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『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』
恋愛は異性とすべき。ファッションはシンプルな色合いで。
この考えはどこから来ているのか?一体、誰が決めたルールなのか?
そんな「普通」であることの美徳に物を申す愛の物語、それが韓国映画『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』だ。本作は、「2024年今年の女性映画人賞」で主演女優のキム・ゴウンが演技賞を受賞、女性監督のイ・オニが監督賞を受賞した他、「第45回青龍映画賞」でノ・サンヒョンが新人俳優賞を受賞するなど映画賞でも話題となった作品だ。
本作が、様々な世代に支持される理由は、大学で出会った二人が社会人になっていく姿をテンポ良く編集で見せながら、異性間の友情を育む二人それぞれの心の成長を様々な人との関係を経て綴っていく経験モノだからだろう。パリの高校を卒業後、韓国の大学に入ったジェヒ(キム・ゴウン)は、ファッションセンスも個性的で、自分の気持ちに真っ直ぐに自由に生きることで大学内でも何かと噂されてしまう女の子。一方、同じクラスのフンス(ノ・サンヒョン)はゲイであること隠し、目立たないように生きている男の子。この二人がある時に意気投合し同棲生活を始めることで、互いの欠点を長所と気づき高め合っていくのだ。
劇中、ジェヒがパリはゲイを変に思う人は多くない「アホもいるけど少ないよ」と言い、フンスが「韓国は多すぎ」と語らうシーンがある。確かにフランスでは同性婚も認められているが、韓国は家父長制が深く根付いており、日本と同様、同性婚は法律上、認められていない。そんな韓国で生活をしているフンスが自分の恋愛観を肯定できるようになるには、母親と向き合うことも試練のひとつとして描かれており、本作は家族の愛についてもしっかりと触れているのだ。他にも他者から自由奔放と言われるジェヒも、たった一回の行動だけで「変」というレッテルを貼られてしまい、恋愛でも苦しめられる。それでもジェヒが魅力的に見えるのは、どんなに卑下されても自分の価値を守る為に立ち向かったり、偏見を口にする男性に反論する姿から、意見を述べる女性もカッコイイと伝えている。
原作は世界三大文学賞「国際ブッカー賞」や「ダブリン文学賞」にノミネートされたパク・サンヨンの小説だ。それだけ世界の人々の心に響いた物語ということは、この問題は韓国に限ったことではないのではないか。「普通」であることが正しいわけではないし、少数派の考えを否定する権利など誰も持っていない。誰かが作り上げた「型にはまる」ことは決してカッコイイことではないのだ。
『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』
監督:イ・オニ
出演:キム・ゴウン、ノ・サンヒョン
配給:日活/KDDI
韓国/2024/1時間58分
全国公開中
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伊藤さとり
伊藤さとり(映画パーソナリティ・映画評論家)
映画コメンテーターとして「ひるおび」(TBS)「めざまし8」(CX)で月2回の生放送での映画解説、「ぴあ」他で映画評や連載を持つ。「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」俳優対談番組。映画台詞本「愛の告白100選 映画のセリフでココロをチャージ」、映画心理本「2分で距離を縮める魔法の話術 人に好かれる秘密のテク」執筆。