川村元気監督×石川慶監督
第35回東京国際映画祭では、映画上映以外にも様々なシンポジウムやトークショーが行われ、私自身もいくつかのシンポジウムを観覧しました。その中で川村元気監督(『百花』)からのお誘いで進行のお手伝いをしたのが、「日本映画、その海外での可能性」というタイトルが付いた川村監督と石川慶監督(『ある男』)とのトークショー。確かに『ある男』はヴェネチア国際映画祭に出品、釜山国際映画祭ではクロージング作品として上映され、『百花』に至ってはサンセバスチャン国際映画祭最優秀監督賞を受賞しました。
海外で認められる作品ってなんなのか?
二人の対談から見えてきたのは、企画開発の時点で、「10年後にも見られる作品」「自分の内面と向き合うようなテーマ」であることも大切ということでした。確かに川村元気さんプロデュース、新海誠監督による『すずめの戸締り』では、震災が描かれています。「忘れてはいけない、語り継いでいかなければいけない」そんな思いと、日本の神仏的なものがミックスされ、命について、心の再生を描く物語は、日本人のみならず世界中の人に共通するテーマ。それを想像力豊かな画で子供から大人まで楽しめるようにキャラクターを構築していったのだから間違いなく世界を魅力すると鑑賞時に確信していました。
だけどアニメーションばかりが世界で受け入れられたところで、実写映画はまだまだ追いついてはいない。それでも濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が米アカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞にノミネート、国際長編映画賞を受賞したことで諸外国からの日本映画への評価も徐々に変わってきた気がします。
でも『ドライブ・マイ・カー』を理解出来ないという声も日本では多くあるし、今年の日本の興行収入第一位は現時点でアニメーショ映画『ONE PIECE FILM RED』。日本の観客の実写離れも問題にはなっている点で、石川慶監督が「アート系ではなくメジャー作品が海外で認められるがもっとも難しい」と呟いていたのが印象的でした。その答えは、本年の米アカデミー賞作品賞を受賞した『コーダ あいのうた』にあるような気がしています。障害だったり、ジェンダー平等だったり、貧困だったり、とSDGsを意識した映画作りを大手映画会社がエンターテイメントとして描く。こうやって映画を社会の意識改革として製作するという考えが定着していったら日本映画は本当の意味で変わっていくのかもしれない。私個人はそう考えています。
『すずめの戸締まり』
2022年 11月11日(金) 全国東宝系にて公開
©2022「すずめの戸締まり」製作委員会
原作・脚本・監督:新海誠
声の出演:原菜乃華 松村北斗
深津絵里 染谷将太 伊藤沙莉 花瀬琴音 花澤香菜
松本白鸚
キャラクターデザイン:田中将賀
作画監督:土屋堅一
美術監督:丹治匠
音楽:RADWIMPS 陣内一真
映画パーソナリティ 伊藤さとり
ハリウッドスターから日本の演技派俳優まで、記者会見や舞台挨拶MCも担当する。全国のTSUTAYA店舗で流れる店内放送wave−C3「シネマmag」DJ、俳優対談番組『新・伊藤さとりと映画な仲間たち』(YouTubeでも配信)、東映チャンネル×シネマクエスト、映画人対談番組『シネマの世界』など。NTV「ZIP!」、CX「めざまし土曜日」TOKYO-FM、JFN、インターFMにもゲスト出演。雑誌「ブルータス」「Pen」「anan」「AERA」にて映画寄稿。日刊スポーツ映画大賞審査員、日本映画プロフェッショナル大賞審査員。