今までレイチェル・マクアダムスは完全無欠のラブリー女優だと思い込んでおりました。どういうことかというと、『きみに読む物語』を観た時の同性でもハートを撃ち抜かれたあの感覚や、『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』での赤いドレスではにかむ姿から、“誰からも嫌われない女性の象徴”だと確信していたから。きっと会社で嫌われない女性。いやむしろ会社に行きたくなる社員こそが、レイチェル・マクアダムス。実際、『スポットライト 世紀のスクープ』を観た時もそう感じていたのは事実。そんな彼女がまさかの汚れ役!?いや、正しく言うならば会社にいるウザキャラというところか。よくもまぁ彼女をこの役にと思うほど、冒頭からイタイ女性社員を見事なまでに演じきっているのですよ。全世界共通のダサいコーディネートで身を包んだボサボサヘアのメガネ女性が、まさかのラブリー女優なんだから逆に目が離せない。

人をイラつかせる典型の空気が読めない会話への入り方、靴も古めかしくてやや汚い。なのに数字に強くてやたらと仕事が出来る中年女性。ここから脚本は更に観客をムカつかせるフェーズ1を作り上げるのです。それが上司による昇進阻止という嫌がらせ。どこの世界もクソ上司は、若い美女が好きで自分と馬が合い媚びへつらう同性が好きなのね。そんなショットが多々映し出された後にやってくる衝撃のフェーズ2。このダイナミックな転換こそが、『スパイダーマン』をA面と例えるならB面の『死霊のはらわた』をソフトにしたサム・ライミ節炸裂のジェットコースター的ショッキングシーンのひとつ目の見せ場で、賑やかなのなんの。恐ろしいのに思わず吹き出す一瞬の出来事後のフェーズ3は、生き残る為と幸せの為に本音を隠す駆け引き合戦。この脚本の上手さにはひたすら唸るしかなく、上下関係と男女の心理をとことん知り尽くしているからこその先の読めない面白さだったのでした。

例えるならトム・ハンクスが無人島でサバイブする『キャスト・アウェイ』と夫婦の泥沼試合を綴る『ローズ家の戦争』をジューサーにかけたら、新感覚のトロピカルジュースになったみたいな作品。残酷さは瞬きくらいの時間なので、ホラーが苦手な人でも楽しめるスッキリな味わい。それにしても物語が進むにつれて、どんどんワイルドになっていくレイチェル・マクアダムスに、可愛さの断片をどこかで探してしまう自分の心理も不思議だったのでした。

目次
『HELP/復讐島』
監督:サム・ライミ
出演:レイチェル・マクアダムス、ディラン・オブライエン
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
1月30日(金)より全国公開
©2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
https://www.20thcenturystudios.jp/movies/fukushu-jima
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伊藤さとり

伊藤さとり(映画パーソナリティ・映画評論家)
映画コメンテーターとして「ひるおび」(TBS)「めざまし8」(CX)で月2回の生放送での映画解説、「ぴあ」他で映画評や連載を持つ。「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」俳優対談番組。映画台詞本「愛の告白100選 映画のセリフでココロをチャージ」、映画心理本「2分で距離を縮める魔法の話術 人に好かれる秘密のテク」執筆。




