「観るたび「感情」が変化する」スピッツの名曲から生まれたラブストーリー『楓』を行定勲監督語る

「さよなら~君の声を抱いて歩いていく」

世代を超えて愛され続けるスピッツの名曲『楓』が、この冬、映画になって帰ってきます。

タイトルは『楓』主演は、福士蒼汰さんと福原遥さん。『世界の中心で、愛をさけぶ』の行定勲監督が、撮りあげたのは、あまりに切ない“優しさ”の物語。このストーリーに隠された想いを聞くべく、シネピーのコラムでおなじみのヴィトルさんが行定監督にインタビュー。飛び出したのは、楽曲への深いリスペクトと、日本映画ならではの「表現」でした。以降、敬称略。

本作の主人公・涼(福士蒼汰)は、事故で双子の弟・恵を失います。しかし、ショックで錯乱する弟の恋人・亜子(福原遥)を目の前にした時、彼はとっさに眼鏡を外し、弟のフリをしてしまうのです。「僕は、弟のフリをした。君に笑っていてほしくて。」優しい嘘から始まる穏やかな時間。ところが、亜子もまた、誰にも言えない秘密を抱えていたのでした。

ヴィトル:僕も双子のパパでして、映画を観て号泣してしまいました。まるでミュージックビデオを観ているような感覚にもなったのですが、制作の経緯を教えてください。

行定監督:きっかけは「スピッツの名曲『楓』にインスパイアされた映画を作りたい」というオファーでした。一番重要なのは、この曲にちゃんと向き合うこと。僕の中では、最終的にエンドロールで『楓』が流れた時が、この映画のクライマックスなんです。そこから始まる物語でもあり、2時間の物語を反芻する時間でもある。映画を観終わった時、今まで聴いていた『楓』とはまた違う、新しい感情が芽生えたらいいなと思って作りました。

歌詞のミステリー。「かわるがわるのぞいた穴」の正体とは?

スピッツの草野マサムネさんが綴る歌詞には「裏打ちされた真実」や「毒」、そして「生と死の境界線」があると語る行定監督。インタビューでは、印象的な歌詞の解釈についても話が及びました。

ヴィトル:劇中の「穴」というフレーズが、望遠鏡やカメラのレンズのことなんだと、新たな解釈ができました。

行定監督:草野さんの歌詞は、ファンタジーと現実(リアル)が共存しているんです。「かわるがわるのぞいた穴から何を見てたかなぁ」という歌詞。一見すると、映画の中では望遠鏡やカメラのファインダーのことだと感じますよね。でも、一番重要なのは「かわるがわる覗く」ということ。「もう一人、隣にいた」という話じゃないですか。

「一人きりじゃ叶えられない夢もあったけれど」という言葉も、すごく実感できる。

映画って、観客が考える「余白」を作らないといけないんです。草野さんの歌詞になぞらえて物語を作るだけでなく、主人公2人がどんな想いでそこに立っているのか、観客に想像して委ねる。そんな映画にしたいと思いました。

花言葉「遠慮」が導き出した、日本ならではのラブストーリー

本作の演出の核となったのは、意外にも『楓』の花言葉なんだそう。

行定監督:脚本を作っている時に「なんでタイトルが『楓』なんだろう?」という話になって、花言葉を調べてみたんです。そうしたら、「美しい変化」や「調和」の中に「遠慮」という言葉があって。

「ああ、遠慮ね」と。

その時、演出の核が見つかったんです。

日本人は、想いを全部口に出して言わないじゃないですか。言わないことで、お互いの気持ちを察する。「あ、遠慮してるな」って。

「遠慮」という言葉はネガティブに捉えられがちですが、そうではなく、相手の気持ちを重んじているからこその「遠慮」なんです。

どうしても踏み込めない距離の中に、愛情やふたりだけの愛が浮き彫りになっていく。それがラブストーリーの醍醐味であり、日本映画の美しさだと思います。

1回目、2回目、3回目と、観るたびに全部違う映画に見えるはずです。

白黒はっきりした感情ではなく、「こう見られてもいいし、ああ見られてもいい」という余白を残して作られているため、観客のその時の心情や、物語の結末を知ってから観る視点によって、登場人物の感情が変化して見えるのです。

「人と人の関係も、『こう思ってたけど実は違った』という行き違いがあるからこそ感動が生まれます。言葉ですべてを説明しない、日本映画ならではの美しさを感じてほしいです」と語りました。

国境を超えた映像美と、バターが溶ける“おまじない”

映像美にも定評のある行定作品。今回は、『パラサイト 半地下の家族』などを手掛けた韓国のデクスタースタジオや、撮影監督ユ・イルスン氏らとのコラボレーションによって、透明感のある画作りが実現しました。

特に、ヴィトル君が気になったのは、劇中のあるシーン。

ヴィトル:撮影の中で「バターが溶けていく」の描写、すごく印象的でした。あれはオリジナルのおまじないなんですか?

行定監督:そうですね、脚本の高橋泉さんが書かれたオリジナルの“おまじない”だと思います。緊張が解けていくような。

ちなみに、監督にそういう「おまじない」みたいなものはあると聞くと、現実にぶつかって苦労してる(苦笑)とお話されていました。

また、光に関しては、長年一緒にやっている照明の中村裕樹さんと「自然光の傾きなどを見極めながら作りました」とのこと。「星空のシーンも含め、かなり力を入れた部分ですので、ぜひ劇場で観てほしいですね。」と笑顔を見せました。

最後にシネピーの読者に向けてメッセージをいただきました。

『世界の中心で、愛をさけぶ』から20年。また同じ「喪失」というテーマに挑みました。
人が人を想い、慮(おもんぱか)る気持ちを描いた、本当に日本人らしいラブストーリーができたと思います。
この寒い時期に、心を少し温かにしていただければと思いますので、ぜひ劇場で、美しい映像と音でご覧ください。

映画『楓』は12月19日(金)より全国公開です。

インタビュアー:ヴィトル
文:にしおあおい(シネマピープルプレス編集部)

作品紹介

タイトル:『楓』
出演:福士蒼汰 福原遥 ほか
監督:行定勲
脚本:髙橋泉
原案・主題歌:スピッツ「楓」(Polydor Records)
音楽:Yaffle
配給:東映/アスミック・エース
Ⓒ2025 映画『楓』製作委員会
公開表記: 12月19日(金)全国公開
公式サイト: https://kaede-movie.asmik-ace.co.jp
公式X/公式Instagram/公式TikTok:@kaede_movie121

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