伊藤さとりの映画で人間力UP!第78回カンヌ国際映画祭に選出された日本映画を予習

今年のカンヌ国際映画祭は、間違いなく日本映画が豊作の年となりました。

新作映画7作の他にクラシック映画が2作選出となった第78回カンヌ国際映画祭。

そのお陰もあり、グランプリ(パルムドール)を狙う[コンペティション部門]の『ルノワール』では、早川千絵監督、鈴木唯さん、リリー・フランキーさん、石田ひかりさんが来場。[ある視点部門]に選出された『遠い山なみの光』では、石川慶監督、広瀬すずさん、松下洸平さん、吉田羊さん、カミラ・アイコさん、三浦友和さん、更に原作者のカズオ・イシグロさんがステージで挨拶を行ないました。他にも[監督週間部門]に『国宝』と『見はらし世代』の2作品が選出。李相日監督の『国宝』は、監督の他に、吉沢亮さん、横浜流星さん、渡辺謙さんが公式上映に登壇し、『見はらし世代』では長編一作目の団塚唯我監督、黒崎煌代さん、木竜麻生さんが来場。

また[ミッドナイトスクリーニング部門]では、『8番出口』の川村元気監督、二宮和也さん、小松菜奈さん、脚本を務める川瀬謙太朗さんが会場を沸かしました。

この他、[プレミア部門]では『恋愛裁判』で、深田晃司監督と齊藤京子さんが登壇。学生制作の短編から優秀賞を選ぶ[ラ・シネフ部門]に選出された『ジンジャー・ボーイ』では、田中未来監督と藤田開さん、中藤契さん、カメラマンの達富航平さんが登壇。結果、第3位にあたる賞を獲得しました。更に日本と海外の映画人の交流の場となるJapan Nightが今年も開催され、主催のMEGUMIさんを始め、賀来賢人さん、山田孝之さん、阿部進之介さんといった多くの日本人ゲストがカンヌ入りを果たしたのです。

日本映画受賞作は、ラ・シネフ部門3位『ジンジャー・ボーイ』となりました。

 

では一体、どんな作品なのか?
これらを鑑賞した筆者が、振り返ってみようと思います。

[コンペティション部門]
『ルノワール』6/20公開

©2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners

早川千絵監督・脚本。早川監督は、『ナイアガラ』で、第67回カンヌ国際映画祭[シネフォンダシオン(現ラ・シネフ)部門]選出、『PLAN75』では、第75回カンヌ国際映画祭[ある視点部門]新人監督賞を受賞。新作『ルノワール』には、監督自身の幼少期の思いが詰め込まれています。物語は、1980年代後半の日本が舞台。子供から見た大人の世界と、純粋だからこその子供の残酷さや危うさも描かれています。余計な説明が無く、ありきたりなはずの風景がポエティックに映るのも監督独自の視点だから。オーディションで抜擢されたフキ役の鈴木唯さんは撮影当時11歳。公式上映では、彼女に多くの拍手が向けられ、観客は若き才能の誕生を讃えました。

 

[ある視点部門]
『遠い山なみの光』9/5公開

©2025 A Pale View of Hills Film Partners

石川慶監督は本作でカンヌ初選出。ノーベル賞作家カズオ・イシグロさんの初期作を『ある男』の石川監督が映画化。イギリスと戦後間もない長崎を舞台に、ある女性の選択を綴っていきます。広瀬すずさんと二階堂ふみさんが戦後の長崎で生きる正反対の女性を口調から所作まで再現しながら人物を引き立たせています。松下洸平さんは昭和特有の夫を好演。吉田羊さんは、イギリスパートで登場しますが、その英語力に驚かされます。世界的に知られる作家原作で、戦争による影響を叙情的な画で見せる作品は、カンヌでの注目度も高かったのでした。

 

[監督週間]
『国宝』6/6公開

©吉田修一/朝日新聞出版  ©2025映画「国宝」製作委員会

李相日監督は本作でカンヌ初選出。原作は、吉田修一さんが自らの黒衣経験から目にした歌舞伎の世界を綴った同名小説。吉沢亮さんと横浜流星さんが女形で歌舞伎界のスターを目指す義兄弟ライバルを熱演。しかも冒頭では任侠の世界が描かれるという新鮮さ。渡辺謙さんの確固たる存在感と演技力に魅せられます。カンヌ国際映画祭では、人気俳優二人の美しくも切ない演技に目を奪われた観客から「ブラボー」という声まで贈られました。日本の伝統芸能が、海外で大いに評価された瞬間でした。

 

『見はらし世代』今秋公開

©「見はらし世代」製作委員会

26歳の団塚唯我監督の実体験をベースに綴られる青年から見た家族の物語。『ブギウギ』の黒崎煌代さんが初主演、父親役は遠藤憲一さん、母親役は井川遥さん、姉を務めるのは木竜麻生さん。家族の分断を再開発が進む渋谷の街と照らし合わせるように描く、新進監督の長編デビュー作は、内に秘めた怒りとやるせなさがスクリーンに焼き付いていました。現場で団塚監督と関係性を築きながら役に取り組んだ黒崎煌代さんの演技に目が離せません。

 

[ミッドナイト・スクリーニング部門]
『8番出口』8/29公開

©2025 映画「8番出口」製作委員会

川村元気監督はカンヌ初選出。世界で150万ダウンロードされた同名ゲームの映画化。二宮和也さんが主演を務め、共演には小松菜奈さん。川村監督がゲームを元に小説も書き上げた本作は、長回しを多用し、観客も共にゲームに参加しているような感覚を味わえるのが特徴的。地下通路を舞台にした仕掛け満載のループものサバイバル・スリラーは、二宮和也さんの熱演にカンヌは注目し、会場が沸きました。

 

[プレミア部門]
『恋愛裁判』今冬公開

©0225「恋愛裁判」製作委員会

深田晃司監督は、『淵に立つ』で、第69回カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞を受賞した経歴があります。本作は、恋愛禁止とされる日本のアイドルに焦点を当てた、フランスでも知られる深田監督の完全オリジナル脚本。元日向坂46の齊藤京子さんが競争社会のアイドルグループで悩みながら恋を経験する主人公を熱演。内面をゆっくり見つめるストーリーテンポで、干渉し過ぎる現代社会へ警報を鳴らす作品は、深田監督らしい観客への問いとなっています。

 

[ラ・シネフ部門]
学生制作短編
『ジンジャー・ボーイ』

田中未来監督・脚本の短編作品。社会の流れにより変化する感情を、高校時代の友人二人をサラリーマンとフリーターという関係性で描いた作品。藤田開さんと中藤契さんのコントラストな演技に目が行きます。友情をテーマに、生きる道が違えば心を通わせるのも難しいことを赤裸々に表現したビターな脚本。それなのに柔らかな光に包まれた画というギャップに、作家性が光っています。

 

以上、世界三大映画祭のひとつであり、米アカデミー賞などの賞レースにも影響を及ぼすカンヌ国際映画祭が選んだ7人の日本映画監督を紹介しました。この選出が、日本の各映画賞にも少なからずも影響を及ぼす予感大。今後も注目していきます。

ビノシュ審査委員長を始めとした審査員による記者会見

MEGUMIさんと

おいしい映画祭

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