12月の「One Frame Theater」は冬に観たい映画『ベイビー・ドライバー』のエドガー・ライト監督最新作『ラストナイト・イン・ソーホー』を紹介。アニャ・テイラー=ジョイ、トーマシン・マッケンジーという注目の若手女優が共演する幻惑のホラーです。
舞台となるのは、英国ロンドンのソーホー地区。ファッションデザイナーを夢見るエロイーズ(トーマシン・マッケンジー)が田舎から憧れのロンドンにやって来たことから物語は始まります。
彼女がある夜眠りにつくと、不思議な夢を見ます。そこは、憧れの60年代のロンドン。好奇心に導かれるまま入ったクラブで、アニャ・テイラー=ジョイ演じる歌手を夢見るサンディに出会った彼女は、いつの間にか彼女とシンクロしていることに気づきます。夢の中では、サンディとして60年代のソーホーのキラキラした世界を満喫するエロイーズ。そこでは、大胆になれたり、素敵な男性とのロマンスも。何より、エロイーズにとって自信と才能に満ちあふれたサンディは理想の姿。夢の中で楽しい時間を過ごしたエロイーズは、サンディの髪色やファッションを現実の世界でもマネることで、次第に自身も自信を持ち始めるのでした。
ここまで読むと、田舎から上京したひとりの女の子の一風変わった成長の物語なのですが、この映画の本当の意味での面白さは、ここから始まります。ジャンルで言えばサイコホラーです。原色使いのライティングは、ダリオ・アルジェント監督の『サスペリア』を彷彿させるし、サンディを取り巻く夢と輝きと欲望渦巻く世界は『ムーラン・ルージュ』のよう。もちろん刺激的なサスペンスな展開は謎解きのドキドキ感を味わえるし、絶叫マシンに乗った時のようなスリルも感じられます。なんといっても、若者文化が一世を風靡した60年代のスウィンギング・ロンドンの、ファッションや音楽、映画といったポップカルチャーを存分に楽しめるのが、本作の魅力でもあります。
そして、もうひとつの物語の鍵はタイムリープ。2021年は「One Frame Theater」でも紹介したタイムループ・ラブコメディ『パーム・スプリングス』を始め、タイムスリップで未来を変えようとする『東京リベンジャーズ』、『明日への地図を探して』『夏への扉』など、時間を越える作品が多い印象ですが、本作でも主人公のエロイーズが、現代のロンドンから60年代のロンドンにタイムリープします。その入り口となるのがレコード。おばあちゃん子だろうエロイーズが、よくかけているのが、60年代の楽曲。行きたい世界の音楽をかけて眠りについたら…もしかしたら夢でその世界を楽しめるかもしれませんね。
WHERE IS SOHO?
イギリス・ロンドンのシティ・オブ・ウェストミンスターに位置する一地区。20世紀に歓楽街として発展し、特に60年代後半はファッション、映画、音楽などのカルチャーがこの街を中心に爆発的に流行。「スウィンギング・ロンドン」と総称される一時代を築いた。
『ラストナイト・イン・ソーホー』は12月10日(金)よりミッドランドスクエアシネマ、センチュリーシネマほかにて公開中!
企画・構成 にしおあおい イラスト のらくら
作品紹介
ファッションデザイナーを夢見るエロイーズ(トーマシン・マッケンジー)は、ロンドンのデザイン学校に入学する。しかし同級生たちとの寮生活に馴染めず、ソーホー地区の片隅で一人暮らしを始めることに。新居のアパートで眠りに着くと、夢の中で60年代のソーホーにいた。そこで歌手を夢見る魅惑的なサンディ(アニャ・テイラー=ジョイ)に出会うと、身体も感覚も彼女とシンクロしていく。夢の中の体験が現実にも影響を与え、充実した毎日を送れるようになったエロイーズは、タイムリープを繰り返していく。だがある日、夢の中でサンディが殺されるところを目撃してしまう。その日を境に現実で謎の亡霊が現れ始め、徐々に精神を蝕まれるエロイーズ。そんな中、サンディを殺した殺人鬼が現代にも生きている可能性に気づき、エロイーズはたった一人で事件の真相を追いかけるのだが……。
『ラストナイト・イン・ソーホー』 監督・脚本:エドガー・ライト 出演:トーマシン・マッケンジー アニャ・テイラー=ジョイ マット・スミス テレンス・スタンプ マイケル・アジャオ ダイアナ・リグ 配給:パルコ 上映時間:118分 R15+ 公式サイト https://lnis.jp/ 公式Twitter @LNIS_JP