草彅剛主演『碁盤斬り』は今までで一番美しくエレガントな白石作品(後編)

シネマトークライブ “松岡ひとみのシネマコネクション”  Vol.60 映画『碁盤斬り』

<シネマトークライブ“松岡ひとみのシネマコネクション” Vol.60>が5月26日、名古屋のミッドランドスクエア シネマで行われ、映画『碁盤斬り』から白石和彌監督が登壇! 観客らの質問に答える形で、主人公・柳田格之進を演じた草彅剛さんと囲碁で親交を深める萬屋源兵衛役の國村隼さんのエピソードや、編集や撮影についても語りました。

『碁盤斬り』秘話(前編)はこちらから
『死刑にいたる病』舞台挨拶レポート

イベント前半で、第26回ウディネ・ファーイースト映画祭で「サムライディレクター」と呼ばれていた話や主演した草彅剛さんのエピソードを語った白石監督。音楽を担当した阿部海太郎さんとの仕事については「今回、阿部海太郎さんとは初めて一緒に作業したんですけど、本当に素敵な音楽を作ってくれて。チェロでメインテーマを作って欲しいとか、ここはオケ(オーケストラ)があったほうがいいですねとか、楽器の指定をしながら作っていきました。阿部さんは哲学者みたいな方でしたね。」と振り返りました。

セットについても、「現代でアパートに住んでいますって言っても、いろんな間取りがあるように、江戸時代の長屋も調べてみるといろいろあって。格之進は、貧乏暮らしなので、貧しいけど清潔感を保ちながら暮らしているという設定で…」と話した監督。

松岡 その狭い中で、夜中まで源兵衛さんと囲碁をするっていうね

白石和彌監督(以後 白石)「すごいですよね。娘さんにとってはいい迷惑。寝たいのに、父親は友だちと一緒に囲碁を打っている。もはやゲーマーですよね。ずっと起きて。」

松岡 余分にお庚さんがお駄賃くれたのに賭け碁行っちゃうし、真面目なんだけど…

白石「そういうところは、ちょっと落語の軽妙な感じと、人間は愚かだってところが…」

松岡 そういえば編集を担当している加藤ひとみさんは愛知出身で、ずっと監督の作品を編集していますよね。

白石「天才カッター女性編集マンがいるんですよ。デビュー作から、ずっと二人三脚でやっていて。天才カッターは、僕の『こうしたい』なんて聞いてくれなくて、こっちのほうがいいです(きっぱり)」

松岡 カッターからお手紙が届いています。

白石「お手紙が来てる?ビックリした!昨日も一緒だったのに、そんなこと一言も言ってなかった。」

松岡 加藤さんの編集は、どんなところが素晴らしいですか?

白石「彼女の編集は、リズムを整えながら、もう1回脚本を書くイメージなんですよ。普通は、脚本を書いて、それを撮るんですけど、なかなかそれがリズムよく大抵うまくいってないので、それを映像を使いながら脚本を作り直すっていう。結構シーンも入れ替えて、構成し直すので時間はかかりますけど、細かいカット割りというよりは構成としてやりたいことがちゃんと伝わっているかを料理してくれてるという。

加藤ひとみさんからのお手紙
白石監督。私の地元愛知へようこそ。編集の加藤です。『碁盤斬り』公開おめでとうございます。思えばこの数年間、監督は「いつか時代劇を」と言い続けていらっしゃいましたね。監督の作品に描かれる人と人との距離感や感情のぶつかり合いは、時代劇の世界に置き換えたらそれはもうピッタリなので、私も以前から感じておりました。『碁盤斬り』の格之進は、いままでの白石作品の主人公たちと違って、清廉潔白、曲がったことが大嫌いな性格なのに、その日暮らしでままならない状況に置かれているのが、やはり監督の映画だなと感じています。京都の撮影現場から、監督がたびたびLINEで送って下さるセットの写真を見て、はしの背景が書き割りの絵で、さらにそこに雨が描いてあったりして、一体どんな映像があがってくるのか、東京の編集室でひとりワクワクしながら待っていました。今回の映画には、尺が許す限り下町歳時記のような四季折々の行事のシーンをなるべくたくさん活かそうと編集しました。特に草彅さんと國村さんの囲碁デートのくだりがお気に入りです。(確かに切ってくれなかった By監督)
観客のみなさん、今までで一番美しくエレガントな白石作品だと思っていただけたら嬉しいです。
ちなみに私が小学生の頃はよく遠足で古戦場跡地の公園に行ったものです。我が県は戦国時代劇の本場でございますので、いつか愛知が舞台の時代劇も撮って下さいね。

松岡 ぜひ、時代劇をね(会場から大きな拍手)

白石「そうですね。そうですよね。ただ、名もなき人たちが…っていうのが、僕の作品の根底にあるので、上のほうに英雄たちがいるんだけど、その端っこのほうでなんかやってる人たちを…頑張ります。」

白石「そして、編集の加藤さんがすごいのは、撮影現場に絶対来ないんですよ。」

松岡 来るんじゃなく?

白石「来ない。同じ東映の撮影所で編集してて、そこにセット組んでても来ないです。というのも、現代劇でいうと、自分家に帰ってきて、玄関があって、自分の部屋があって、編集しながらなんとなくその間取りを想像できる感じというのは重要なことらしくて、自分でセットを見ちゃうとその情報が頭の中に入ってくるから、そういうジャッジができなくなるって言うんですよね。『美味しいもんあるよ今日』って言うと、その時だけご飯を取りにきてすぐに消えちゃうんです。」


観客 デジタルのところもあれば、過去を振り返るようなシーンでは画質が少し荒くなったりしていますが、それは画素数を低くしているのか、それともフィルムで撮っているのか?

白石「二十数年前にスイス製のBOLEXっていう16ミリのカメラを買ったんですよね。買ったはいいけど、当時はまだ助監督で、16ミリも回すと結構お金がかかるので、カメラは買ったものの回すお金がないって、ずっと押し入れにいれてたのが錆びついて動かなくなってたんです。で、コロナ禍の時に、あれってどうなったんだろうって、もう一度取り出して、いろいろ業者探したら、オーバーホール(部品単位まで分解して行うメンテナンス)してくれるところを見つけて、時間もできたから遊びで撮ってたんです。そこから『死刑にいたる病』や「仮面ライダーBLACK SUN」とか、ちょいちょい使っていてその画質が面白いのと、スキャニングもいまは、フィルムで撮ってフィルム感を残すスキャニングから、フィルムなのかデジタルなのかわからないスキャニングとかもあって、いろいろ種類を試しながらやっていて、今回は敢えて過去に特化してフィルム感を残したほうが面白いんじゃないかって結論でああいう画質にしています。全体をフィルムで撮ることも考えてたくんですけど、全体をフィルムで撮るのは時代劇だとよくやっているので。

このロウソクというか、行燈の光でどれだけデジタルでも雰囲気が作れるのかっていうのが、今回の大きなテーマのひとつで。結構、暗いので、これ配信とかどうすんねんって思ってるところです(笑)。でも、この暗さって実は豊かなことだな、映画館で観るとより豊かさを感じています。

スタンリー・キューブリック監督の『バリー・リンドン』(1976年公開)という映画があるんですけど、当時ロウソクの光だけで撮ってるシーンがあるんですよ。あの頃だと、感度100※とか、そのぐらいのフィルムで撮ってて、もう絶対今じゃ撮れないんだけれど、キューブリックは世界的な監督なので、レンズメーカーに超明るいレンズとかを作らせたりして、いろんなことやって撮ってたんですけど。いまは、そんな苦労しなくても、(高感度カメラで)真っ暗なところに行燈ひとつだけもってきて、そこに碁盤を置いて、あっこんな見た目なのね、そうすると芝居も変わるので、そんなことを試しながら撮ってました。

※感度の数字が大きいほど暗いところでもブレずに綺麗に撮れるが、画質は荒くなる。レンズを明るくするとたくさん光を取り込むことができるので、通常のレンズに比べシャッタースピードをあげられたり、撮影データを明るくすることができる。

 

ここから先は少しネタバレを含みます。ぜひ、映画を観てからお読みください。

トップページに戻る

 

観客 草彅さん演じる格之進と國村さん演じる源兵衛のシーンが好きです

白石「(ふたりのシーンは)完全にデートのつもりですから(笑)ぜひ、もう一回観ていただきたいんですけど、國村さん目線で言うと、隙あれば『囲碁打とう』『囲碁打とう』って言うんですよね。途中で登場する碁盤にしても「この人だ!っていう打ち手が見つかるまで、私は探していたのです」なんてことを言う。ふたりは桜の時期に出会っているのに、月見の時に言う。絶対、値踏みしてたよねっていう。最後も、楽しそうにしながら碁盤を取りにいく、そういう目線で見ると、おかしくて」

「僕にとって初めての時代劇を、草彅さんはじめ、こんな素敵なキャストのみなさんと京都の歴史ある撮影所で撮ることができたのは、すごくいい思い出ですし幸せな時間でした。この作品でハマって時代劇が大好きになって、もう1本撮ってしまいました。草彅さんは、やっぱりすごい俳優なので、なかなかこうぎゅーって捕まえるのは難しいですが、チャンスを見つけてまた一緒にやりたいと思っているので、ぜひ楽しみにしていただければ、楽しい時間をありがとうございました」と言葉を結んだ白石和彌監督。

映画『碁盤斬り』は、5月17日よりミッドランドスクエア シネマほかで公開中です。

取材・文・写真 にしおあおい( シネマピープルプレス編集部 )

作品データ

浪人・柳田格之進は身に覚えのない罪をきせられた上に妻も喪い、故郷の彦根藩を追われ、娘のお絹とふたり、江戸の貧乏長屋で暮らしている。

しかし、かねてから嗜む囲碁にもその実直な人柄が表れ、嘘偽りない勝負を心掛けている。

ある日、旧知の藩士により、悲劇の冤罪事件の真相を知らされた格之進とお絹は、復讐を決意する。

お絹は仇討ち決行のために、自らが犠牲になる道を選び……。

父と娘の、誇りをかけた闘いが始まる!

『碁盤斬り』
監督 白石和彌 脚本 加藤正人 音楽 阿部海太郎
小説 「碁盤斬り 柳田格之進異聞」加藤正人 著(文春文庫)
出演:草彅剛
清原果耶 中川大志 奥野瑛太 音尾琢真 / 市村正親
立川談慶 中村優子
斎藤工 小泉今日子 / 國村隼
撮影:福本淳 美術監督:今村力 美術:松﨑宙人 
照明:市川徳充 録音:浦田和治 編集:加藤ひとみ 
配給:松竹
配給:キノフィルムズ ©2024「碁盤斬り」製作委員会
公式サイト https://gobangiri-movie.com/

トップページに戻る 前篇をもう一度読む

おいしい映画祭

アーカイブ