伊藤さとりの映画で人間力UP!セックスシーンなんていらない、それが本音『平場の月』

50を過ぎると人生の終え方を考え始めるのよ。それは連れ合いがいようといまいと同じで、なるべくスッキリとした状態で死にたいとすら思う。

そんな50を越えた二人が再会して、幼い頃に抱いた淡い感情を思い出して、薬師丸ひろ子さんの「メイン・テーマ」なんか二人で呑んでる居酒屋で流れたら、ハートに火が着かないわけがない!しかも相手も自分も現在独り身。あぁ、すっかり忘れていた身近な恋愛感情を目の前の人により呼び戻されてしまったんだから、もはやこの映画は50代オーバーへのラブソングじゃないか。

最近は日本でも草笛光子さんや天海祐希さん主演で少しずつ大人の映画が増えて来たけれど、思えば大人の恋愛映画って、『愛の流刑地』以来、映画では目にしていなかっだ気がします。その前だと記憶に残っているのは『失楽園』だから、不倫モノということになりますね。いや、愛とはいえ身体の関係に溺れる内容はもう観たくない。そんな私の思いをすべて満たしてくれたのが『平場の月』でありました。

しかも堺雅人さんの豊かな表情が、やけに庶民的で生々しくて良いのだ。そこに中学生時代の自分のマドンナだった女性として井川遥さんがスクリーンに映し出されるんだから、納得しかないし。個人的にお気に入りシーンとなるのが、元嫁役の吉瀬美智子さんと井川遥さんが対面する瞬間!同性、年齢の近い私からすれば美の対決みたいではないか、と思いきや、見事なまでに井川遥さんが地味な女性というか月みたいな存在感を醸し出す。

これぞ女優だ、と感心しきりの中、堺雅人さん扮する主人公が、そこでどんな対応をするかは、スクリーンで確認して頂きたい。ちなみに私は、そこに少しイラッとしたタイプですが。

なんにせよ、50を過ぎた男女が恋に落ちたらやっぱり未来を考えるわけで、そこには命の誕生ではない、死神さんの影を目にすることになるのです。死に水を取るか?いや、面倒ではないか?どうする?そこまでの覚悟はあるか?と。それだけでなく、幼馴染みとなれば地元の同級生達の声もうるさい。過去から最近の噂まで狭い町なら色々とネタは豊富。つくづく大人って面倒な生き物ね。でもだから興味深くて味わい深いのよ。

それにしても朝倉かすみさんの感情を丁寧に綴った原作を、よくぞここまでたっぷりとした画で映画化してくれたものです。そこはやっぱり『ある男』や『愚か者の身分』の向井康介さんの心情に寄り添った脚本と、『いま、会いにゆきます』『花束みたいな恋をした』など、愛しい感情を映像で表現することにたけた土井裕泰監督という最強タッグのなせる技な気がしてならない。いやぁ、良かった。

 

目次

平場の月

監督:土井裕泰
出演:堺雅人、井川遥

配給:東宝

11月14日(金)より全国東宝系にてロードショー

https://hirabanotsuki.jp

©2025映画「平場の月」製作委員会

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伊藤さとり

伊藤さとり(映画パーソナリティ・映画評論家)

映画コメンテーターとして「ひるおび」(TBS)「めざまし8」(CX)で月2回の生放送での映画解説、「ぴあ」他で映画評や連載を持つ。「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」俳優対談番組。映画台詞本「愛の告白100選 映画のセリフでココロをチャージ」、映画心理本「2分で距離を縮める魔法の話術 人に好かれる秘密のテク」執筆。

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