俳優、東出昌大が語る『いただきます』の豊かさ 映画『WILL』名古屋の舞台挨拶で

狩猟ドキュメンタリー『WIILL』名古屋舞台挨拶で東出昌大語る

2月16日から公開中の狩猟ドキュメンタリー映画『WILL』の公開記念舞台挨拶が18日センチュリーシネマで行われ、俳優の東出昌大さん、監督したエリザベス宮地さんが登壇。映画を通して伝えたい想いや狩猟生活でのエピソードなどを語りました。

本作は、俳優・東出昌大さんが狩猟しながら生活する姿を追ったドキュメンタリーです。※以下敬称略

『ゴッドファーザー PART II』や、たけし映画の世界が…

上映後「これが僕の普段着なんですけど…」とオレンジ色のニットキャップをかぶり、赤とオレンジのフリースジャケットで登場した東出は「本日は足を運んでいただきましてありがとうございます」と感謝をのべると「狩猟を撮った映画なので『殺された動物が出てくるんだろうな』『そういうものを目にするんだな』みたいな覚悟を持って来られたんだろうなと思うと大変に嬉しく思います。今日は、この映画の続きになるようなお話ができればと思います」と挨拶。

服装については「狩猟に行く時にも着ていて、狩猟ってこういう赤とかオレンジ色の上着を着ていないと、誤射とかあった時に保険がおりないんで、こういう服を着てるんですけど、(こういうところで着ると)まー、目立ちますね」とコメント。

一方、監督は、登山家の服部文祥さんと初めて会った日のことを振り返り「オーラ…というとちょっと違うんだけど、服部さんと初めて会った時に眼光が鋭すぎて、本能的に『この人には絶対勝てない』そんな雰囲気を感じました。聞けば、猟師さんには眼光が鋭い方が多いみたいで…」と話すと、

東出「服部さんはギラギラしていらっしゃいますね。一緒にいると禍々しいものを見ているような感じになります。僕にはふたりの師匠がいるんですけど、群馬にいる阿部達也さんは、物静かだし柔和な部分もたくさんあるんですけど、やっぱり目の奥には光るものがある。猟友会に所属することになって『挨拶に行くぞ』って連れて行かれた時も、そこに日向ぼっこしながら座ってらっしゃるだけなのに、もう、その姿が『ゴッドファーザー PART II』でデ・ニーロがドン・コルレオーネになってシチリア島に行って、昼からワイン飲んでるマフィアの人たちの光景にしか見えなくて、(それぐらい)みなさん迫力があるんです」

監督「僕もね、でっくん(東出さんの愛称)が、猟友会に加入するって聞いた時は『たけし映画かな?』って思った。あの迫力は自然の中で、自然を相手にしてるからなのかな?」

東出「だと思います。生き物の命をとるなかで、動物と自分の境界線がなくなることもあったりして。動物って自然の中でみると、ものすごく逞しく見えるし、神々しかったりする。奈良公園の鹿と山で見かける野生の鹿は比べると全然違って、奈良公園の鹿はどこかまったりしているし、野生の鹿はものすごくキラキラしてて強い。それが良いとか悪いとかじゃなく、人間も同じで、自然の中にいるとそういう厳しさのようなものが容姿にも表れるのかなって」

眼光に関しては『WILL』撮るにあたってすごく大事にしていた(監督)

監督「眼光に関しては『WILL』撮るにあたってすごく大事にしていて、写真家の石川竜一くんが山から下りてきて『鹿の内臓の写真』を見せてくれた時に受けた衝撃だったり。山から来た直後の竜一くんの目は、生命力にあふれた鋭い眼光で、それが写真とセットで焼き付けられたんです。それをコロナ禍になった時思い出して『短編を撮ろう』と思ったのが、始まりでした」

東出「(監督が)おっしゃる通りだと思います。服部さんも、サバイバル登山家を名乗っていらして、米だけ持って、山の中で食料を調達しながら北海道無銭旅行みたいな、お金を持たないで野山を駆け回ったりする方なんですけど。その服部さんがおっしゃるには、4日、5日、文明から離れた生活を送っていると文明が抜ける感覚があるみたいで『自分が動物になっている感覚を持つと人ってものすごくギラギラし始める』と。だから、(僕も)数日山を駆け回って久しぶりに里に下りて人に会うと『ギラギラしてる』って言われるし、事務所に所属していた時は『狩猟に行ってくる』って言うとマネージャーさんに『作品に影響でそうだから行かないで』って止められることがあって、確かに(山から)帰ってきたらギラギラしているというか、例えば翌日『コンフィデンスマンJP 』の撮影があったとして、そんなギラギラした状態でボクちゃんはできないので『じゃあ行かないようにしよう』と自制することはありましたね」

監督「服部さんも、1~2週間山に入ってると、その間『ずっと動物のことばかり考えている』と。どう動物が動くかを考えているうちにどんどん動物の本能に近づいていくから『渋谷を歩いている人間よりよっぽど動物の方が共感できる』みたいなことをおっしゃっていました」

東出「シンプルなんですよね。動物は獲られないよう生きようとするけど、僕らは獲っていきたいと思ってる。以前の僕もそうだったんですけど、お洋服を求めて原宿を歩いていて、スマホを持ってたりすると、いまこれが流行ってて、みんないいって言ってるから、あの服を狙いにいこうとか。自分がどう見られたいとか、今後どういう生活を送っていきたいとか、人との関係が今の僕には煩雑さを感じるぐらい、山の生活はシンプルな魅力にあふれています」

靴下を繕って生活していきたいなっていうのが僕の人生の幹
この幹は絶対に枯らしたくないもの(東出)

トークが盛り上がる中、会場からの質問コーナーも。

観客「東出さんは今後、俳優としてどんな風になっていきたいですか?」

東出「いろ~んな表現方法があるんですけど、ここはエピソードトークで!服部文祥さんが着ているちゃんちゃんこがあるんですよ。中学生の頃から着てるって言ってて、裏はめちゃくちゃツギハギだらけなんです。そのちゃんちゃんこ僕『すごくカッコイイな』と思って。初めて服部さんと山小屋でお会いした時も、それを着ていらして、なんか僕も『そうなりたいな』って思ってる部分があります。服部さんはとにかくすごい生活を送っているので、そこまでできるかわからないですが。

でもSDGsで僕もエコバックやマイボトルを持ち歩いたりしているんですけど、それでも追いつかないぐらい気候変動は目の前に来てるのを実感していて。服部さんが面白いこと言うなーって思ったのが『東京の町とかビルとか全部ゴミだぞ!いつかはゴミになるぞ!』という言葉で、日本は、高度経済成長以降その恩恵を受け、たくさんのビルを建てたと思うんですけど、数百年後…200年、100年、下手したら50年後にはゴミになってるかもしれないし、そのつけを払わされるのはのちの世代で。服部さんが『(地球にとって)癌だとしても良性の腫瘍でいたい』って言ってるんですけど、人間は生きている限り、動物を殺すし、二酸化炭素も出すし、それでも生きたいと思っている中で、なるべく負担をかけたくないなって。

靴下に穴が開いたって繕いながら生活していきたいなっていうのが僕の人生の幹なんです。役者は、その幹から生える枝だと思っているので、いろんな経験を役者としていい絵で表現したいけど、この幹(信念)は絶対に枯らしたくなくて。若い頃は、承認欲求もあったし競争もある中で『逃げたい』という願望もどこかにあって、仕事が忙しくなっていく中でよくわかんなくなっていた自分があったんですけど、今はこの幹を太く生きていきたいなって思ってます」

観客「ドキュメンタリーということで、監督の描きたいものと東出さんが撮って欲しくないもののせめぎ合いもあったと思うのですが、どうやっておふたりで作り上げたのかお聞きしたいです」

監督「撮影も編集も、全幅の信頼を寄せていただきました。仮編集で「ここは…」みたいなものもありましたけど、そこは理詰めで攻めました(にっこり)」

東出「僕のPVを撮ってもらう訳ではないのでカットして欲しいって言うのは難しくて。カメラを回してる時に『ここは使わないでくださいね~』って言ったところをバンバン使っているので『マジ?』とは思いましたけど、その容赦のなさが映像作家なのかなって思いました。あと主に『カットして下さい』と言った1番の理由は、瞬間瞬間を切り取ることで違法行為をしていると誤解されることだったので、リーガルチェックはかなり入念にしていただきました」

監督「確かに、そこはかなり時間がかかりましたね」

僕の最終的な目標は死の淵で『あぁ~いい人生だったな』って言えること(東出)

観客「作品を通して『人間の考えを優先させている』ことについて今まで考えたこともなかったので、ショックというか響くものがあったのですが、おふたりは、どんな風に自分の中に持っているのかお聞きしたいです」

東出「(作品が)完成したら、ある意味(いろんなことが)自分の中でクリアになると思っていたら、ずっと混乱したままなんですね。でも、この人間としての中途半端さみたいなものが、人間の魅力だと思っていて、ものすごく長い時間の中で未来を築いてきて、未来への想像力を働かせることもできる。何も解決してないし、混乱したままだし、『WILL』観るたび、『俺の今の生活はこれでいいのか?』と自問自答するし、無自覚でいたくないとも思う。

僕は役者で、例えば、映画賞をとるとか、ものすごい興行収入を生む作品の主演をはるとか、可視化できる数値として『多くの人たちに感動を与えられた』みたいなことを感じることはあるんですけど、それだけが人生の幸せではない中で、僕の最終的な目標は死の淵で『あぁ~いい人生だったな』って言えること。

僕はやっぱり動物が好きだし、狩猟が好きだし、動物の近くに住むこの環境がずっと続いて欲しいし、後世に残したいという思いもある。『WILL』という映画や、取材を通して、この思いをアウトプットしていくうちに自分のものじゃなくなってしまいそうな気もするんですけど。願いとしては、猟師の高齢化の問題もあるので、若手の猟師が増えて欲しいし、里山に住んで動物との境界線を保ちながら、僕らしく感じる豊かさや幸せな生活を楽しんで『人生良かったな』って終わりたいなって、今はそれを目標にしています」

『いただきます』の本当の意味をいろいろ考える中に
豊かさみたいなものを感じる瞬間がある(東出)

最後に、宮地監督が「映画館を出て日常に帰った時に、何か残ったものがあれば初めて『WILL』を作った意味が生まれる。ぜひ『WILL(意志)』と出会った意味を見つけていただければ…」と言葉を結ぶと。

「本当の意味での『いただきます』の意味をいろいろ考える中に豊かさみたいなものを感じる瞬間があって。忙しい生活の中で『きっついな毎日』と思った時に、目の前にあるハムにも命があってそれをいただいてるんだなって考えると、その時間が豊穣なものになる。この映画がその一助になれば」と東出さんが挨拶を締めくくりました。

舞台挨拶終了後には、実際に訪れた観客らと言葉を酌み交わしたふたり。映画『WILL』は、センチュリーシネマほか全国で順次公開中です。

【動画】映画『WILL』予告編

作品紹介

水道もガスもない中
狩猟で獲た鹿やイノシシを食べる

時には朝から晩まで山を歩き
狩猟をする

地元の人たちと触れ合い
日々感じ、考え、葛藤する

そこにMOROHAの
リリックが重なりあっていく

作品タイトル『WILL監督・撮影・編集:エリザベス宮地
出演:東出昌大 服部文祥 阿部達也 ⽯川⻯一 GOMA コムアイ 森達也 他
音楽・出演:MOROHA
2024 年|日本|カラー|ビスタ|140 分|DCP|映倫審査区分:G
製作・配給・宣伝: SPACE SHOWER FILMS 
©2024 SPACE SHOWER FILMS
公式サイト https://will-film.com/
公式 X @WILL_movie0216
公式 Instagram @will_movie0216

取材・文 にしおあおい(シネマピープルプレス編集部

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