伊藤さとりの映画で人間力UP!「子供達を映画に映す大切さ」

毎年、春になると公開される映画があります。それはある中学校の2年生のひとクラス全員の姿を追ったドキュメンタリーで、俳優の斎藤工さんが絶賛したことで更に口コミで広がった映画『14歳の栞』です。映し出されるのは、14歳それぞれの悩みや思い。それが私達、大人にも確実に大きな気づきを与えるのです。

実はこの映画はDVDやBlu-rayにはなっておらず、配信でも観られない、あくまでも上映というスタイルのみの鑑賞方法です。しかも上映の際にはお願い事が書かれたプリントが配布され、出演している子供達の安全を守ることを徹底しているのです。

では何故、そこまで身元がバレないようにしているのか。理由は、子供達の未来を守る為であり、特にネット社会の発達から、彼らが特定されることであらぬ誹謗中傷や冷やかしを避ける為であり、あくまでも一般の子供達の姿を撮らせて頂いたというスタンスを製作サイドが持っているからです。実は子供のドキュメンタリーを撮るのはとても難しく、一部のプライベートを世間に晒すことで、その子供の未来が変わってしまうこともあり得るし、子供は感情に揺らぎが生まれやすく、自我の確立の前段階でもあるからです。

あくまでも被写体となる本人達を尊重して構築された「守られた撮影」と「上映スタイル」で劇場展開される映画『14歳の栞』。それを実現したのがその後に製作され話題となった『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(2022)という全く違ったジャンルの劇映画を撮った竹林亮監督と彼が所属するCHOCOLATE Inc.のチームでした。

そんな竹林監督の新作ドキュメンタリー映画『大きな家』がこの秋公開となります。しかも企画、プロデュースは俳優で監督の齊藤工さん。実は『14歳の栞』を観て齊藤さんが竹林監督に企画を打ち明け、齊藤さんと一緒に数年前から児童養護施設にカメラを持たずに足を運ぶようになったそう。その後、本格的な撮影を開始した際にも、監督と最小限の撮影チームで1ヶ月に数回の頻度で半年間にわたり訪問して子供との関係値を深め、撮影隊が当たり前にその場所に居る環境を構築してからは長期に渡り撮影していったそう。

もちろん、ポスタービジュアルも後ろ姿。予告編も逆光の中、顔が分からない子供達の姿や後ろ姿の編集で構成されています。齊藤工さんが今年3/1リバイバル上映となった『14歳の栞』上映後のトークショーで口にした『大きな家』を撮るにあたっての思いは、今も私の耳に残っています。「児童養護施設の子供達に初めて会った時に、ひとりの子が自分を見る目から“また偽善的に現れて去っていく大人なんだ”と言っているような眼差しを勝手に感じたんです。意地というか、また来たと思われるくらいに通ってやろうじゃないかと」そう語った齊藤さんはどうやら半年間くらい竹林監督と共に通っていたそうで、この言葉から本当に飾らない彼らの想いや姿を撮りたかったし、伝えたかったのではと私は思いました。

実は別の日に竹林監督と話す機会があったんですが、その時に言っていたのは「彼ら彼女達が児童養護施設を出た後にこのドキュメンタリーがなんらかの支援に繋がったらいい、その為にはどんな映画になったらいいかを今も実は考えているんです」という内容でした。

被写体となった子供達や職員の人々が安心できるよう、先に映画も見てもらったと言う竹林監督チーム。そもそも彼らの未来の為になればと映画を撮っている、そして児童養護施設や子供達の何かの役に立つのではという思いで製作陣は映画を撮っているのだと気付かされ、ドキュメンタリーとしてのもう一つの在り方を確信した会話でした。そんな思いで作られたドキュメンタリー映画は、きっと観客となる私達が“出来ることを探す”映画体験なのではないでしょうか。

 

「大きな家」

公開日: 2024年秋公開
監督:竹林亮
企画・プロデュース:齊藤工
配給:PARCO
製作:CHOCOLATE Inc.
上映時間:120分

公式サイト:bighome-cinema.com
©CHOCOLATE Inc.

伊藤さとり

映画パーソナリティ(映画評論・映画解説/心理カウンセラー) 

ハリウッドスターから日本の演技派俳優まで、記者会見や舞台挨拶MCも担当する。全国のTSUTAYA店舗で流れる店内放送wave−C3「シネマmagDJ、俳優対談番組『新・伊藤さとりと映画な仲間たち』(YouTubeでも配信)、東映チャンネル×シネマクエスト、映画人対談番組『シネマの世界』など。NTVZIP!」、CX「めざまし土曜日」TOKYO-FMJFN、インターFMにもゲスト出演。雑誌「ブルータス」「Pen」「anan」「AERA」にて映画寄稿。日刊スポーツ映画大賞審査員、日本映画プロフェッショナル大賞審査員。

 

 

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