1967年に放送され、TBSドキュメンタリー史上最大の問題作と呼ばれた作品を現代に蘇らせた『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』公開3日目となる2月26日に伏見ミリオン座で舞台挨拶を行った佐井大紀監督にインタビュー。本作で監督が挑戦したことや作品にこめた思い、次作についても聞きました。
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日の丸の赤は何を意味していますか?
始まりは、1967年2月9日に放送された1本のドキュメンタリー番組「日の丸」劇作家の寺山修司が構成を手掛け、街ゆく人々に「日の丸の赤は何を意味していますか?」「あなたに外国人の友達はいますか?」「もし戦争になったらその人と戦えますか?」といった挑発的な質問を次々と投げかけ、その街頭インタビューのみで構成された番組は、放送当時かなりの物議を醸しだし、閣議でも問題視されました。
それから半世紀。新人研修で「日の丸」を見た監督は、当時の印象を「呪いのビデオを見せられたような嫌な感じがした」と振り返ります。「普段、僕はドラマ制作部でドラマを作っているのですが、テレビ番組って普通は楽しんでもらいたいから心地よいものを工夫して作るけど、『日の丸』はその真逆にある『ちょっと嫌な思いをさせてやろう!』ぐらいの挑発的な内容で、強い衝撃を受けました。それこそ、呪いのビデオのような思いが念写されている嫌な感じを抱きましたね」
数年後。TBS局内でドキュメンタリーの企画募集があると知った監督の脳裏をよぎったのは「日の丸」「あぁいう居心地の悪いものを深夜やスクリーンにかけた時『お客さんはどんな顔をするんだろう?』と。もともとこのドキュメンタリーは、シネマベリテという60年前後のフランスで起きたドキュメンタリー映画の手法をテレビに応用したものだってことも知っていたので、ドキュメンタリーを隠れ蓑にゴダール的なことをやれたらいいなと思っていました」
奇しくも「日の丸」が放送された1967年と現代(2022年)は、自国五輪や万博などが開催されるなど、共通点も多い。「もうひとつは、一見、似たような時代を生きるいまの人たちに同じ質問を投げかけ比較することで、日本社会の何かが…日本人が見えてくるのではないか?そういうふたつの思いからスタートしました」
マイクを持って、街に出たら…
自らマイクを持って、街に出た佐井大紀監督。敢えて身分を明かさず、街頭に立ち、道を行き交う人たちに唐突に質問を投げかけていく。300人近くにインタビューするも迷惑系YouTuberと間違えられることも「最終的に承諾書にサインをもらえたのは30人ほどでした。昔は、通り過ぎていった人の映像も平気でバンバン使ってるけど、今は承諾を得た人の映像しか使えないので、300人近くインタビューしたと言ってもその意味合いは変わってきますよね。当時のこともあるので今回は特に、コンプライアンスや作品としてのバランス、撮り方というのはすごく慎重にしていました」
劇中では、新成人っぽい着物を着たふたり組の女性が登場し、ひるむことなく質問に次々と答えていくシーンが登場する。そのエピソードをあげると「あの子たち浅草に遊びに来ている子たちなんで、成人式じゃないんですよ」とニヤリ「みんなに『成人式?』って言われるんですけど、成人式の時期は撮影してないんです。でも、なんかこう意味ありげなショットになってますよね。そこには映画的な嘘が含まれていて、すべてこう演出されてて、あのタイミングであの子たちがあぁいう風に答えると、成人式に参加している新成人が答えてるみたいに、いろんな意味が乗ってきますし、道玄坂で顔を隠してくれって言った人も『あれ、半グレなのかなぁ?』とか(観客が)いろんな想像をされるじゃないですか、そういう映像の魔法みたいなところが面白いですよね」
「僕」という主人公が右往左往する…
監督が目指したのは、ドキュメンタリーとドラマの融合。「寺山修司が「ドキュラマ」という言葉を使っていて、当時の雑誌にもドキュラマ論という文章を寄稿してるんです。現実の中に石的なものを投入するとドラマが生まれるというもので、何を投入するかで、作家性やメッセージみたいなものも色濃く出ると。
本作でも「ドキュメンタリーはある種のフィクションである」という目線づけをして撮っているので、文学性やポエティックなものの匂いを保ちながら、劇映画的な視点を忘れず、いかにドキュラマに仕立てあげるか。
僕はこの作品をドラマだと思っているんですよ「日の丸」に対する僕という主人公が、寺山修司や日本と対峙し右往左往しながら、何かが見えてくるのか、こないのか、というひとつの旅。そういうドラマを軸にして「日の丸」というドキュメンタリーを構成しているという構造を撮っているんです」
次作は『カリスマ ~国葬・拳銃・宗教~』
あなたの人生の主役は一体誰ですか?
3月17日(金)(伏見ミリオン座は24日(金))より全国順次開催される TBSドキュメンタリー映画祭 では、佐井大紀監督の新作『カリスマ 国葬・拳銃・宗教』が上映されます。「この作品も『日の丸~』からの延長になるようなドキュメンタリーとドラマの融合を試みたドキュラマ作品。ぜひ『日の丸~』と併せて観ていただきたいです」と監督。テレビドラマ制作の中で、エキストラに演技をつけることもあるという監督が「僕たちも『社会』というフレームの中で生きているエキストラなのではないか?」という疑問を出発点に「あなたの人生の主役は誰?」と、再び日本にマイクを向けるドキュメンタリーです。
酒の肴のつもりで気軽に話題に
「”日の丸”や”国”というテーマは、普段なかなか会話に出しづらいと思うのですが、この映画を酒の肴にしていただいて、みんなで社会やアイデンティティーについて気軽に話すきっかけになればと思っております」とインタビューの言葉を結んだ監督。映画作りの話になるととても楽しそうに語りだし、チャーミングな笑顔が印象的でした。映画『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』は2月24日(金)より伏見ミリオン座ほか、全国順次公開中です。
取材こぼれ話
10代の時、寺山修司の書に出会った佐井大紀監督は「世の中的な尺度ではなく、自分の人生を物語化して、その主人公を生きた人。自分の人生を虚像入り混じる形で作品に昇華させて、生き方そのものが面白い。僕も寺山に解体、再構築されたひとり。人生においても、カルチャーにおいても、政治においても、かなりの影響を受けていて、当時は言語化できなかった衝撃が、いまになって、自分がものを作るようになって、初めて何をされたのかがわかったんです。気づかなかったけれど、面白いことが(自分に)起きていた。それがわかった作品でもあります」と笑顔で語ってくれました。ドキュラマという手法を自分のものにしつつある監督の今後にも注目です。
聞き手 松岡ひとみ 写真・構成・文 にしおあおい
作品情報
作品名:『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』 監督・撮影・編集:佐井大紀 イラスト制作:臼田ルリ 劇中写真:金子怜史 出演:高木史子 村木眞寿美 金子怜史 安藤紘平 今野勉 語り:堀井美香 喜入友浩(TBSアナウンサー) 配給:KADOKAWA 公式サイト: https://hinomaru-movie.com/ Twitter: @tbs_kaihouku © TBSテレビ