『361 – White and Black -』名古屋舞台挨拶で星野奈緒、吉原由香里ら裏話明かす

『361 - White and Black - 』名古屋舞台挨拶

碁盤の上に広がる無限の可能性
囲碁が繋ぐ絆の物語『361 – White and Black -』

19×19の線が交差し、盤上に広がる361の点。
その一つひとつの交点は、囲碁の世界において星の数ほどの無限の可能性を秘めていると言われています。
そんな、囲碁の世界を舞台に、過去のトラウマから囲碁が打てなくなってしまった青年と、有名棋士となった幼なじみたちが織りなすヒューマンドラマ『361 – White and Black -』。

5月9日、名古屋のミッドランドスクエア シネマにて行われた舞台挨拶に、ヒロインの女流棋士・米原沙羅役を演じた星野奈緒さんをはじめ、大山晃一郎監督、稲葉禄子プロデューサー、そして本作の囲碁アドバイザーを務めたプロ棋士・吉原由香里さんが登壇。

全世界に約4600万人もの競技人口がいるという囲碁の世界を舞台に描かれた絆の物語の裏側を語りました。


10の360乗、星の数以上の可能性が広がる世界…と
タイトルにこめられた想い

本作のメガホンをとったのは、初長編作『いつくしみふかき』で数々の映画祭を席巻した大山晃一郎監督。本作でも、グローバルステージハリウッド2025で、最優秀新人俳優賞(長野凌大さん)、最優秀新人女優賞(星野奈緒さん)、最優秀新人監督賞(大山晃一郎監督)を受賞しています。

この日、大山晃一郎監督をはじめ、名古屋での舞台挨拶をとても楽しみにしていたと明かす4人。星野さんはきしめんを食べたことを明かし、吉原さんは「矢場とん」が食べたいと、名古屋での滞在を楽しみにしている様子でした。(以降、敬称略)

稲葉:囲碁をやられる方、手を挙げていただいていいですか?(チラホラ手が挙がる)

星野、大山監督、吉原:おぉ~、すごい。ありがとうございます。

稲葉:実はタイトルの「361」という数字には意味があります。碁盤の上には、縦横それぞれに走る19本の線がありまして、その線と線が交わる場所を、私たちは「交点」と呼んでいます。この交点の上に黒と白の石を交互に打っていって、一局が紡がれていくのですが、一局の中に秘められた変化は、まさに無限。果てしないほどの選択肢と可能性が、361の点の上に横たわっているのです。

大山監督:テーブルスポーツ史上、一番多いんですよね。

稲葉:一番奥が深い!一説には10の360乗とか言われたりもするんですけど、星の数以上の可能性が広がっていていて、(映画をご覧になる)皆さまの人生も一歩踏み出すことによって、その果てしない可能性が広がっているよというメッセージがあります。そして……。

大山監督:なぜ「White and Black」にしたかと言うと…。

星野:私たちが普段使っている「白黒つける」とか、「一石を投じる」、あと「駄目」って言葉も、囲碁から来ている言葉なんですね。これを稲葉さんから教えていただきまして、「Black and White」のほうが聞き馴染みはあるけど、19×19で361、「白黒つける」にあわせて(ネイティブな発音で)「White and Black」に…。

大山監督:発音が(笑)。僕や星野さんは、いままで全く囲碁に縁がなかったんですけど、知らないうちに普段の生活の中で囲碁由来の言葉を使っていると知って、それを皆さんにも知って欲しくて、このタイトルにしました。

稲葉:そして…。

大山監督:タイトルの「361」には、主人公の眞人を演じてくれたりっちゃん(長野凌大さんの愛称)が、いろんなことがあって、それでももう一度囲碁に向き合う、一歩踏み出すまでを描きたいと思って、こういう物語になったんですけど。純粋な一歩目ではなくて、360度一周回って、そこから一歩踏み出す。「361」という数字が素敵だなって。だから、皆さんも囲碁関係なく、一度やりかけたけど止まっていることにもう一度向き合って一歩踏み出す、この映画でそんな背中が押せたらいいなと思っています。僕自身、一作目がコロナにぶち当たってですね…苦労したので。ある意味『361 – White and Black -』が、その一歩目だなって取り組みました。

稲葉:皆さんも、ぜひ「361」という言葉使ってみてください。

吉原由香里さんと稲葉禄子プロデューサーの特別な絆
星野奈緒さんとユチョンさん!対局では別のプレッシャーが

大山監督:今日は、せっかく(吉原)由香里さんが来てくださっているので。

吉原:ちょっと恐縮しちゃう(笑)

※吉原由香里さんは、女流棋聖3連覇など数々のタイトルを獲得した棋士。アニメ『ヒカルの碁』の監修で知られる。本作では、棋譜作成と囲碁アドバイザーを務めている。

大山監督:稲葉さんと吉原さんは、どういうご関係だったんです?

吉原:子どもの頃からのお付き合いで。

大山監督:(驚いた様子で)そんな昔から?

吉原:最初に会ったのは、私が小学校5年生ぐらいで……。

稲葉:ついこないだだよね(笑)

吉原:当時、高校生ぐらいだったのかな?すっごい綺麗なお姉さんがいるな~って。

星野:囲碁に出会ったきっかけは?

吉原:私は6歳の6月に囲碁を始めました。きっかけは父の「6歳の6月から始めた習い事は長続きする」という信念だったそうです。父が娘に何を習わせようかと探していた時、祖父や叔父が親しんでいた囲碁が候補に挙がったのが全ての始まりでした。

大山監督:へぇ~。

吉原:父はまったく(囲碁)できないのに(笑)

稲葉:私はオセロから入りました。そんな私を見て、両親が「囲碁もやってみたら」と勧めてくれたのがきっかけです。いざ始めてみると、その奥深さにズブズブと、心地よいほどにはまり込んでいきました。

大山監督:言い方(笑)

稲葉:この映画を企画したのも、囲碁界を盛り上げたいっていう思いがあって。

吉原:私が囲碁を始めた頃は、碁会所へ行けばどこも人で溢れかえるほどの活気がありました。ですが現在は、当時の10分の1ほどにまで競技人口が減ってしまっています。

囲碁はルールを覚えるのにも、そして一局を打ち終えるのにも、それなりの時間を要します。「タイパ(タイムパフォーマンス)」が重視される現代の価値観とは、一見逆行するように感じられるかもしれません。

けれど、時間をかけて相手とじっくり向き合い、盤上に自分らしさを表現できる時間は、何物にも代えがたい素晴らしいものです。稲葉プロデューサーも、この大切な文化を何とか守り、発展させたいという一心で、この映画を企画してくださったんですね。

大山監督:(監督の)話をいただいた当時は、囲碁と面識がなさすぎて興味がなかったんですけど、話を聞いてみたら「碁盤をキャンバスと思ってください」と。囲碁って、ひとつのキャンバスを白と黒で彩っていくというか、デザインしていくんですけど、互いの心を読みながら、僅差で勝つことに美学があるスポーツなんですと聞いて、ビビビっていろいろ(アイデアが)湧いてきて。他者と作り上げるという話を聞いた時にこの物語や眞人のビジュアルが生まれてきて。(トラウマを抱えた)眞人くんが、誰かと関わって生きていけるようになるまでを描きたいなって。

オリジナルTシャツのデザインにもなっているんですけど、この4人が囲碁を囲んでいるシーンを撮りたいなって。そこから始まりました。そして由香里さんと今日お話ししたかったのが、『ヒカルの碁』。僕が小学生の時に、すごいブームになって。『361 – White and Black -』を作る時も、かなり参考にしました。『ヒカルの碁』が革命的だなって思ったのは、霊が出てきて主人公をナビゲートするんですよ。

ヒカルの碁
平凡な小学生の少年が天才囲碁棋士の霊に取り憑かれたことで囲碁の世界に巻き込まれ、「神の一手」を目指す姿を描く作品。

だから『361 – White and Black -』にも霊を出そうと思ったぐらい(笑)

吉原:(笑)

大山監督:それで、その役を松岡広大さん演じる小坂に担ってもらいました。

稲葉:いい役作りしてくれてましたよね。奈緒ちゃんも、棋士として毅然とした美しい佇まいで演じてくれましたけど、棋士役はどうでした?

大山監督:ずっと石持たされてたよね!

吉原:ずっと回してって(笑)

星野:それこそ寝る間も惜しんで、ずっと回してました。やっぱり囲碁をやってる方から「(手つきが)微妙だな」って思われたくなかったので。

吉原:負けず嫌いだよね!

星野:「いいじゃん!」って言われるぐらいには、なりたくて。

吉原:でも、それすごい大事で。囲碁が出てくる映画を見た時に、どうしたって俳優の手つきを見ちゃうんですよ。それが下手だと、どんなに強いという設定でも、テンションが下がっちゃう。

星野:(ドキドキ)大丈夫でした?

吉原:『361 – White and Black -』は、どんどん物語の中に入っていけて、泣いたり笑ったり、喜怒哀楽が全部詰まっていて、純粋に楽しめました。

星野:(ホッとした表情で)ハンミョン役のユチョンさんと戦うシーンは、ユチョンさんと私(物語やキャラクターと)別の意味で泣いてて、碁盤の上に石がいっぱい置いてあるんですよ。その中で石を打たなくちゃいけないけど、崩しちゃったら台無しになるし「もう無理…」「でも頑張ろう!」ってふたりで励まし合いながら、演じてました。

大山監督:あのシーン、確か「日本棋院」で撮ってますよね。囲碁の総本山。

吉原:普段、私たちが対局しているところです。

大山監督:「幽玄の間」っていう、「やばい、この部屋何かいる!」って感じるような…。

星野:一礼して入りました。

吉原:あそこは、その時のナンバーワンの人だけが対局できる部屋なので、誰でも入れる場所ではなくて、私もあそこで対局できたのは2回ぐらい?

稲葉:2回でもすごい!

吉原:大事な対局の時にしか打てない特別な場所ですね。あそこで打つのが私たちの誇りみたいな。

大山監督:そんな大切な場所で、僕おならしちゃったんですよ!

全員: 最低ー!!(笑)(いい話の中での、まさかのカミングアウトに一同爆笑)


この日の舞台あいさつでは、紬を着ていた星野さん。実は、特別な思いがあるようで。

星野:いつも舞台あいさつでは訪問着を着るんですけど、今日は名古屋ということで、名古屋帯を締めたくて紬を着させていただきました。明日と明後日も、このスタイルで行こうと思っています。

大山監督:え?回って回って!

星野:ぐるんと回る。

大山監督:早い早い!回るの早い(笑)いつも訪問着を着ているので、若女将と呼んでるんですけど、今日は座敷童です。着付けとか大変ですよね。こだわりとかってあるの?

星野:劇中でも着物を着ることが多かったので、和装に興味を持ち始めて。着物を着ると、シャキッとするので、こうやって着ていくことで「ちょっとでも着物いいな」「着てみようかな」みたいな人が増えたらいいなと。

大山監督:稲葉さんや吉原さんにとっては「囲碁」、星野さんは「着物」そして僕は「映画」です。配信が始まって、手軽に見れるようになったけど、映画館で見て欲しくて。終わって一杯飲みながら、語り合ったり。小さいときに、おじいちゃんに連れられて映画館で観た作品が忘れられなかったり。この映画が、見た人の「ワンピース」になれたらって思いながら撮ってます。

吉原:好きなものをちゃんと応援していくことはすごく大事だと思っていて、私は本が好きなので本屋さんに行ったり。おしゃれなカフェもいいけど、長年ずっとやっている喫茶店に行ったり。もちろん「囲碁」もね、そうやって応援していきたいなって思います。

稲葉:由香里ちゃんにとって「囲碁」ってどんな存在?

吉原:誰もが自分を表現する場所を持っていると思いますが、私にとってはそれが「囲碁」。小学校1年生から続けてきて、私にとって父との大切な思い出と結びついています。碁盤に向かうと、その時の精神状態や「自分が何をしたいか」という想いが、不思議と盤上に現れるのです。ある人にとってはそれが音楽や絵画であるように、私にとっては碁盤に一手打つことこそが、自分らしさを表す手段なのだと感じています。

また、囲碁には「相手と向き合い、会話をしていく」という素晴らしさもあります。これほど長い時間、誰かと面と向かって過ごす機会は日常ではなかなかありません。対局を通じて誰かと何かを分かち合う喜び、その大切さを、私は囲碁という時間から教えてもらっていますね。

稲葉:素敵~。心に響く~。

大山監督:ハイボール4つください~。これは飲みたくなっちゃう(笑)。


最後にメッセージ

舞台挨拶の締めくくりには、登壇者それぞれから、本作を支えてくれた観客への深い感謝と、作品に込めた願いが語られました。

星野:舞台挨拶も20回を超え、こうして全国各地を回ることができて本当に幸せです。先日、知り合いの方が「久しぶりに母と映画を観るきっかけをくれてありがとう」と言ってくださったのですが、誰かの人生の「きっかけ」になれる作品に携われたことを、心から光栄に思います。

大山監督:師匠から「映画を作る時は省略と飛躍を計算しなさい」と教わってきました。本作でも、あえて描かなかった「空白」があります。でも、そこには笑顔で対局する眞人たちの姿が心の中に浮かんでいるはずです。皆さんが、それぞれの想いで空白を埋めてくださった時、初めてこの映画は完成します。一人一人の心の中で『361』が完成することが、何よりも嬉しいです。

吉原:劇中に登場する「宇宙流」という打ち方は、効率は決して良くありませんが、そこには大きな「夢」があります。効率を超えた美しさに目を輝かせる登場人物たちの姿を通して、囲碁の勝敗を超えた魅力を伝えていただけたことに感謝しています。ぜひこの後、お仲間とお茶を飲んだり一杯やったりしながら(笑)、映画の余韻を楽しんでいただけたら嬉しいです。

稲葉:囲碁の本質は「共存」にあると考えています。勝とうと気負うよりも、微差を認めるしなやかさこそが心に響く。分断が進む現代だからこそ、この囲碁の考え方を世界に広めていきたいです。当初10館からスタートした上映も、皆様の応援のおかげで現在34館まで広がりました。これからも各地で上映が続きますが、ぜひご友人やご家族に皆様の感想を伝えていただけたら幸いです。応援よろしくお願いします。

名残惜しい空気の中、最後は大山監督の「本日はご来場いただきまして、眞人(まこと)にありがとうございました!」という、主人公の名にかけた力強い挨拶で締めくくられました。

一手の選択が運命を左右する囲碁の厳しさと、その先にある救済。劇場を出た後、どんな景色が広がっているのか、ぜひ劇場でお確かめください。

映画『361 – White and Black -』はミッドランドスクエアシネマほかで順次上映中

取材・文 にしおあおい(シネマピープルプレス編集部)

舞台あいさつ

2026年5月10日 (日)
11:40の回 (上映後 舞台挨拶 13:35~14:05)
星野奈緒さん、大山晃一郎監督、稲葉禄子プロデューサー

2026年5月11日 (月)
18:30の回 (上映前 舞台挨拶 18:30~19:00)
長野凌大さん、星野奈緒さん、大山晃一郎監督

作品紹介

【ストーリー】港町で暮らす上条眞人(長野凌大)は、囲碁世界チャンピオンのパク・ハンミョン(パク・ユチョン)が「日本にライバルがいる」と発言するのを目撃する。誰もが米原沙羅七段(星野奈緒)のことだと思う中、二人の幼馴染である眞人は、あるトラウマから対人対局を避けていた。ディレクター・小坂(松岡広大)の策により、賞金1億円の大会へ挑むことになった眞人は、対局を通して隠された真実へとたどり着く……。

タイトル:『361 – White and Black -』
監督:大山晃一郎
出演:長野凌大 パク・ユチョン 星野奈緒
松岡広大 美山加恋 渡辺いっけい 羽場裕一 金田明夫 ほか
プロデューサー:稲葉禄子
棋士/囲碁アドバイザー:吉原由香里
公式サイト:https://361whiteandblack.com/
5月8日(金)よりミッドランドスクエア シネマにて公開中
©2026「361 -White and Black- 」製作委員会

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