『エリザベート1878』
舞台にもなるほど世界的に人気を誇るオーストリア皇妃エリザベート。そんな彼女は今まで何度も映画化されているけれど、今作『エリザベート1878』は、イメージを覆えすほど斬新で独創的。その理由は、製作も務めた主演、ヴィッキー・クリープスの「女優なのだから美しくいなければいけない」という外野からの意見にエリザベートの人生を投影させ、彼女の裏側を描きたいと思ったからだそう。結果、ダイナミックなまでにフィクションとしてエリザベートを蘇らせ、現代の女性たちに「自由になっていいよ」と叫ぶ映画が完成したのでした。
そしてこの映画の公開を記念して、東宝版ミュージカル『エリザベート』の初演でエリザベート役を演じ、宝塚版『エリザベート』日本初演でトート役を演じた女優の一路真輝さんをゲストに迎えたトークショーが開催され、私が聞き手を務めたのでした。
長年「エリザベート」に関わってきた一路さん、本作を観た時の衝撃は相当のものだったそうです。
一路真輝さん
「本当に衝撃を受けました。映画では40歳という年齢にフォーカスしていましたし。宝塚版のミュージカル「エリザベート」で描かれるエリザベートは宝塚歌劇団ということもあり、かなりお姫様な感じが強調されています。ウィーン版や東宝ミュージカル版は宝塚版よりはリアルに作ろうとやっています。しかし、これまでミュージカルで描かれていた世界観とは違うエリザベートが映画で誕生した感じです。
だからエリザベート皇妃の裏側を観たという印象を持ちました」
確かに宝塚版「エリザベート」は夫のフランツと死の帝王トートとのラブストーリーとも読み取れるミュージカルであり、東宝ミュージカル版「エリザベート」はもう少しエリザベートの意志と共に誰のものにもならないラストを感じる内容。史実ではエリザベートは61歳の時に暗殺されます。この2作と共に史実と映画の違いについて一路さんはどう感じたのでしょうか。
「エリザベート皇妃の強い意志をより感じる作品でした。宝塚版の結末は「愛」がテーマですからトートとエリザベートが結ばれる。東宝版はエリザベートが独立して死を選ぶように見える。この映画はどうか?というと観る人それぞれの感性、読み方で違うと思います。1人の感想では終わらせられない結末だと思います」
東宝ミュージカル版でエリザベートを6年演じた一路さん。なんと当時はシングルキャストとして1年間エリザベートを演じていました。史実ではエリザベートは身長が172cmなのに体重を45~50kgにキープし、ウエストもコルセットで50cmにして「美しき皇妃」というイメージを壊さないように努力した人物と言われています。そのせいか当時は役に共鳴しすぎて人にも会いたくない、カロリーを気にせずご飯を食べに行くことも出来なくなってしまったとのこと。そんなエリザベートが40歳になり、老いにも向き合わざる得なくなり、女性として見られること、愛されることへの執着と脱却を描いた本作。歳を重ねながら女優として活動を続ける一路さんは、本作のエリザベートから「女性としての魅力」について何を受け取ったのでしょうか。
「私がシシィ(エリザベート)を演じたのは30代の頃です。当時、想像で40代、50代、60代を演じていました。今、私はエリザベートが亡くなった年齢に近くなって、“あの歌、あの台詞はこんな気持ちで本当は言っていたのではないか”と今になって理解出来るようになったんです。やっぱり「老い」と言われると辛いけど、女性、女優として広く物事を見る事が出来る、経験を積むことが出来るのは、何にも変えられない魅力だと思います」
映画『エリザベート1878』は、籠の中の美しい鳥のように扱われてしまった皇妃エリザベートの魂の叫びを具現化した映画に思えます。もっと自由にもっと感情を露わに、欲望を見せることは決して恥ずべきことではない、愛されたい思いは誰だって持っている、だから「今を楽しんで、女性の皆さんも」とエリザベートが現代の私達に伝えているようにも感じる作品なのです。
8/25(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開中
STORY
ヨーロッパ宮廷一の美貌と謳われたオーストリア皇妃エリザベート。1877年のクリスマス・イヴに40歳の誕生日を迎えた彼女は、コルセットをきつく締め、世間のイメージを維持するために奮闘するも、厳格で形式的な公務にますます窮屈さを覚えていく。人生に対する情熱や知識への渇望、若き日々のような刺激を求めて、イングランドやバイエルンを旅し、かつての恋人や古い友人を訪ねる中、誇張された自身のイメージに反抗し、プライドを取り戻すために思いついたある計画とは——。
作品概要
監督・脚本:マリー・クロイツァー 出演:ヴィッキー・クリープス、フロリアン・タイヒトマイスター、カタリーナ・ローレンツ、マヌエル・ルバイ、フィネガン・オールドフィールド、コリン・モーガン 2022年/オーストリア、ルクセンブルク、ドイツ、フランス/ドイツ語、フランス語、英語、ハンガリー語/114分/カラー・モノクロ/2.39 : 1/5.1ch 原題:Corsage 字幕:松浦美奈 字幕監修:菊池良生 後援:オーストリア大使館/オーストリア文化フォーラム東京、ドイツ連邦共和国大使館、オーストリア政府観光局 提供:トランスフォーマー、シネマライズ、ミモザフィルムズ 配給:トランスフォーマー、ミモザフィルムズ © 2022 FILM AG - SAMSA FILM - KOMPLIZEN FILM - KAZAK PRODUCTIONS - ORF FILM/FERNSEH-ABKOMMEN - ZDF/ARTE - ARTE FRANCE CINEMA 【公式サイト】https://transformer.co.jp/m/corsage/ |
伊藤さとり
ハリウッドスターから日本の演技派俳優まで、記者会見や舞台挨拶MCも担当する。全国のTSUTAYA店舗で流れる店内放送wave−C3「シネマmag」DJ、俳優対談番組『新・伊藤さとりと映画な仲間たち』(YouTubeでも配信)、東映チャンネル×シネマクエスト、映画人対談番組『シネマの世界』など。NTV「ZIP!」、CX「めざまし土曜日」TOKYO-FM、JFN、インターFMにもゲスト出演。雑誌「ブルータス」「Pen」「anan」「AERA」にて映画寄稿。日刊スポーツ映画大賞審査員、日本映画プロフェッショナル大賞審査員。