〝住む世界が違う”2人の女性の邂逅と心の解放を軽やかに描く『あのこは貴族』
普段は全く意識しないけど、自分とは〝住む世界が違う”人というのは確かにいる。
「ここは退屈迎えに来て」「アズミ・ハルコは行方不明」の山内マリコの原作を映画化した『あのこは貴族』。主人公はまさに〝住む世界が違う”2人の女性。
1人は東京の裕福な家庭に生まれた箱入り娘の華子。
新年には家族が揃ってホテルで食事、友達とお茶するのは高層階のカフェ、どこへ行くのもタクシーを使う上流階級のお嬢様で、結婚こそが幸せと思っているのに、結婚を意識していた恋人にフラれてしまった。
そしてもう1人は東京で働く地方出身の美紀。
東京の街を自転車で駆け、友達とファミレスで盛り上がる。実家に帰ればジャージに着替え、父の説教にウンザリしながら母が作った煮物を食べる一般庶民。
窮屈な田舎を出て自分の力で生きているけど、東京に留まる意味を見失いかけている。
同じ東京に暮らしながら、何から何まで異なる2人の日常をさりげなく対比させつつ、それぞれが抱く息苦しさを浮かび上がらせ、住む世界の違いを超えた出会いがもたらす変化を軽やかに描き出す。岨手由貴子監督のセンス!
どの世界に属していようと関係ない。自分を縛るものから解き放たれ、心のままに自分の足で歩き出す女性たちの清々しいこと。
楽しいことも辛いことも共有して高め合う女同士の関係も心地よく、印象的なシーンと刺さるセリフがいっぱい。
写真のマカロンとアイスが登場するシーンもそのひとつ。
キャストもパーフェクト。品ある佇まいで華子を演じた門脇麦。
挫折を味わいながら必死で生きる美紀をチャーミングに演じた水原希子。
諦観を滲ませて2人を繋ぐ良家の子息、幸一郎を演じた高良健吾。
さらに2人の友達を演じた石橋静河、山下リオもいい。
それにしてもマカロンって、可愛いくて美味しいけどなかなか高価。セレブのスイーツだなと思う。昭和なら遠足のおやつに1個しか持っていけないよ(笑)。
2021年製作/124分/G/日本
配給:東京テアトル、バンダイナムコアーツ
(C)山内マリコ/集英社・「あのこは貴族」製作委員会
映画ライター 尾鍋栄里子(おなべえりこ)
映画館バイト→雑誌映画担当→映画ライターと、人生の半分を映画業界の片隅で生きる名古屋人。朝日新聞、中日新聞、フリーペーパーなどで映画紹介記事を執筆中。
映画フリーペーパー C2【シーツー】web版ブログ〝オー!ナイス!”不定期掲載