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善と悪が混在する不可解な人間の深層を描く傑作!『すばらしき世界』
2021年に入ってまだ2ヶ月だというのに、年間ベスト級が次々と公開されるなか、これは現時点で個人的No.1の作品。
自身の原案、オリジナル脚本で撮ってきた西川美和監督が、直木賞作家・佐木隆三のノンフィクション小説「身分帳」に惚れ込み、初めて挑んだ原作もの。
主人公は13年ぶりに出所した三上。
刑務所帰りの元ヤクザの彼にとって世間は決して優しくない。
その生き辛さが描かれているのは『ヤクザと家族』にも通じるところ。
でもこの映画はさらにその先、人間の深層にまで迫っていく。
気さくで真っ直ぐで正義感が強い反面、すこぶる短気で一度キレたら手がつけられない。そんな二面性を持った主人公の三上をはじめ、出会う全員が多面的に描かれて、強くて脆く、優しくて残酷で、善も悪も併せ持つ、とてつもなく厄介でたまらなく愛おしい人間の姿が浮かび上がってくる。
理不尽な社会に憤り、ままならない人生に絶望する日もあれば、人の温かさに救われる日も、汚れなき魂との邂逅に心洗われる瞬間も、見上げた空に希望を感じる夜もある。
様々な側面を持つ人間たちが歓び、哀しみ、繋がり合い、傷付け合いながら必死に生きている。そんな“すばらしき世界“が描かれた傑作!
タイトルは皮肉にも取れるけれど、私は肯定的に受け取った。
この世界の美しさも醜さもフラットに見つめる西川監督の眼差しが好き。
喜怒哀楽のスイッチが瞬時に切り替わる役所広司は言うまでもなく、キャストも全員文句なし!
書きたいことはいっぱいあるけれど、ネタバレになりそうなのでこの辺で。
写真は三上が食べる卵かけご飯から。
特別な日のすき焼きは最高だけど、なんでもない日の卵かけご飯もまた美味しいよね。
#映画ライター 尾鍋栄里子(おなべえりこ)
映画館バイト→雑誌映画担当→映画ライターと、人生の半分を映画業界の片隅で生きる名古屋人。
朝日新聞、中日新聞、フリーペーパーなどで映画紹介記事を執筆中。
映画フリーペーパー C2【シーツー】web版ブログ〝オー!ナイス!”不定期掲載
公開中『すばらしき世界』
2021年製作/126分/G/日本
配給:ワーナー・ブラザース映画
(C)佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会