「エシカル」という言葉を知っていますか?
日本語では「道徳的な」という言葉になりますが、近年は映画祭の部門にも「エシカル賞」が登場し、環境や貧困、差別といった問題に映画を通して目を向けてもらおうという取り組みが行われています。それは東京国際映画祭でもすでに始められており、39回目を迎える本映画祭では4回目の「エシカル・フィルム賞」授賞式が行われました。
審査委員長には俳優の磯村勇斗さん、審査員には学生応援団の中から中央大学4年合島誠太郎さん、武蔵野美術大学3年兼則くるみさん、法政大学3年高橋詩織さんが選ばれました。

© 2026 TIFF
審査対象は、映画祭の中で上映された3作品。アニメーション映画『アマデオともうひとつの新世界』、実写映画『夢から覚めることはそうない』、ドキュメンタリーとフィクションをミックスさせた『時と塩』。どれもタイプの違う映画ながら、描いていることは、人種差別だったり、戦争とLGBTQ +だったり、家父長制など、「社会問題」をテーマにしています。そんな中で約1時間に及ぶ会議の末、磯村さんが大学生の声を拾いながら皆との議論を深め、イザベル・シュテーヴァー監督の『夢から覚めることはそうない』が選ばれました。

© OUTPLAY FILMS, © X FILME CREATIVE POOL
本作は、ロシア軍の侵攻が始まる数ヶ月前のウクライナ。主人公はクィアカップルなのですが、トランス男性のオレフは性別変更届けが受理されており、出国できないことが判明します。戦火を逃れることができないと知った恋人のオーリャや家族と話し合いを重ねる中で、オレフは自身のアイデンティティを守るのか命を守るのか、究極の選択を強いられるのです。
本作は審査を務めた4人ともエシカル・フィルム賞に相応しいと当初から口にしていた作品です。国が個人のあり方にどこまで介入するのかという問いと共に、考え方も生き方も違う人間の心理に焦点を当てた作品として、多様性の時代だからこそ世代を超えて多くの人に観て欲しいと総評で語っていました。

© 2026 TIFF
今回、エシカル・フィルム賞の審査会議に立ち会い、授賞式の進行と聞き手を務めたことで見えてきたのは、大学生の4人が背伸びをせずに自分達の目線で映画を多角的に見つめていたこと。何故ならアニメーションの方が子ども達には観てもらえるかもしれないと口にしたり、セクシャルなシーンについての映倫の基準を尋ねたり、家父長制を知らなかったので磯村さんから教えて貰ったりと、10代への映画鑑賞をイメージしている点が印象的でした。確かに未来を担う吸収力の高い若者に「エシカル」の理念は大事にして欲しいし、平和な世界を作る上では大事なテーマです。そんな彼ら彼女らが選んだ『夢から覚めることはそうない』がいつか一般興行として映画館で観られる日が来ることを願い。これも映画祭のあり方だなと感じた出来事でした。
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伊藤さとり

伊藤さとり(映画パーソナリティ・映画評論家)
映画コメンテーターとして「ひるおび」(TBS)「めざまし8」(CX)で月2回の生放送での映画解説、「ぴあ」他で映画評や連載を持つ。「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」俳優対談番組。映画台詞本「愛の告白100選 映画のセリフでココロをチャージ」、映画心理本「2分で距離を縮める魔法の話術 人に好かれる秘密のテク」執筆。




