伊藤さとりの映画で人間力UP!『終わりの鳥』

A24色の強いファンタジースリラーってなんだ?。

A24という映画ブランドは「お洒落な作品」というイメージがあるのだけれど、これは『ミッドサマー』(2019)や『LAMB/ラム』(2021)といったポスターにしても絵になるビジュアルのせいかもしれない。そもそも2012年にアート系やインディーズ系の映画製作をしていたデヴィッド・フェンケルやジョン・ホッジス、ダニエル・カッツが個性的なインディーズ作品を世に送り出す目的で設立された会社なので、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022)みたいなぶっ飛んだ作品もココだし、新人発掘も重視しているので今やオスカー監督のショーン・ベイカーの過去作『フロリダ・プロジェクト』(2017)も実はそう。それとインディーズ監督の登竜門的なホラー映画にも目をつけているので『Pearl パール』(2022)みたいな流血祭りモノもあるのですよ。

こう書いて行くと明らかに好みが分かれるクセ強作品を揃えるA24。だから全部が全部、自分にハマるとは言えない攻めた作品選びなところが個人的には好感を持っております。そんなA24の新作は、スリラー要素が強くてダークファンタジーをアート色強めで綴った作品。それが『終わりの鳥』なんです。監督はこれで長編映画デビューとなった旧ユーゴスラビア出身、1985年生まれの女性脚本家ダイナ・O・プスィッチという方ですよ。

しかも彼女が描いた物語の死神は、身体の大きさを変幻自在に操れるオウムというのがまた斬新な発想。死期が近づく者の声を遠くからでも聞きつけ、死の瞬間に立ち会う鳥(デス)さんを、冒頭から芸術的な映像表現で見せてくれるので、すっかりデスに興味津々。そんな鳥さんが出会うことになるチューズデーは、母親と二人暮らしで重度の病を抱えながら看護師にケアされ毎日を生きている15歳の少女。彼女との会話からデスは初めてその場に居座り、母親の帰宅を待ったことでデスと母親のバトルへと物語は展開。ここからホラーテイストが色濃くなるものの、気持ち悪さや残虐なシーンは無いのでご安心を。

逆に浮き彫りになってくるのが、家に居られずに仕事へと逃げていた母親の本心。実は母性について描いたファンタジースリラーで、ロードムービーでもあるという冒頭の映像からは想定外の展開が魅力の映画『終わりの鳥』。まさにアート色ほどほど、ホラーテイストがややある哲学ファンタジースリラーという感じ。これは良い意味でA24らしい作品なので、私のハートにはピッタリとハマったのでした。さて、アナタにはどうだろう?

 

目次 [hide]

【STORY】

余命わずかな15歳のチューズデーの前に喋って歌って変幻自在な一羽の鳥が舞い降りた。
地球を周回して生きものの“終わり”を告げる、その名も<デス(DEATH)>。
チューズデーはそんな彼をジョークで笑わせ、留守の母親ゾラが帰宅するまで自身の最期を引き延ばすことに成功する。
やがて家に戻ったゾラは、鳥の存在に畏れおののき、愛する娘の身から<デス>を全力で遠ざけるべく、暴挙に出るが……。

『終わりの鳥』

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4.4(Fri)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開!
公式HP:https://happinet-phantom.com/tuesday/
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©DEATH ON A TUESDAYLLC/THE BRITISH FILM INSTITUTE/BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2024
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配給:ハピネットファントム・スタジオ

 

伊藤さとり

伊藤さとり(映画パーソナリティ・映画評論家)

映画コメンテーターとして「ひるおび」(TBS)「めざまし8」(CX)で月2回の生放送での映画解説、「ぴあ」他で映画評や連載を持つ。「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」俳優対談番組。映画台詞本「愛の告白100選 映画のセリフでココロをチャージ」、映画心理本「2分で距離を縮める魔法の話術 人に好かれる秘密のテク」執筆。

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