目次
盾を抱えた人間の本質を描くヘビー級の傑作!
『由宇子の天秤』
チラシのイメージで、ジャーナリズムとは何かを問う作品だと思ったら、もっと身近で切実な問題を突き付けるヘビー級の傑作だった!
主人公は女子高生いじめ自殺事件の真相を追う
ドキュメンタリーディレクターの由宇子。
事実を捻じ曲げようとするテレビ局との駆け引き、ネット社会に追い詰められた事件関係者家族の実情や取材の様子など、ドキュメンタリー番組の制作過程が、メイキングのようなリアルさで描かれていく序盤。
それだけでも興味深く見応えがあるけれど、さらに由宇子の家族が関わる問題が発覚することで、映画はより一層深く重く緊迫感を増していく。
真実を明らかにしたいという信念と、大切なものを守りたいという1人の人間としての気持ち。
その狭間で揺れ動く由宇子を観ながら、自分ならどうするだろうと考えて苦しくなった。
築き上げてきた全てを失い、大切な人たちを傷付けてまで、正しさを貫ける人間がどれだけいるだろう。
人間は決して完璧じゃない。矛盾だらけで弱いものだと改めて見せつけられて撃沈した…。
由宇子役の瀧内公美、父親役の光石研、さらに『サマーフィルムにのって』のビート板こと河合優実、『岬の兄妹』の松浦祐也と和田光沙など、それぞれの苦悩や葛藤を生々しく体現した俳優陣、それを引き出した春本雄二郎監督の演出と素晴らしい脚本に唸った。
ちなみにこの映画『この世界の片隅に』の片渕須直監督がプロデューサーとして参加しているとか。
さて今回の写真はドーナツとパン。
誰に対しても垣根を作らず、信頼関係を築く由宇子。
父親が営む塾の子どもたちにドーナツを差し入れたり、心を閉ざしがちな生徒からスティックパンをもらったり、取材相手と一緒に三色パン?を食べたり、彼女の人となりや相手との距離が縮まる場面で、ドーナツとパンがいい仕事してます。
●9/17~[由宇⼦の天秤]
- 製作年2020 上映時間152分
2021年9月17日より渋谷ユーロスペースほか全国にて順次公開
「ものがたり」
3年前に起きた女子高生いじめ自殺事件を追うドキュメンタリーディレクターの由宇子は、テレビ局の方針と対立を繰返しながらも事件の真相に迫りつつあった。そんな時、学習塾を経営する父から思いもよらぬ〝衝撃の事実〞を聞かされる。大切なものを守りたい、しかし それは同時に自分の「正義」を揺るがすことになるー。果たして「〝正しさ〞とは何なのか?」。常に真実を明らかにしたいという信念に突き動かされてきた由宇子は、究極の選択を迫られる…ドキュメンタリーディレクターとしての自分と、一人の人間としての自分。その狭間 で激しく揺れ動き、迷い苦しみながらもドキュメンタリーを世に送り出すべく突き進む由宇子。彼女を最後に待ち受けていたものとはー?
【配給】ビターズ・エンド
©2020 映画工房春組
[フォトdeシネマ]
映画ライター 尾鍋栄里子(おなべえりこ)
映画館バイト→雑誌映画担当→映画ライターと、人生の半分を映画業界の片隅で生きる名古屋人。
朝日新聞、中日新聞、フリーペーパーなどで映画紹介記事を執筆中。
映画フリーペーパー C2【シーツー】web版ブログ〝オー!ナイス!”不定期掲