伊藤さとりの映画で人間力UP!傑作小説を映画化する意味ってなんだ?『汝、星のごとく』から読み解く

漫画だろうと実話だろうと映画にする意味を考える面倒な人間であります。だって傑作と言われるほど完成された物語をどうして映像化したいのかと考えた時、監督やプロデューサーは同じような傑作を作る覚悟を持って制作するのだろうと個人的には思うから。
ならば原作をリスペクトして、大事な核となるテーマにスポットを当てつつも長編小説ならばカットする部分、膨らませる部分を考える映画作りになるんじゃなかろうかと。

という考えの中で映画を観た後に、凪良ゆう氏の『汝、星のごとく』を読んでみました。ちなみに私は、原作を読んでからだとどうしても原作リスペクトが強くなり、映画で描かれなかったところが気になるので、映画鑑賞後に原作をなるべく読むようにしております。で、この本を読んでからの感想ですが、映画の主人公が横浜流星さん演じる櫂と広瀬すずさん演じる暁海の二人だった理由がよく分かる。だって小説はこの二人それぞれの視点が順番に章として展開されているから。この書き方の本を映画にする上で、描くところ描かないところを考えながらひとつの物語に仕上げるって決して簡単ではなかったはず。あぁ、脚本家の安達奈緒子さんの力量に惚れ惚れしますよ。

そして小説から湧き上がる潮の香りや汗臭さが映画にしっかりと焼き付いており、凛とした雰囲気を持つ横浜流星さんしか櫂は演じられないと思うほど、頼りたくなる強さと優しい声に安心しそうになる中で、時に見せる冷めた視線に鳥肌が立つほど櫂だったのは事実。そんな櫂に惹かれていく暁海は原作ではもっとか弱そうに思えたけれど、広瀬すずちゃんの存在感と演技力で自立を夢見てもがく女性の強さが色濃くなり、時間が経つにつれてどんどん美しくなっていくのだから目が離せないのなんの。

ラブストーリーではありつつも描かれていることを細かく見ると、ヤングケアラーへの負担や噂話からの生きづらさ、偏見による弾圧、正しさが生む拘束という社会問題が描かれていることに気付かされます。けれどその問題への突破口もあり、人に頼ることや周囲の偏見に打ち勝つ自分なりの考えを持つ強さを映画では色濃く描いている気がしました。しかも二人が過ごす浜辺や大事な話をするホテルの部屋の光景など、フォトフレームに入れたいくらい印象的なのです。そこは映像美も大切にする藤井道人監督らしさであり、小説の持つ透明だけれど濃厚な空気感を見事に体現しているので色合いも上質。ちなみに櫂を見守る中村アンさん演じる編集者や長谷川博己さん演じる二人の高校の先生については、本を読むと彼らのキャラクターについてより深まるのでお勧めです。

それともうひとつ驚かされたこと。映画では緩やかに時間の流れを感じるのに実は年月がどんどん経っていて、まったく忙しさを感じなかった点。これは構成力と編集力なのだろうな。実際、344ページからなる小説もあっという間に読み終えたのと同じように。つまりそれだけ感情を文章に落とし込んだ優れた原作なのでした。よく映像化出来たと思う。そして映画をまた観たくなったし、映画との出会いで本の素晴らしさを知ったと思うと、「読む」小説を「視覚的な物語」という映画にする意味ってやはりあるのだよね。

『汝、星のごとく』

原作:凪良ゆう『汝、星のごとく』(講談社文庫)
監督:藤井道人
出演:横浜流星 広瀬すず/松村北斗 中村アン 濱田岳/尾野真千子 木村佳乃 石田ゆり子 長谷川博己
配給:東宝
2026年/日本/135分/PG-12

10月9日(金)より全国公開

©2026「汝、星のごとく」製作委員会 ©凪良ゆう/講談社

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伊藤さとり

伊藤さとり(映画パーソナリティ・映画評論家)

映画コメンテーターとして「ひるおび」(TBS)「めざまし8」(CX)で月2回の生放送での映画解説、「ぴあ」他で映画評や連載を持つ。「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」俳優対談番組。映画台詞本「愛の告白100選 映画のセリフでココロをチャージ」、映画心理本「2分で距離を縮める魔法の話術 人に好かれる秘密のテク」執筆。

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