『死刑にいたる病』のサイコキラー役を、恐ろしいほど平然と演じた阿部サダヲが、
『舞妓Haaaan!!!』『なくもんか』『謝罪の王様』の水田伸生監督とタッグを組んだ本作。
演じるのは、人知れず亡くなった人を埋葬する市役所の「おみおくり係」牧本。
そう、『川っぺりムコリッタ』で柄本拓がやってたあのお仕事。
と言っても牧本の場合、単なる仕事ではない。
最小限のものしかない部屋で規則正しく質素に暮らし、
亡くなった人に寄り添うことに全てを捧げている。
そんな牧本が、孤独死した老人・蕪木の葬儀に参列者を呼ぶため、
遺品から手がかりを辿っていく。
牧本と様々な人たちとの出会い、
少しずつ見えてくる破天荒に生きた蕪木の愛と優しさ、
そして牧本自身の変化にグッときた。
例え一人寂しく亡くなったとしても、必ず出会ってきた誰かがいて、生きてきた軌跡がある。
どんな最期を迎えても、想ってくれる誰かがいれば、決して孤独じゃないし救われる。
そんな優しいメッセージが伝わってきた。
「死」を扱いながら暗くならず、ユーモアと温かさを感じさせてくれるのは、『川っぺりムコリッタ』と同じ。
元になった映画『おみおくりの作法』は観逃してたけど、俄然観たくなった。
牧本のバッググラウンドや、蕪木の過去を直接的に描かず、
過剰な説明を入れない想像の余地があるところも好み。
描かれない部分を演技で感じさせてくれるキャストたちもお見事!
察しが悪く、空気が読めず、こう!と決めたら猪突猛進。
純粋で真っ直ぐでユニークな個性を持つ牧本を、自然に演じてしまう阿部サダヲ。
『死刑にいたる病』では深い闇を感じさせた大きな眼も、今回は曇りなく見える。
一体、この人は何者なんだ!?
そんな本人のミステリアスなところも、牧本のキャラクターにピッタリ。
蕪木への複雑な想いを言葉と表情で物語る、
満島ひかり、宮沢りえ、國村隼の演技も絶品。
個人的には「大人計画」主宰・松尾スズキと、看板役者・阿部サダヲの掛け合いがツボでした。
さて今回の写真のアイテムはティーカップ。
食事はいつも立ったまま。
フライパンや炊飯器から直接食べ、
飲むのはコップの水。
味気ない暮らしをしていた牧本の変化が、ティーカップに表れていた。
そしてここからはネタバレありの感想なので
映画を観た方のみお読みください。
↓ネタバレ注意
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蕪木の人生を辿る中で、小さな命の温もりに触れ、日常のささやかな喜びを知り、視野も世界もぐんと広がった矢先の死…
衝撃的すぎて心の中でイヤだー!と絶叫。
牧本が人生を豊かにする楽しみを知らず、いつものように注意深く信号を渡っていたら、事故に遭わなかったかも知れないなんて…
それでも幸せだった、とは思うけど、あまりに辛すぎました。
「アイ・アム まきもと」公開中!
本作は、第70回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門で監督賞を含む4賞を受賞したウベルト・パゾリーニ監督・ 脚 本 の 『 お み お く り の 作 法 』( 1 5 ) を ベ ー ス に 、 本 作 オ リ ジ ナ ル の 新 た な 主 人 公 像 と し て 、 阿 部 サ ダ ヲ 演 じ る 強 烈 に ユ ニ ークでオフビートなコミカルさが魅力のキャラクター“まきもと”を造形し『アイ・アム まきもと』として生まれ変わりました。 この秋、ちょっと迷惑な男・牧本が“まき”起こす奇跡の物語が、日本中を優しさで包み込む ― 。
■公開:9 月 30 日(金)全国の映画館で公開
■配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
■コピーライト: ©2022 映画『アイ・アム まきもと』製作委員会
映画ライター 尾鍋栄里子(おなべえりこ)
映画館バイト→雑誌映画担当→映画ライターと、人生の半分を映画業界の片隅で生きる名古屋人。 朝日新聞、中日新聞、フリーペーパーなどで映画紹介記事を執筆中。 映画フリーペーパー C2【シーツー】web版ブログ〝オー!ナイス!”不定期掲