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人生のマジックアワーだったと思える、かけがえのない時間を描く
『明け方の若者たち』
大学生活最後の年、飲み会で出会った「彼女」に一目惚れ、本気の恋愛にのめり込んだ「僕」の5年間を描く青春ラブストーリー。
10〜20代に支持される作家、カツセマサヒコのデビュー作を、23歳の松本花奈監督が、繊細な心理描写で映画化した本作。
学生から大人になっていく変化や葛藤が描かれるのは『花束みたいな恋をした』と共通しているけど、こちらはもっとリアルで切実。
世界の全てだと感じるほど人を好きになる幸せ、社会人になって知る理想と現実のギャップ、ままならない日々の中にある、明日になって欲しくないと思うほどかけがえのない瞬間…
いつか振り返れば、人生のマジックアワーだったと思えるあの頃のリアルが映し出されていて、懐かしさと切なさが込み上げた。
途中である秘密を明かす構成も絶妙で、人生の残酷さと儚さがより深く胸に迫ってきた。
原作は未読だけど、原作の引用であろうセリフも印象的で。あの頃の自分ならグサグサ刺さりまくっただろうな。
「僕」を演じた北村匠海はさすがの安定感。
内側に複雑な感情を渦巻かせるような芝居が本当に巧い。
そして「彼女」を演じた黒島結菜は、ちょっとズルいところもある年上の女性を嫌味なく演じていて好印象。
一歩間違えば恥ずかしくなる名言をナチュラルな言葉として放つ「尚人」役の井上祐貴もよかった。
今回の写真は飲み会を抜け出した「僕」と「彼女」が公園で飲む缶のハイボールをチョイス。
「僕」はこれからもハイボールの空き缶を見るたびに、あの頃を思い出すんだろうか。
公開中 「明け方の若者たち」 出演/北村匠海、黒島結菜、井上祐貴、山中崇、楽駆、菅原健、高橋春織、三島ゆたか、 岩本淳、境浩一朗、永島聖羅、木崎絹子、寺田ムロラン、田原イサヲ、わちみなみ、 新田さちか、宮島はるか、佐津川愛美、高橋ひとみ、濱田マリ 監督/松本花奈 脚本/小寺和久 原作/カツセマサヒコ「明け方の若者たち」(幻冬舎刊) 製作/「明け方の若者たち」製作委員会 日本公開/2021年12月31日(金)全国ロードショー 配給/パルコ
公式サイト
©カツセマサヒコ・幻冬舎/「明け方の若者たち」製作委員会
「明け方の若者たち」松本花奈監督インタビューはこちら!
映画ライター 尾鍋栄里子(おなべえりこ)
映画館バイト→雑誌映画担当→映画ライターと、人生の半分を映画業界の片隅で生きる名古屋人。
朝日新聞、中日新聞、フリーペーパーなどで映画紹介記事を執筆中。
映画フリーペーパー C2【シーツー】web版ブログ〝オー!ナイス!”不定期掲