたものが、フジのあの表情に集約されてて、前半戦を象徴するような素晴らしいシーンになった。ああいう素晴らしいお芝居が撮れた時は、ものすごく嬉しかったですし、芝居の素晴らしさを感じたシーンでもあります。本当に感動しました!」

そんな佐藤について監督は「本当に優しい方で、フラット(あまり感情の起伏をみせない)にみえても、心が燃えている人。だから、言葉にしなくても、こちらが燃えていることをわかってくれていたので、撮影中は、本質的なところで会話ができていた気がします。そういった信頼できる人でした。」と明かす。

本作で佐藤健が演じるのは、精神科医の藤代俊というキャラクターです。彼は優しく、いつも穏やかで、感情をあまり表に出さないため、誤解されがちです。その感情のバランスをどのように築いていったのかについて、監督は「そこはかなり2人で濃密な話し合いを持ちました」と語ります。「涙を流すという行為ひとつとっても、果たして涙を流すことが本当に『悲しい』表現になるのか?確かに泣いたり叫んだりするほうが芝居としては成立するし、わかりやすいですよね。しかし、そうやってうまく感情を表せないのが藤代という男性です。彼は複雑で、かなり繊細な演技を要求されます。『何を考えているかわからない』と言われるリスクもありますが、『敢えてそこに挑戦しよう!』と思いました。だから、感情の強弱の出し方や全体のバランスについてはかなり話し合いました」と付け加えます。

そんな藤代が時折見せる躍動感が、物語をエモーショナルなものにしているのも見どころのひとつです。「静かな物語ではあるけれど、人は誰しもがガムシャラで一生懸命になる瞬間があります。恋愛なら尚更ですし、そうでなくても、幼い頃に何かに触れて夢中になった記憶は誰にでもある。フジが走るシーンもそのひとつ。実は、佐藤さんが走るのがあまりに速すぎて、カメラが追いつけなかったりもしました。しかし、追いつけるまでやり続けました。もちろん、佐藤さんが走るスピードを落とせば撮影はできますが、佐藤さん自身が『手は抜きたくない!』と言ってくれました。感情の問題ですよね、あそこでは感情に突き動かされて走っています。そのガムシャラに全力で走る姿が、あのシーンでは非常に重要でした。スタッフも応えてくれて、躍動的な素晴らしいシーンに繋がりました。すごくいいお芝居だったと思うので、そこを言ってもらえるのはすごく嬉しいです。」と笑顔をみせました。

繊細な表現で勝負する佐藤さんの心の扉をたたくのは…

藤代が通うバーの店長に仲野太賀、ハルとフジの大学時代の写真仲間に中島歩、弥生の妹・純に河合優実、藤代の病院の同僚ともさかりえ、ハルの父親に竹野内豊ら、実力派たちが顔を揃えています。そのキャスティングについて山田監督は「僕が好きな方々です」と述べます。

「今回は、信頼できる方にシンプルにお願いしました。佐藤さんが藤代として、繊細な芝居で勝負する中で、彼に(問いかけという)ノックをする大事な人たちですから。短い時間で、役が持っている人生観を表現するセリフを発しなくてはならないし、その言葉が主人公の気づきでもあり、観ている僕たちの気づきでもあるので、重要なんです。すごく難しいお芝居の連続でしたけど、いろんな愛のカタチを見せてくれたと思います。」

ウユニ、プラハ、アイスランド…10ヵ国を巡る21日間
ハルの踏み出す1歩に込められた監督の想い

ウユニ、プラハ、アイスランド、東京。壮大なスケールで展開する本作。息をのむようなウユニ塩湖の絶景がスクリーンいっぱいに広がり、時を刻むプラハの天文時計に圧倒されます。その風景が心象風景となり、登場人物に寄り添っているのが心に残ります。「原作者でもある川村さんが『映像化不可能』と言っていましたが、それでもアイルランドの『黒い砂浜』やボリビアの『ウユニ塩湖』は、ハルにとってすごく意味のある場所なので、現地で撮影したいと思っていました。

ただ、4年前の企画が始まった頃は、ちょうどコロナ禍に突入した時で、まずは国内でどう進めるべきかと考えました。当時は海外で撮影するなんてとても言い出せず、ストイックにこの作品と向き合いながら、様々な制約の中で撮影を進めていました。そもそもあの時は、映画作りなんて言える状況ではなく、明日の生活も見えない不安でいっぱいでした。その状況をポジティブに解釈し、「この作品で何を描くのか」「何が大切なのか」「そんな中でなぜ海外に行くべきなのか」という議論をたくさん重ねました。高いハードルを乗り越えたことは財産となり、モノづくりにおいても自分の支えとなりました。だから、原作はコロナ禍前に書かれたものですが、コロナ禍を経た現在の方が、よりしっくりくるような気がしています。

偶然か必然か、劇中でフジとハルの前に、ある日突然超えられない壁が立ちはだかります。あの時の僕たちも、突然、強制的に大きな壁が設置され、外に出たくても自由に出ることができませんでした。だから、ハルが踏み出す1歩というのは、その時の境遇にも重なる気がして、扉を開けて旅に出るハルの姿が、観る人の心にシンクロするといいなと思います。」

2023年の冬、ボリビア、アイスランド、チェコなど計10ヵ国を21日間で撮影しました。「実際に行って、ハルの目線になりたかったし、ハルが手紙に込めた想いを探す旅でもありました」と監督は振り返りますが、その旅は大陸を横断するかなりのハードスケジュールでした。春役の森七菜も、あまりの強行日程に1度泣いたそうです。

「みんな忘れてしまっているかもしれませんが、こうして海外に行けたことはもちろん、そもそも国内で映画の撮影ができたことも、こうして映画館で上映されることも、すごくありがたいし奇跡的なことだと思います。」

小林武史さんが音楽をやってくれるのは素直に嬉しかった

映画監督を目指していたという学生時代、ヴィム・ヴェンダース監督の映画や押井守作品、岩井俊二監督の映画をよくみていたという山田監督。本作では、岩井俊二監督の新作『キリエのうた』をはじめ、『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』で音楽を手掛ける音楽プロデューサーの小林武史氏が、劇中音楽を手掛けています。

「川村さんの力が大きいんですけど、音楽を小林武史さんがやってくれる。もう素晴らしいな。嬉しいなという気持ちでした。小林さんの劇中の音楽は、説明的ではなく、登場人物ひとりひとりに自然と寄り添うイメージで、主題歌の藤井風さんもクランクイン前からお願いしたいと思っていた方なので、嬉しかったです。今回いろんな作業につきあってくれた川村さんも、僕が持っている音楽的な感覚をすごく信用して、いろいろと引き出して下さった。本当に、いい環境の中で映画作りができたと思います。」と振り返りました。

最後に、「邦画ではなかなか見られないような景色やスケール感のある映画に仕上がりました。しかし、そこに描かれている物語は、非常に身近な問題であり、自分の半径数メートルの世界に存在するような話でもあります。そして、俳優が見せる息遣いや表情といった人生の一瞬一瞬のキラメキが音楽と相まって体験できるので、ぜひ大きなスクリーンで体感していただきたいです。映画館の扉を開けて始まるまでの高揚感、扉を出て映画館を後にした時に感じる様々な感情。スッキリしているのか、モヤモヤしているのかはわからないけれど、その感覚は劇場でなければ味わえないものです。ぜひ、この作品で体感してください。」と結んだ山田智和監督。

映画『四月になれば彼女は』は、2024年3月22日(金)よりミッドランドスクエア シネマほか全国ロードショー。俳優たちが織りなす素晴らしい演技とスクリーンいっぱいに広がる美しい映像、そして音楽が一体となって、心揺さぶる作品となっています。愛と人生について考えるひとときを、ぜひ、映画館でお楽しみ下さい。

取材・文:にしおあおい シネマピープルプレス編集部

取材こぼれ話

山田智和監督が、最近、観た映画は、宮崎駿プロデュース、高畑勲監督のアニメーション『おもひでぽろぽろ』(1991)「この作品は、定期的に見るんですけど。定期的に見る作品って、いつでも見た当時の気持ちに戻れるパターンと、見る時期によって感じるものが大きく変わっていくものがあるんですけど、『おもひでぽろぽろ』は後者。見る時によって変わる。不思議な映画だなと思いますけど、たまに見ますね。スタジオジブリ作品好きなんですよ。」

『おもひでぽろぽろ』(1991)
原作:岡本 螢 ⋅ 刀根夕子
脚本・監督:高畑 勲
製作プロデューサー:宮﨑 駿
プロデューサー:鈴木敏夫
声の出演:今井美樹 ⋅ 柳葉敏郎ほか
上映時間:約119分
配給:東宝
公開日:1991.7.20(土)

作品紹介

4月。精神科医の藤代俊に、かつての恋人・伊予田春から10年前の初恋の記憶を綴った手紙が、ウユニ塩湖から届く。その後も世界各地から春の手紙が届いた。その頃、俊は婚約者の坂本弥生と結婚準備をしていたが、俊にある謎かけを残して、弥生は姿を消す。川村元気の同名小説を、佐藤健を主演に迎え映画化したラブストーリー。かつての恋人から手紙を受け取った精神科医が、失踪した婚約者を捜し求める。

作品名:四月になれば彼女は
監督:山田智和 原作:川村元気
出演:佐藤健 長澤まさみ 森七菜
仲野太賀 中島歩 河合優実 ともさかりえ 竹野内豊
3月22日(金)より全国公開
© 2024「四月になれば彼女は」製作委員会
公式サイト:https://4gatsu-movie.toho.co.jp/
公式X:@4gatsu_movie



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