「差入屋」という仕事を通して見つめるヒューマン・サスペンス『金子差入店』が5月16日より公開されます。刑務所や拘置所にいる収容者に、日用品から書籍まで様々な物品を差し入れる「差入屋」。一見すると特殊なこの仕事を営む主人公を通して、人間の心の奥深くに迫っていく本作は、魂を揺さぶる物語です。
ところで、刑務所や拘置所に収容された人への「差入」には、厳しい審査や検閲があるのをご存じでしょうか? そんなルールを熟知し、差入を代行するのが、本作の舞台となる「差入屋」です。差入を行うのは物品だけでなく、時には面会に行くことができない人に代わって面会をすることも。
そんな差入店の店主を務める主人公・金子真司を演じるのは、「SUPER EIGHT」のメンバーであり、アーティストとしても活躍する丸山隆平さん。
長編初監督となる本作を完成させた古川豪監督と共に、映画のPRのため名古屋を訪れたお二人にインタビュー。
舞台となった『金子差入店』の裏話や、役づくり、撮影時のエピソードなどを語っていただきました。
「東京リベンジャーズ」などで助監督を務めてきた古川豪監督は、構想から完成まで11年の歳月をかけた理由について、「様々な価値観を持つ人々、例えば被害者、加害者、そして彼らに関わる人々、そういった方々に見られる可能性がある中で、どう描くべきかは非常に悩みました」と明かします。
中でもリアリティとフィクションのバランスについても腐心したという監督は、「主人公が差入屋を生業にしていることで、面会に行く先がいわゆる重いテーマを抱えている人たちになる中で、主人公自身の葛藤をどう描くかが重要でした。そこで、主人公に前科者という設定を与えることで、彼が思い悩んだ後悔や葛藤を抱えながらも、贖罪の意味も込めて生きているという人物像に落ち着かせました」と語ると、真司の人物像を作り上げる上で、自身の経験や周囲の人々との関わりを参考にしたと言います。
「泥棒役者」以来8年ぶりの主演作となる丸山隆平さんは、本作で、人に言えない過去を抱えながらも、息子のために人生を生き直そうとする主人公を、まさに体当たりで表現しています。
「差し入れ屋という職業について全く知識がなかったので、まずそこから知ろうと思った」と振り返った丸山さん。
当初は「実際に差入屋を取材することも考えた」と言いますが、関係者のプライバシー保護の観点から難しいと判断。「それよりも、金子真司という人間そのものを構築していくことが重要だと思い直した」と、役作りの方針を転換。人物そのものにフォーカスしたと言います。
そして監督との綿密なコミュニケーションを通して、役柄にリアリティを与えていったそう。「監督の私生活やご家族との関わり方などを聞き、それを参考にしながら、自分なりの信条や生活感を肉付けしていきました」。
さらに、見た目にもこだわり、スキンケアをやめたり、白髪を染めずにあえて残すなど、細部にまでリアリティを追求。「全身石鹸で洗って肌にエイジングをかけたり、子どもとお風呂に一緒に入るような関係なら髪を洗ったとしてもタオルドライや自然乾燥だろうと…ツルっと綺麗な肌は違うなぁと」役に生活感と説得力をもたらしていきました。
妻の美和子を演じる真木よう子さんをはじめ、息子役の三浦綺羅さん、川口真奈さんといったフレッシュな逸材から、北村匠海さん、村川絵梨さん、甲本雅裕さん、根岸季衣さん、岸谷五朗さん、名取裕子さん、寺尾聰さんら実力派として知られる俳優陣が顔を揃え、観るものの心を揺さぶります。
中でも、息子・和真の幼馴染を殺した犯人、小島を演じた北村匠海さん、その母親を演じた根岸季衣さんとのシーンは、観る者の感情を激しく揺さぶります。丸山さんは当時の撮影を振り返り、「そこで行われているのはお芝居ですから、僕からしたら他人事なんですけど、役と向き合うととても他人事とは思えなくて感情が溢れてくるんです。根岸さんが、劇中である台詞を言うのですが、『このひと何言ってんの?(怒)』と思いました。しかも、その言葉を2回も言ってくる。そうやって、それぞれの立場を演じる共演者の方々が、いろんな方向から真司を追い詰めて下さるので、撮影中はそれを素直に返していくという作業でした。だから、芝居の余韻を噛みしめたり、蓄積する余裕はなかったですね」と語りました。
すると監督が、「記憶がない時もありましたよね。その時に受けた苛立ちを引きずったまま帰ったりするので、大変だったと思います」と労うと、丸山さんはあるエピソードを教えてくれました。「よく取材で『(北村)匠海くんと対峙するシーンはどうでしたか?』と聞かれるんですけど、昨日も取材が終わって、監督とご飯食べながら談笑していた時に、『あそこのシーン、実はテストをせずにそのまま撮影したのを覚えていますか?』と聞かれて『覚えていないです』と答えたんです。監督は『あの張り詰めた空気をそのまま撮りたかったけど、テストをしてしまうとそれが抜けてしまうと思って…』と仰っていました。僕は、無意識に対峙して『用意ハイ』ダァーって走るみたいな、文字にすると分かりづらいのが申し訳ないのですが、そういう鮮度の高さみたいなものを監督はとても大切にしていて、それが映画の中に収められていると思います」。
ワンカットの長回しで見せる心理戦から、激しい感情の爆発まで、緩急をつけた演出は、映画により一層の緊迫感をもたらしています。
伯父の星田役を演じた寺尾聰さんとのシーンについては、「救いが多かったと思います」と振り返った丸山さん。「真司は不器用で、男たるもの人に相談すべきではない、自分が背負うべきだと考える一方、唯一弱音を吐けるのが伯父で。その伯父とのシーンは辛いながらも、自分の不甲斐なさや情けない部分を映し出す合わせ鏡のような存在だったため、癒される時間でもありました。
撮影の合間にも他愛ない話をしてくださり、真司としても、そして僕自身としても『もう少し肩の力を抜いていいんだよ』という空気感を出していただきましたし、クランクアップの時にも『もっといろんな作品やりなさい。そしたら見えてくるものもあるから』と言っていただきました」とエピソードを語りました。
劇中に登場する「金子差入店」は、セットではなく実際に閉店した酒屋を美術スタッフが丹念に作り込んだもの。見つけた時には「これだ!」と思ったという監督。
「店舗と住居が一体型の酒屋さんで、最初は店舗部分だけを借りるつもりが、たまたまスタッフがお手洗いを借りたら、これあるぞと。生活感がだせるいい場所でした。だから、家族3人が川の字になって寝る場面も、お風呂に入っている場面も、真司が耐えられなくなって洗面所に駆け込むという僕にとっての名シーンも、家族4人で食卓を囲むところも、金子家の生活感あふれるシーンは全てそこで撮影されています」と嬉しそうに話してくれました。
真司の気持ちに寄り添っていたからこそ、日々辛い思いをしながら撮影していた丸山さんに、つかの間の安らぎを感じたシーンを尋ねると、「ほっこりしたのは、家族で食事をするところですかね。劇中では、ご飯を食べるという行為が様々な場面で描かれています。お弁当を『いただきます』と食べるシーンもそうですが、一番印象的なのは家族みんなで談笑しながら食事をするシーンです。もちろん、それぞれが何かを抱えながらも、それでも笑い合っている瞬間がある。そういったリアルな家族の姿が、食卓を囲むシーンにはありましたね。ああいう時間は本当に心が和みました。和真役の三浦綺羅さんも、ひときわ生き生きとしていたように感じました」と語ります。
一方、丸山さんは撮影全体を通して辛かったと振り返ります。「初日から最後まで、本当にしんどかったです。物語が始まった時から、真司も家族も、それぞれが重いものを背負っているので、それこそが生きるということなのかもしれません。だから、どのシーンが…とかは言えないです。それに、苦しみを感じているのは真司だけではありません。少女であったり、母親であったり、立場や見え方によって、苦しみのカタチは様々だと。ただ、見ている方が、共感する部分がある中で、それが憎しみだけじゃなくて、愛おしさを感じるような映画になっていればいいなって思います」と想いを語りました。
最後に、古川監督が「テーマは重いですが、宝物に溢れた作品になっておりますので、ぜひ劇場でご覧下さい」とメッセージを送り、二人揃って「よろしくお願いしまーす」と締めくくりました。
映画『金子差入店』は、差入屋という特殊な職業を通して、人間の光と影、そして家族の絆を描き出す感動作です。
差し入れるのは
小さな希望
名古屋はミッドランドランドスクエアシネマほか、5月16日より全国で公開されます。
ぜひ、大きなスクリーンで心揺さぶる物語を体験して下さい。
取材・文 にしおあおい(シネマピープルプレス編集部)
作品紹介
【STORY】刑務所や拘置所に収容された人への差入を代行する「差入屋」。 金子真司は一家で「差入店」を営んでいた。 ある日、息子の幼馴染の女の子が殺害される凄惨な事件が発生。彼女の死にショックを受ける一家だったが、犯人の母親が差入をしたいと尋ねてくる。
差入屋として犯人と向き合いながらも、日に日に疑問と怒りが募る金子。 そんな時、毎日のように拘置所を訪れる女子高生と出会う。 彼女はなぜか自分の母親を殺した男との面会を求めていた。
2つの事件の謎と向き合ううちに、金子の過去が周囲に露となり、 家族の絆を揺るがしていく― 。
監督・脚本:古川豪
出演:丸山隆平
真木よう子/三浦綺羅 川口真奈
北村匠海 村川絵梨 甲本雅裕 根岸季衣
岸谷五朗 名取裕子
寺尾聰
主題歌:SUPER BEAVER「まなざし」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
配給:ショウゲート
©2025 「金子差入店」製作委員会
公式HP:https://kanekosashiireten.jp/