映画「ドライブ・マイ・カー」濱口竜介監督に聞く「映画祭は自分にとって大切な場所」

村上春樹の珠玉の短篇小説「ドライブ・マイ・カー」を今最も世界中が注目を寄せている濱口竜介監督が映画化。

 

8月20日(金)に公開されてすでに3週間目に入ります。

口コミでじわじわと広がりこの緊急事態宣言発令中にもかかわらず映画ファンのみなさんは映画館へと足を運んでくださっています。

そして、多くの公開作品から「ドライブ・マイ・カー」をチョイス。

鑑賞中、スクリーンに映し出される魅力的な映像表現に酔いしれ、登場人物たちと車で旅をしているような気分であっという間に時を忘れてしまう不思議な力をもつ映画なのです。

シネマピープルプレスの読者から映画を鑑賞した感想などが公式ツイッターなどに届いています。

「村上春樹と濱口監督は相思相愛」(常連の映画ファン)、「2時間59分という長尺ですが、まさにこれが必要な長さだと思いました。」(男性)

「西島さん演じる家福とドライバーのみさき、それぞれの背景の描写がとても丁寧にえがかれていました。人生と演劇がからみあい、とても味わい深い作品だった。」(40代女性)など。

 

 

鑑賞後しばらく余韻に浸り時間がかかるかもしれませんが、誰かに話したくなる、誰かとこの物語を共有したくなります。そのときは是非、また感想をお寄せくださいね。

さて、このたび「ドライブ・マイ・カー」公開前に本作を手がけた濱口監督に単独インタビューさせていただきました。

数々のベストセラーを生み出してきた村上春樹による珠玉の短編小説「ドライブ・マイ・カー」。濱口監督は妻を失った男の喪失と希望を綴ったこの作品に惚れ込み、映画化を熱望され脚本もみずから手がけていらっしゃいます。

濱口監督は共同脚本として加わった『スパイの妻』は第77回ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を黒沢清監督が受賞、自身のオリジナル脚本による映画『偶然と想像』は第71回ベルリン国際映画祭・銀熊賞受賞、そして「ドライブ・マイ・カー」では第74回カンヌ国際映画祭脚本賞含む4冠受賞という快進撃が続いています。

ーー監督、おめでとうございます!3年ぶりの二度目のカンヌ国際映画祭!二度目ということで落ち着いていらっしゃったのでは?

監督:相変わらずすごい熱気を感じました。もともとあまり落ち着かない映画祭ではありましたが、今回は進行などの流れがわかっていたので、その分は落ち着いてました。前は右も左もわからずでしたから〜。

ーー受賞された時の報道をネットニュースで拝見しまして、部屋の中で一人ではしゃいでおりました。タキシード姿もお似合いでこのときのために購入されたのですか?

監督:いやいやレンタルですよ〜(笑)タキシードは二回までレンタルした方が安いんです。

ーー二回といわず、これからもっと着用する機会が増えますのでそろそろ新調してください。

監督:二度あって三度はなかなかないですが・・頑張ります。

 

 

「地方映画祭の魅力について」

ーー監督はインディーズ時代から国内外の映画祭に出品をされています。私事(松岡編集長)ですが愛知県で開催されてる3つの映画祭のPRやコーディネイト、などをさせていただいています。 参考に教えていただきたいのですが、映画監督にとって、濱口監督にとっての映画祭は?

監督:まず、自分の作品が選ばれるのがうれしいですね。見識のある方に(何千本も映画を観ている方々)選んでいただけることが光栄です。そこで選ばれた自分以外の監督やスタッフやキャストに会えるということも素晴らしいことです。お互いの映画の映画をみあって共通の話題ができる、コメントを言い合う、もっとも大きな映画という共通項があるのでそれで話が弾んだりとか、そこから生まれる関係もできるので自分にとっては大切な場所です。

 

 

ーー手がけた作品はほとんど映画祭に出品されていますね?

監督:インディペンデントでやっていると、それは必須です。映画祭に出品すると劇場が公開を決めるというきっかけになることが多々あります。

ーー2013年に参加されています「山形国際ドキュメンタリー映画祭」はどんな映画祭ですか?

監督:アジア最大のドキュメンタリー映画祭です。町と映画が一体になっていてそれはそれは素晴らしいです。交流場も設置されているので様々な人とつながりができます。山形ドキュメンタリー映画祭は行くことをおすすめしますよ。

ーー映画祭はいつも旅行を兼ねていきますので、山形国際ドキュメンタリー映画祭もぜひ一度訪れてみたいとおもいます。様々な映画祭がリモートになり、交流というのはなかなかできません。カンヌはいかがでしたか?

監督:交流というのは3年前に比べてはあまりできませんでしたが、リアル開催はうれしいですね。感染対策として48時間ごとにPCR検査があったりとか、それはとても本気を感じました、国のプライドをかけた映画祭ですから!

ーー2021年の公開作が2本となりましたが、12月公開の『偶然と想像』(短編オムニバス3編)と『ドライブ・マイ・カー』、どちらが先の撮影だったのですか。

監督:同時並行でした。2019年から企画が両方とも始まりまして、2019年のうちに「偶然と想像」は1,2話は撮りました。そして、2020年3月から「ドライブ・マイ・カー」の撮影がはじまったんですが、コロナで「ドライブ〜」が中断して再開まで8ヶ月くらい空きましたので、その間に「偶然と想像」の3話を撮影しました。そして3話を完成させてその後「ドライブ・マイ・カー」の後半に取りかかったという流れです。

 ーーコロナ中に両方とも撮られたということですが、コロナ禍での撮影ですから今までのように役者同士のコミュニケーションもとりづらかったですよね。

監督:コミュニケーションはとりづらかったとは思いますが、フィジカルディスタンスを見越してやれば(準備)さほど影響はなかったような気がします。「偶然と想像」に関しては小さなシーンが多かったので撮影のリスクは比較的低かったと思います。「ドライブ・マイ・カー」は感染者もなく無事に終えたのでほっとしました。

ーー海外キャストのオーデションがオンラインだったとお聞きしています。今までない方法かとおもいますが、オンラインならではの利点は?

監督:海外のキャストに関してはオンラインでした。対面じゃないとわからないこともありますが、オンラインオーデションはそんなに悪いものではなかったです。まぁ、ビジュアル的なことはカメラのレンズがゆがんでいるので、よくないかもしれませんが、人柄的なことは対面とそんなに変わらないです。カメラを通した方が“じろじろ”見られるというところもあります。でも、こちらも“じろじろ”見られているので(笑)、そこは自分自身も気をつけないといけないと思いました。オンラインはカメラを通すことで無遠慮で見ることができます。対面ですと、“じろじろ”見るとはばかられるところがありますから。

 ーーここ一年半、私もリモートインタビューが多くなりまして、同じ画面で顔を見ながら話をするのでとても親近感を感じながらお話を伺うことができて、今までよりも相手の目を見て話しています。

監督:そうです、悪いことばかりではないですよね。

ーーでも、やはり今日のようにお会いできてお話しできたのはうれしいです!ありがとうございます。

監督:それはもちろんだと思います。こちらこそありがとうございます。

ーー監督は、村上春樹さんの原作を映像化する前にお読みになっていたのですか?

監督:「寝ても覚めても」のプロデューサーの山本(晃久)さんという方がいて、今回のプロデューサーでもあります。山本さんは村上春樹さんの大ファンで、村上さんの短篇を映画化したいと提案がありました。ただ、提案されたのはちょっと難しいと感じたのですが、短篇のひとつ「ドライブ・マイ・カー」に関しては僕も読んでいて好きだったんです。自分がそれまで取り扱っていた“乗り物に乗って会話をする”俳優が俳優を演じる”ということがテーマになっていることなど、自分としても好きな題材なのでこれだったらできると思い映画化に踏み切りました。

 ーー「ドライブ・マイ・カー」をどのように一本の長編映画したのか、構成案で苦労したことなど教えてください。

監督:そうですね、長編映画にするには、短篇一本ですと短い内容ではありますし、淡々としているので長編ならではの“起伏”や“ダイナミック”さを作っていくかというのが問題でした。この「女のいない男たち」という連作短編集は(6作篇収録)村上さんの本のなかでは珍しく前書きがついていたのです。その前書きの中で、この短編集の6作はどこか共通したテーマを使っていると書かれていてそれは本の題名になっている「女のいない男たち」に集約されているものではあります。“どこかに帰ったところがある”ということだったので、物語を膨らませるに当たって、ここから(ほかの短篇から)材料をとっていこうと思い、短篇集を何度も読んで連作短篇の「シェラザード」「木野」からモチーフを借りて、「ドライブ・マイ・カー」の小説の方には描かれていないような、過去や向かうべき未来を書いていきました。

ーー主人公を演じた西島秀俊さんについて教えてください。

監督:ドライブ・マイ・カー」の山本プロデューサーに西島さんが主人公の家福がよいとお伝えしました。ですから企画の段階から西島さんはセットでしたね。

 ーーそこにいるだけで絵になりますね。

 

監督:いやぁ〜超かっこいいですよ。大スターなのにとても話しやすいかたで、ほんとに素晴らしいです。舞台のシーンなど思わず“あら、かっこいい!”と惚れ惚れして観ておりました。もちろん、西島さんだけじゃなく、みなさん素敵でした。カメラの前に立っていただけるだけでありがたいと感じながら撮影していました。

ーー主人公の家福の愛車サーブのドライバーをつとめることになったみさきを演じた三浦透子さんについてですが、オファーの時には運転免許がなかったとお聞きしています。

監督:そうなんです。オファーをしてから免許を取ってくださいまして、監督補をしてくださった渡辺さんが運転がうまい方なので、三浦さんの運転につきっきりで指導してくださって。ですから、教習所を出てからも教習所にいるというかんじでしたね(笑)。そのおかげもあり、三浦さんはとても運転がうまくなったと思います。左ハンドルのサーブという車ですけど、最初から左ハンドルなので、運転がしづらいということもなく堂々と運転をしてくださいました。

安全の問題もあるのでほとんど牽引車を使っていましたが、もっと運転したいとおっしゃっていました。

 ーー劇中で演劇の本読みのシーンで感情を入れないで音読を繰り返すというシーンがとても印象に残りました。

監督:本読みのシーンの本読み時間をスケジュールにいれて、準備として一同集まって自分の台詞をお互い読みあげていく。無感情でニュアンス抜きでやるということをしました。これをやっておくと役者さんは安心して本番に挑むことができるのと、これがコミュニケーションの時間になっていたのですごく大切な時間でしたね。

  ーー最後にこれからご覧になるみなさんへ、メッセージをお願いします。

監督:村上春樹さん原作の短篇を映画化しました。役者さんにおんぶに抱っこの映画ではありました。村上さんの物語を役者さんたちが素晴らしい形で表現をしてくださっています。みなさん美しい、かっこいいだけじゃなくて、キャストのみなさんの人間として魅力にあふれた方なのでぜひご覧いただきたいと思います。

 

『ドライブ・マイ・カー』

監督:濱口竜介 脚本:濱口竜介 大江崇允 音楽:石橋英子
出演:西島秀俊 三浦透子 霧島れいか/岡田将生
原作:村上春樹 「ドライブ・マイ・カー」 (短編小説集「女のいない男たち」所収/文春文庫刊)
製作:『ドライブ・マイ・カー』製作委員会 製作幹事:カルチュア・エンタテインメント、ビターズ・エンド
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント 配給:ビターズ・エンド 
2021/日本/1.85:1/179分/PG-12
公式サイ(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
8/20(金)よりTOHOシネマズ日比谷、伏見ミリオン座ほか全国ロードショート
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