エリコのフォトdeシネマ♪ Vol.122『アンダーカレント』

真実に向き合った先にあるものは?
『アンダーカレント』

10/6(金)より公開中

今泉力哉監督の作品の中でも一際、静かでシリアス。
こんな映画も撮るなんて意外だなあと思ったら、
原作は有名な漫画だそう。

“undercurrent(アンダーカレント)”意味は
1 下層の水流、底流
2 (表面の思想や感情と矛盾する)暗流

突然、失踪した夫を探すかなえ。
かなえが営む銭湯に現れ、住み込みで働き始める堀。

夫が失踪した理由も、
堀がここにいる理由もわからないまま、
2人の不思議な日常が静かに綴られていく。
時間の流れがゆったりすぎる感じがあるけれど、
隠されているであろう真実と、
時折、挿入される不穏な映像の断片に、
興味と不安が煽られて、
どんどん映画に引き込まれる。

そして表面を描いていた映画はやがて暗流へ。
かなえ、堀、失踪した夫の悟が、
心の奥に閉じ込めていた気持ちを明かす、対話のシーンへと流れていく。

 

 

 

 

 

登場人物が想いの全てを言葉で語るのは、
白ける場合もあるけれど、
本作の場合はむしろ人と人との対話でしか生まれない、
複雑で繊細な空気感が表現されていてお見事。
「人をわかるってどういうことですか?」など、
ハッとさせられるセリフも満載。
さらにラストに明かされるささやかな嘘と真実の優しさに、
心がじんわり温かくなった。
ラストは原作とは違うんだとか。
原作も読んでみたい!

 

 

 

 

自分を傷つけ苦しめる嘘、
わかったつもりでいた相手の本当、
自分ですらわからない自分の本当。
例えわからなくても理解することを諦めず、
辛くても悲しくても、
真実に向き合って受け入れることで、
先に進めることもあるんだと改めて。

心に秘密を抱えたキャラクターを、
真木よう子、井浦新、永山瑛太が好演。
さらに出てくるだけでもはや反則w
怪しさ満点なのに真意を突く、
探偵役のリリー・フランキー、
金言を放つたばこ屋の康すおんがいい。

さて、今回の写真のアイテムは赤い毛糸。
いつも銭湯に来ていた少女が、
あやとりに使っていたものであり、
かなえの子供時代の記憶とも繋がる印象的なアイテムでした。

2023年製作/143分/G/日本
配給:KADOKAWA
劇場公開日:2023年10月6日

 

映画ライター 尾鍋栄里子(おなべえりこ)

Twitter @onabe11
映画館バイト→雑誌映画担当→映画ライターと、人生の半分を映画業界の片隅で生きる名古屋人。
朝日新聞、中日新聞、フリーペーパーなどで映画紹介記事を執筆中。
映画フリーペーパー C2【シーツー】web版ブログ〝オー!ナイス!”不定期掲載

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