現在公開中の映画『長安のライチ』。下級官吏が「3日で腐るライチ」を運ぶために奔走する姿は、現代を生きる私たちの日常にも重なり胸が熱くなります。そんな本作で、奴隷として虐げられながらも、澄んだ瞳で希望を失わない青年・林邑奴を演じたテレンス・ラウさんのインタビューが到着。
ボッテガ・ヴェネタのアンバサダーを務め、洗練されたオーラを纏う彼が、いかにして泥にまみれた「林邑奴」へと形を変えたのか。彼の「声とからだ」への徹底したこだわりには、若き実力派としての凄みを感じずにはいられません。

テレンス・ラウさんのポートレート写真
―映画『長安のライチ』では、奴隷として虐げられる厳しい境遇に置かれながらも、まっすぐで純粋な心を持った青年・林邑奴(りんゆうど)を演じられていました。この人物を演じるにあたり、特に意識されたことを教えてください。
テレンス:まず撮影に入る前に、ダーポン監督と多くの話し合いを重ねました。例えば、この人物はどの地方の出身なのか、長安近辺の人間ではないとしたら、話し方に訛りが出るのではないか、という点です。林邑奴は台詞が多い役ではありませんが、わずかに訛りを持たせることで、見知らぬ土地で知り合いもいない孤独感や疎外感をより強く表現できると考えました。
もう一つは身体表現です。奴隷のからだとはどのようなものなのかを考えました。彼は日常的に虐待を受け、重い物を運ぶなど重労働を強いられているため、一般の人とは異なるからだつきになっているはずです。また、常に罰を受ける可能性があるため、自分を隠すような身のこなしになり、身体の状態も普通とは違って見えるはずです。そうした点から、声とからだの両面から役作りを始めました。

―林邑奴は台詞で多くを語る人物ではありませんが、表情や佇まいで感情を伝える場面がとても印象的でした。言葉以外の表現で感情を届ける演技について、どのようなことを大切にされていましたか。
テレンス:撮影当初、監督から「奴隷というと、多くの人は恐怖や悲惨さを前面に出した姿を想像するが、この役は“ぼんやりしている感じ”でいてほしい」と言われました。それを聞いたとき、とても面白い方向性だと思いました。 なぜかというと、林邑奴は幼い頃に奴隷として売られ、教育もほとんど受けていません。周囲の知識人たちの話も深く理解できず、世界に対する認識そのものが限られている。また常に虐待され、罰を受け、重労働を課される生活の中で、自分を哀れむという感覚すら持たない。彼は「今日を生き延びる」ことだけで精一杯です。その“ぼんやりした状態”は、観客の想像力に委ねる余白が生まれる。
一方で、演技でそれを表現することはなかなか難しかった。直接的に感情を出す方が簡単ですが、林邑奴の役では台詞が少なく、しかも感情をあまり表に出さない。物語の中盤以降、李善徳との絆が生まれ、李が危機に陥るたびにスイッチオンする。普段は奴隷として生きている彼が、その時だけ身体能力を解放する。その切り替えも重要でした。
―林邑奴の心境が大きく変化する瞬間は、どこにあると感じましたか。
テレンス:李善徳と出会った瞬間からだと思います。ライチ園でのお祭の場面で、皆が酒を飲んで祝っている中、林邑奴だけが一人ぼっちでした。そこへ李善徳が来て、「みんな友達だ」と言って酒を差し出します。 林邑奴はまだその意味を理解していなかったかもしれません。しかし、彼を人間として扱ったのは李善徳が初めてでした。その瞬間から、林邑奴は「この人は自分にとって特別な存在だ」と感じ、すべてを捧げようと決意したのだと思います。
―脚本を初めて読まれた際に、どのような部分に最も惹かれましたか。
テレンス:林邑奴の台詞で、「去長安(長安へ行く)」という三文字です。とても力のある言葉だと思いました。映画の中で三度口にしますが、その都度、ニュアンスと意味が異なります。最初は「長安へ行く」の意味を理解できず、次第に李善徳が道筋を語る中で「本当に新しい場所へ行くのか」と興味を抱き、最後は死を前に、心から李善徳が長安へ辿り着くことを願って口にする。その短い言葉に、強い感情と願いが込められていて、非常に印象的でした。
―このような役柄は初めての挑戦でしたか。また、どのような困難がありましたか。
テレンス:撮影時はとても寒く、衣装も薄かったため、寒さに耐えること自体が一つの試練でした。また、メイクスタッフの助けも非常に大きかったです。肌はかなり黒く塗られ、身体には多くの傷跡が施されました。奴隷は水を十分に飲めないため、あえて唇もひどく乾いた状態にされています。
この役は毎日のメイクに2〜3時間かかり、肌の露出の多いシーンでは3〜4時間かかることもありました。体力的にも厳しく、朝4時過ぎに起きてメイクを始める日も多かったです。こうした点が大きな挑戦でした。
―林邑奴は本作でも特に涙を誘う存在です。この人物のどのようなところに最も心を打たれましたか。
テレンス:彼の純真さです。物語の中で、多くの人物は決して純粋ではなく、それぞれが計算や下心を持っています。とはいえ、それこそが一般的な人間社会です。しかし林邑奴には一切の私心がない。その純真さゆえに、彼は最後に自己犠牲を選びます。
彼は、なぜ李善徳がライチを長安へ運ばなければならないのかを完全に理解してはいないかもしれません。それでも、李善徳にとってライチが命と同じほど大切なものだと知り、そのために命を差し出す。その純粋さと単純さが、何よりも胸を打ちました。

―林邑奴にとって、李善徳はどのような人物でしょうか。
テレンス:とても善良な人です。林邑奴は他人のことを深く解読はしません。ただ、自分を人として扱ってくれた最初の存在。酒を一杯くれ、共に長安へ行くと約束してくれた人です。もし長安に辿り着けたなら、もう一度一緒に酒を飲みたい。その瞬間こそが、林邑奴の人生で最も幸福な時間だったと思います。
―『長安のライチ』のみどころについて教えてください。
まず、非常にエンタテインメント性の高い作品です。気軽に入りやすく、ユーモアと風刺が効いています。俳優陣の演技も素晴らしく、唐の時代の雰囲気がよく表現されています。 一見軽やかですが、掘り下げると鋭い社会批評がある。一粒のライチを通して当時の社会全体を描いている点が非常に巧みだと思います。

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―『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』をはじめ、アクション映画で活躍するテレンスさんですが、『長安のライチ』でのアクションシーンの撮影の裏側について教えて下さい。
テレンス:本作アクション監督の伍剛(ウー・ガン)さんと彼のチームとご一緒に仕事ができて、とても嬉しかったです。皆さん本当に気遣ってくださいました。
『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』では登場人物が皆ある程度のカンフーを身につけていますが、本作の林邑奴はただの奴隷で、戦い方は知りません。そのため、「あまりカンフーの動きに見えないように、ただ力が強い、身体能力が高い人間として動いてほしい」と指導されました。
そのため林邑奴の動きは複雑なカンフーではなく、むしろ獣のようなイメージです。人間として扱われず、自分自身も人だと思っていない存在。普段は卑屈ですが、戦う時は凶暴で圧倒的な力を発揮する。そのギャップがとても面白かったです。
―撮影現場で印象に残っているエピソードがあれば教えて下さい。
テレンス:これほど大規模な制作に参加したのは初めてでした。砂埃の舞う大地を何十頭もの馬が駆け抜け、数百人のエキストラが行き交う光景は圧巻でした。本当にタイムマシンで唐の時代に行ったような感覚で、直接体感できるリアリティがありました。 ―本作では、監督のダーポンさんが主演も兼ねられていましたが、撮影現場ではどのようなコミュニケーションを取りながら作品づくりを進められましたか。
監督は現場で非常に忙しく、監督と主演俳優の役割を行き来していました。リハーサルする際、まず私が演技を見せ、それをもとに彼が調整する。言葉よりも演技でのコミュニケーションが多かったです。監督はコミュニケーションをとても歓迎してくれました。 邪魔にならないのであれば、私も時にはモニターの前に座り、作品全体のリズムや雰囲気、監督の好みや方向性などを感じ取るようにしていました。最終的には、言葉よりも演技を通して意思疎通をしていたと思います。
―ダーポン監督からの演出や言葉の中で、特に心に残っているものがあれば教えてください。
テレンス:「たとえ失敗しても知りたいんだ、成功までどのくらい近づけたか」という台詞です。原作を読んだ時から感動していましたが、ダーポン監督の演技でさらに深く胸に残りました。多くの人は失敗が見えていれば挑戦しません。しかし李善徳は、それでも前に進もうとする。その姿勢がとても印象的でした。
―『長安のライチ』をご覧になる日本の観客の皆さんに、メッセージをお願いします。
テレンス:日本の皆さま、本当にありがとうございます。本作を含めて私の出演作が日本でたくさん上映されることを、とても光栄で嬉しく思っています。
『長安のライチ』は、きっと日本の皆さんにも楽しんでいただける作品です。笑えて、爽快で、心に残る映画です。どうぞ劇場でお楽しみください。ありがとうございました。

4時間に及ぶメイクで肌を焼き、唇を乾かして撮影に挑んだテレンスさん。けれどその過酷さを語る彼の表情は、どこまでも爽やかで、作品への愛に満ちています。
衣装の質感から役者の微細な表情の変化まで、こだわり抜かれた映像美の中で、テレンス・ラウという才能が見せた輝き。彼の言葉を通して映画を振り返ると、あの過酷な旅路がまた違った色に見えてくるから不思議です。
「一生懸命に生きること」の尊さを教えてくれるこの物語が、日々を懸命に走るあなたの背中を、そっと優しく押してくれますように。 劇中で届けられるライチの輝きのように、あなたの心にも、今日を彩る一粒の喜びが届きますようにと願わずにはいられません。
映画『長安のライチ』は、公開中のシネマート新宿ほか全国順次公開。名古屋では、センチュリーシネマや中川コロナワールドほかで公開中です。
撮影:Olivia Tsang
ヘアメイク:Ziv Yeung
メイク:Will Wong
衣装Bottega Veneta
コピーライト:2025©Aim Media Co., Ltd. Tianjin Maoyan Weying Cultural Media Co., Ltd. Shanghai CMC Pictures Co., Ltd.. All
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作品紹介

監督・脚本・主演: ダーポン(大鵬)
出演: バイクー、ジュアン・ダーフェイ、テレンス・ラウ、アンディ・ラウ、ヤン・ミー 他
配給: Stranger、面白映画
公開日: 2026年1月16日(金)
公式: https://www.chuka-eiga.com/raichi
公式X: @raichimovie0116
2025©Aim Media Co., Ltd. Tianjin Maoyan Weying Cultural Media Co., Ltd. Shanghai CMC Pictures Co., Ltd.. All rights reserved




