伊藤さとりの映画で人間力UP!「佐々木史朗さん」

『日本映画の作り方〜森田芳光監督と佐々木史朗さんのおみおくりを通して』

映画紹介を生業にする中で映画の司会も仕事で頼まれることが多く、その流れから映画製作の方が企画するパーティや俳優のトークショーの司会もしたりしていたのですが、映画人生の中で特に忘れられない“お手伝い”がいくつかあります。

森田芳光監督の告別式

そのひとつが、森田芳光監督の告別式(2011年12月24日)の司会で、大手4社の映画配給会社から「森田監督のお葬式は形式ばったものにしたくないという関係者の意向で」という依頼でした。前日のお通夜にお邪魔して、森田監督の遺影にご挨拶を終え、葬儀場の方の進行を拝見させてもらいつつ、「そうではないお別れの会のような司会で」と言われたことを頭の隅に置きながら、『(ハル)』(1996)で森田監督と話していたことを思い出していました。

「俺は、いつも時代より早く思いついちゃうんだよ」そう言って苦笑いした森田監督の映画『(ハル)』は、パソコン通信で出逢った男女の物語を深津絵里さんと内野聖陽さん共演で見知らぬ人との交流を描いたもので、確かにトム・ハンクスとメグ・ライアンの似たような映画『ユー・ガット・メール』(1998)より早かったのです。“流行より早過ぎて共感されづらい”と森田監督は言いたかったようですが、私は「とても好きですよ、センチメンタルで」とその時、本心から伝えたっけ。

映画製作会社オフィス・シロウズの社長・佐々木史朗さんとのお別れ

あれ以来、故人の葬儀の司会はもう無いだろうと思っていたのに、今年また映画人のお別れのお手伝いをすることになるとは。しかも森田芳光作品の中でも3本の指に入るくらい好きな映画『家族ゲーム』(1983)の製作プロデューサーで映画製作会社オフィス・シロウズの社長である佐々木史朗さんの「お別れ会」の司会をするなんて。佐々木史朗さんは2022年4月18日に自宅で息を引き取りました。享年83歳。私が最初にお会いしたのは多分、『ナビィの恋』(1999)舞台挨拶裏で、以来、数多くの作品でご挨拶してばかりでした。一方的に挨拶をするとニコニコと「よろしくね」と返してくれるのが恒例のやりとり。最後にお会いしたのは、確か2022年2月2日の「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2021合評上映会の会場。史朗さんが自ら「ポチ」と名付けた酸素ボンベを引っ張って、新人監督の作品を見に来ている姿を見かけたのでした。生涯、若手監督育成を胸に、新しい才能にセンサーを立てていたから毎年、司会をする度に、この会場でご挨拶する映画人のひとりである佐々木史朗さん。

日本映画、面白いんです。

7月26日に行われた「佐々木史朗さんお別れの会」は、オフィス・シロウズのスタッフが考え、湿っぽくならず、史朗さんの仲間たちが集まる場にしようという思いで、私に進行して欲しいという声がかかりました。この日は、佐々木史朗さんがTBSを退社して最初に設立した東京ビデオセンターの中村芙美子さんや、映画『遠雷』(1981)で共に映画を作った根岸吉太郎監督、佐々木史朗さんプロデュース『風の歌を聴け』(1981)でデビューした室井滋さんが代表して思い出を語ったのですが、『ブレードランナー』(1982)が大好きだった佐々木史朗さんの為に、映画スコアに乗せて後輩たちが作り上げた思い出写真が連なる映像には目頭が熱くなりました。映画はスターありきで人気俳優をキャスティングし、ある程度の収益を見込んで本来作るものではない。面白い才能を発掘してその監督の手腕を信じて、映画館で味わえる作家性の強い監督が生み出す世界を観客に届ける仕事が映画プロデューサー。そう、新しいこと、面白いことにチャレンジする精神を忘れない人がプロデューサーなのだ。この考えを持って映画の仕事を今もしている私は、佐々木史朗さんが生み出した『転校生』(1982)や『家族ゲーム』(1983)『すかんぴんウォーク』(1984)などの映画に刺激されて、大作からミニシアター系まで邦画も大好きなまま映画館が居場所のような大人になったのでした。日本映画、面白いんです。とても、とてもね。

映画パーソナリティ 伊藤さとり

 

 

 

 

ハリウッドスターから日本の演技派俳優まで、記者会見や舞台挨拶MCも担当する。全国のTSUTAYA店舗で流れる店内放送wave−C3「シネマmagDJ、俳優対談番組『新・伊藤さとりと映画な仲間たち』(YouTubeでも配信)、東映チャンネル×シネマクエスト、映画人対談番組『シネマの世界』など。NTVZIP!」、CX「めざまし土曜日」TOKYO-FMJFN、インターFMにもゲスト出演。雑誌「ブルータス」「Pen」「anan」「AERA」にて映画寄稿。日刊スポーツ映画大賞審査員、日本映画プロフェッショナル大賞審査員。

 

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