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今、映画ファンの間では『コーダ あいのうた』という映画が話題になっております。
先日も『やがて海へと届く』(4月1日公開)のインタビューで主演の岸井ゆきのさんとこの話題で盛り上がり、うっかり主演作の話しよりも長くなりそうに...。
まぁそれだけ大傑作なわけでして、サンダンス映画祭で観客賞、最高賞、監督賞、アンサンブルキャスト賞と4冠を受賞し、2月8日発表になる第94回アカデミー賞のノミネーションにも
名前が上がると予想されます。実は映画『コーダ あいのうた』は、フランス映画『エール!』をリメイクしたもので、アメリカ、フランス、カナダ共同製作の作品。
物語は、耳の不自由な家族の中でたった1人健聴者である少女が歌手になる為に進学を夢見るものの、家族のサポートや聴覚障がい者への不寛容な社会に押しつぶされそうになりながらも奮闘する姿を描いたもの。そこに彩りを与えるように、
自身も聴覚障がい者でもある『愛は静けさの中に』のオスカー女優、マーリー・マトリンが母親役を熱演。その他の家族も聴覚障がい者の俳優というダイバーシティを目指したキャスティングに唸ってしまいます。
そして主演のエミリア・ジョーンズの歌声は魂からの音色として人々を魅了し、家族のあり方についても観客が胸に手を当てて考える脚本には「お見事」としか言いようがないのです。
実のところ『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のジェーン・カンピオンがアカデミー賞監督賞に濃厚では?と巷で噂される中、いや、私はこの映画のためにアメリカ手話を学んで脚本の40%を手話でかいた
シアン・ヘダーに取って欲しいと願っちゃうくらい。
2021年製作/112分/PG12/アメリカ・フランス・カナダ合作 原題:CODA 配給:ギャガ (C)2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS https://gaga.ne.jp/coda/
ホント、音楽で心を通わせる映画は間違いなく琴線に触れるのですよ。そしてもう一本、1月28日から公開中の平和を強く願う音楽映画があるのでここでご紹介。
その映画『クレッシェンド 音楽の架け橋』は、アルゼンチン出身で現在はイスラエル国籍を持つユダヤ人ピアニスト・指揮者ダニエル・バレンボイムが、
米文学者のエドワード・サイードと設立したイスラエルと対立するアラブ諸国から集まった若者たちで結成された「ウェスト=イースタン・ディバン管弦楽団」をモデルにしたヒューマンドラマ。
ようは長い間紛争が続く国同士の若者たちを一つのオーケストラとしてチームにしてしまい、彼らが奏でるメロディで平和コンサートを開こうというもの。けれどそれは容易いことではなく、
祖父祖母が相手国との戦いで命を落とした境遇の者もいたり、女性がリーダーに選ばれたことへの嫌悪感や敵国出身者を生理的に受け入れられないなど、見えない壁が立ちはだかるわけで、
合宿シーンでは演奏だけではなくグループセラピーへと展開していくのですよ。
自分ではなくとも愛する家族の心に深い傷を追わせた国の人とどう仲良くすれば良いのか?それは国の問題だけではなく、人と人との関係にも当てはまることで、
仲間を傷つけた人の友人と仲良くすることへの抵抗感や嫌悪感と似ている感覚かもしれない。
主演4人以外のオーケストラチームは皆、音楽家。だからこそ演奏から強い良い思いが溢れ出す。そして国際映画祭で4つの観客賞を受賞したこの映画は、
いまだにイスラエルとパレスチナで上映されていないそう。さぞ、ドロール・ザハビ監督は悔しいだろうに。
自分たちの家族が安心して暮らせる社会を望むのが平和であるならば、映画が上映されることだけでも和平への小さな第一歩なんじゃなかろうか、と個人的には思うのです。
■「クレッシェンド 音楽の架け橋」 ■© CCC Filmkunst GmbH ■2022年1月28日(金)ミッドランドスクエア シネマほか全国公開 2019年/ドイツ/英語・ドイツ語・ヘブライ語・アラビア語/112分/スコープ/カラー/5.1ch/原題:CRESCENDO #makemusicnotwar/日本語字幕:牧野琴子/字幕監修:細田和江 監督:ドロール・ザハヴィ 脚本:ヨハネス・ロッター、ドロール・ザハヴィ 出演:ペーター・シモニシェック(『ありがとう、トニ・エルドマン』) ダニエル・ドンスコイ (「ザ・クラウン」「女王ヴィクトリア 愛に生きる」)サブリナ・アマーリ 配給:松竹
映画パーソナリティ 伊藤さとり
ハリウッドスターから日本の演技派俳優まで、記者会見や舞台挨拶MCも担当する。全国のTSUTAYA店舗で流れる店内放送wave−C3「シネマmag」DJ、俳優対談番組『新・伊藤さとりと映画な仲間たち』(YouTubeでも配信)、東映チャンネル×シネマクエスト、映画人対談番組『シネマの世界』など。NTV「ZIP!」、CX「めざまし土曜日」TOKYO-FM、JFN、インターFMにもゲスト出演。雑誌「ブルータス」「Pen」「anan」「AERA」にて映画寄稿。日刊スポーツ映画大賞審査員、日本映画プロフェッショナル大賞審査員。