エリコのフォトdeシネマ♪ Vol.145『関心領域』

壁を隔てたふたつの世界のコントラストに震える 『関心領域』

 

第76回カンヌ国際映画祭グランプリをはじめ世界の映画賞を席巻!
第96回アカデミー賞では国際長編映画賞、音響賞を受賞した注目作。

第二次世界大戦中、ヒトラー率いるナチス・ドイツがポーランドに造ったアウシュビッツ強制収容所。
ここで起こった惨劇は数々の作品になっているけれど、この映画で描かれるのはアウシュビッツ強制収容所の隣で暮らす家族。
虐殺の場面は一切、出てこない。
強制収容所の所長ルドルフ・ヘスと家族の日常が淡々と映し出されていくだけなのだ。

美しい邸宅の広い庭で野菜や植物を育てる妻のザンドラ、庭のプールで無邪気にはしゃぐ子どもたち。
でも壁を隔てた隣の建物では悲鳴や銃声が響き、黒煙が立ち上る。
不気味な音が連想させる壁の向こうの惨劇と、穏やかで豊かなヘス家の暮らし。
ふたつの世界の残酷なコントラストに胸がざわつく。
何より怖いのは、彼らは決して特別じゃないこと。
家族のために真面目に働く夫、手に入れた理想の生活を守りたい妻。
他人の不幸には無関心で、自分や家族の幸せが何より大切。
それは私たちも同じだと感じてゾッとした。

監督は『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』の鬼才ジョナサン・グレイザー。
クレイザーは歴史的資料に基づいて、マーティン・エイミスの同名小説の物語を再構築。
固定カメラで撮影を行い、淡々とした語り口で観る人の不安と恐怖を静かに掻き立てる、恐ろしい映画を完成させた。

さて今回の写真はヘス家の庭をイメージ。
芝生が茂り花が咲く手入れが行き届いた美しい庭。
すぐ隣にある強制収容所の存在を庭に咲く色とりどりの花と緑で覆い隠そうとしているように感じられた。

『関心領域』

原題:THE ZONE OF INTEREST 製作国:アメリカ、イギリス、ポーランド 出演:クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー
監督・脚本:ジョナサン・グレイザー
製作:ジェームズ・ウィルソン、エヴァ・プシュチンスカ
原作:マーティン・エイミス
撮影監督:ウカシュ・ジャル
プロダクションデザイン:クリス・オッディ
衣装デザイン:マウゴザータ・カルピウク
編集:ポール・ワッツ
音楽:ミカ・レヴィ
上映時間:1 時間 45 分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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映画ライターー 尾鍋栄里子(おなべえりこ)

Twitter @onabe11
映画館バイト→雑誌映画担当→映画ライターと、人生の半分を映画業界の片隅で生きる名古屋人。
朝日新聞、中日新聞、フリーペーパーなどで映画紹介記事を執筆中。
映画フリーペーパー C2【シーツー】web版ブログ〝オー!ナイス!”不定期掲載

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